18 貴石
「コレが古代遺物……」
エリカはアメジストのペンダントを握りしめる。
「私も驚いたわ。まさか伝説の時代の遺物が存在するなんて……」
エヴァはエリカのかけている紫色に輝く貴石にそっと手を伸ばし触れ、さっと手を離す。
「伝説の時代って、さっき言ってたハウメリスの時代?」
「そうよ。ハウメリスは古い伝承で伝えられているのだけど、誰もその存在を証明できてはいないの。だから伝説だって思われているのよ」
エリカの貴石が確かに古代の遺物であるのなら、それは唯の伝承ではなく実際にあったのだということか?
「俺はハウメリスはあったと確信してる。ディスノミア財団の連中もそうだ。エリスの民にあった者ならそう思うだろう。ちょっといいか?」
そう言うと、ジンはエリカの首からペンダントを外した。
何やら貴石をじっと調べているようだ。
「――――――――?」
ジンが話しているが、何を言っているのか全く理解できない。
「何を言ってるのかわからないよ、ジン」
エリカはそう訴えるが、ジン達にもそれは同じらしいことが窺がい知れた。
「――――」
ジンが何か言いながらペンダントを返すと、エリカは首にひっかける。
「言葉わかるか?」
「今はわかるよ」
ジンはやっぱりなと、納得している。
「やっぱりそれは古代遺物か……もしくは……否、それを知るにはやっぱりあそこに行くしかないな……」
ジンの言葉を聞いていたエヴァはうーんと考え込んでいる。
「エリックにあそこに行けるかしら? だって、ちょっと特殊な方法でしか行けないじゃない」
二人の会話を聞いていたエリカは、なんだか厄介事の予感をうすうす感じながら尋ねる。
「何その特殊な方法でしか行けない場所って?」
「月が二つあったから」
ジンとエヴァは同時にその言葉を発する。
「え?」
答えになっていないことを返され、しばらく頭がフリーズする。
「月が二つあったから? それって何か意味があるの?」
エリカがそう言うと、ふーっとため息を吐いてジンが苦笑する。
「やっぱりその意味知らないで言っていたんだな」
「何?」
訳がわからない。その言葉は確か以前エリカが言った言葉だった。でも、それはこの世界が異世界だと気付いたのは『月が二つあった』のを見たから、だから確信した、という意味で言ったまでのことだ。
あの時、ジンが嫌に怒った様子で『エリスから来たのか!』と言っていたのはこの言葉を発した時だったか――?
「お前が秘密の符牒を知っているのは、偶然か、それとも必然か……俺はお前にジーナに行ってもらいたいと思っている」
「ジーナって……?」
初めて聞く地名だ。
「エリスの民の隠れ里だ」
――エリスか。どうしてもエリカはエリスとハウメアを廻る件の渦中に巻き込まれてしまう運命らしい。イーシュ川でこの貴石を拾ったのが始まりか。
エリカはハァーとため息を吐くとこう言った。
「で、そのジーナにはどうやって行ったらいいの?」
エリカの質問にエヴァはどうしたものかとジンを窺い見る。確か特殊な方法でしかさっきエヴァは言っていたような……まさか凄く厄介な方法か?
エヴァのそんな様子を見て、エリカは不安になる。
「うーんと、今はまだ行けないと思うの。これからその準備をしなければならないわね」
「……準備?」
「ええ、準備。エリック、貴方にはドラゴンを魔従化してもらうわよ」
……何かの冗談だろうか?
「今、ドラゴンって聞こえたような……」
エリカの弱々しい声を聞いてジンは少し心配そうな顔をしている。
「今すぐに行けということじゃないから安心しろ。他にも方法がないわけじゃないんだ」
ジンの言葉にエリカは顔色を取り戻した。是非その他の方法とやらでお願いしたい。
「他のやつでお願いします」
きっぱりとエリカは宣言した。
「まぁ、しょうがないわね……異世界人だという貴方にここまでやってもらうのは申し訳ないのだけど、きっと貴方が喚ばれたのにもエリスは関わっていると思うから、全くの無関係ではないと思うのよ。何の方法であれ、貴方にはジーナに行ってもらうわね」
エヴァの言葉で、思いも寄らなかったことに気づく。
(私の召喚にはエリスが関わっている……?)
召喚されたことに怒りや不満はないが、なぜエリカだったのかそれが知りたいと思った。
丁度仕事も辞めようとしていたし、先立つものさえあったなら、ワーキングホリデーでもして人生の休憩をしたいと思っていたエリカは異世界召喚に異存はない。海外留学よりももっと遠い異世界留学に来たと思えばいいだけだ。
「そうだね。この世界に来たのにエリスが関わっているかもしれないなら、僕はもう被害者ってやつだ。全然恨みはないけど、理由は知りたいからジーナに行くよ。そこで何かわかるんでしょう?」
エリカの言葉に二人は笑顔になる。
それもそうだ、二人はクリスティーヌという娘を失くしているのだ……もしかしたらエリスへと?
エリカはジンとエヴァの助けになりたいと願う。家族を取り戻したいと思う人に協力したいと思うのは人として当然のことだろう。そう思っていた。この時は。