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君を喚ぶ声  作者: 佳月紫華
第1章 はじまり
17/45

17 失踪した愛娘

「クリスティーヌは、15年前、飛鉱艇に乗ったまま消えてしまったんだ」

「飛鉱艇って、もしかして毎朝あのコンパスの近くを飛ぶあの……?」


 この世界ハウメアでは飛鉱艇と呼ばれる、魔力を込めた鉱石、魔鉱を浮力としている飛行艇がある。

 ジンの日課であり、今はエリカがその役目を課題と称して行っている飛鉱艇の航空進路を遺跡コンパスから逸らす役目を始めたのは、その飛鉱艇の忽然の消失がきっかけではなかったか――?


「そう、あの日、クリスティーヌはジャックと共に隣国に住んでいる祖父母たちを訪問する為に、飛鉱艇に乗ったんだ……」





 ――まだ俺達がヴァレンディア王国の王都に暮らしていた頃、俺は魔法騎士団で団長として王国に仕えていたが、エヴァはジャックとクリスティーヌの双子を身ごもってからは、今まで勤めていた学術院の副校長職を辞して家に入った。


 毎年、隣国の俺の実家にいる両親を家族で訪ねることが、建国記念長期休暇の恒例だった。

 まだ、ジャックやクリスティーヌがエヴァのお腹の中にいた時から家族全員で行っていたのだが、その年はエヴァが3人目を身ごもっていて、しかも丁度つわりが辛い時期だったこともあって、大事を取って俺とエヴァは残ることにしたんだ。


 始めは家族全員、今年は行かないと決めたが、クリスティーヌがどうしても祖父母に会いに行きたいと泣いて訴えるので、毎年行っているし、俺の両親も空港に迎えに来ることを快諾してくれたこともあって、ジャックと二人で行かせることになった。


 エヴァを家に残して、飛鉱艇の艇着場へ二人を送って行き、飛鉱艇を見送った俺の前に、クリスティーヌと一緒に飛鉱艇に乗ったはずのジャックが、ヒョッコリ現れた。


『ジャック! どうしてここにいるんだ。もう飛鉱艇は離陸しただろう。クリスティーヌは何処だ?』


 もう飛び立った飛鉱艇に乗っているはずのジャックが独り戻って来たのだ。クリスティーヌの姿は見えない。


『クリスはちゃんと乗ってるよ、ヒコーテーに。僕、ママが心配だったんだもん!』


 ジャックはエヴァの具合が悪いことを心配して、一人飛鉱艇を降りてしまったらしい。

 ママッ子のジャックは体調の優れないエヴァの様子が気懸りで、どうしても離れられないとギリギリになってから降艇し、クリスティーヌはワタシは大丈夫と、送り出してくれたのが、ことの顛末だった。


『本当に困った子供たちだ』


 ジンとエヴァはそんな二人の子供たちのことを笑って、クリスティーヌの飛鉱艇が無事、隣国に着くことを願った。




 


「――だが、クリスティーヌの乗った飛鉱艇は祖父母の元に着くことはなかった。バスティ山脈の辺りで艇ごと忽然と消えてしまったと、色々と調べていくうちにわかったんだ」

「それでこのスビアコ村に移って来たの?」


 エリカが尋ねると、ジンは「ああ、そうだ」と答える。


「それから王都の魔法騎士団の団長職を副団長だったヴィンスに引き継ぎ、副団長には俺の従騎士だった男をつけた。俺は飛鉱艇失踪のことを調べるうちにディスノミア財団という組織の存在に行き当たったんだ」

「ディスノミア財団……それって?」

「エリスとハウメアの再統合を目的としている組織だ」


(……エリスとハウメアの再統合? 2つの星の統合って、そんなこと可能なのか。それに再統合と言うからには昔は統合されていた……ということなのか?)


「……そのディスノミア財団と飛鉱艇の消失にどんな関係が?」

 話がまだ見えないエリカはジンに結論を促す。


「それは……まだはっきりとはわからないんだ。あれから俺は密かに組織の会員として入り込んだが、有力者の多いディスノミア財団でそれなりの重大な秘密を握る地位を手に入れるにはまだまだ年季が足りないらしい。あと一歩で手が届きそうなんだが、なかなか尻尾を掴ませてもらえなくてな」


 ジンはそう言うとエリカの目を真っ直ぐ見つめてこう言う。


「だから、お前の協力が必要なんだ。クリスティーヌを見つけたいのもあるが、今は財団の目的も俺としては気に入らないし、エリスの隠れ里にいる一部のエリス人たちもそれは望んでいない。俺は独自に作った防人の代表としてお前に協力を頼みたい。引き受けてくれないか?」


 何に協力すればいいのだろう。あまりにも複雑で、難解な問題にエリカが協力して何か役立つことなどあるのだろうか?なぜエリカなのか、それがどうしてもわからない。


「なぜ、僕なんです?僕は何も特別な力などないし、この世界ハウメア、そしてエリスのことも何一つわからないちっぽけな唯の異世界からの迷い人です。僕に頼む訳を教えてください」


 エリカはずっと疑問に思っていたことをきり出す。


「それはお前がその貴石の持ち主だからだ」


 そう言ってジンはエリカの胸元を指差す。服の下に見えないようにかけている大きな紫水晶の貴石がその位置にはあった。


「……この貴石は、なんなんですか?」


 エリカは見えるように貴石を胸元から出すと、ジンと横に並ぶエヴァの方をしっかりと見据え、質問する。


「たぶんそれは、俺たちの知っている貴石とは少し違う。きっとハウメリスの時代に作られたものだろう。もう現存する古代遺物はほとんどないと聞いていたが、まさかお前がそれを持っているなんて……」

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