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君を喚ぶ声  作者: 佳月紫華
第1章 はじまり
16/45

16 無断外泊

 昨日酒場で出会い酒盛りを一緒にした相手、そして酔っぱらってそのまま一泊お世話になったウィル・アークライトの泊まっている宿屋にて、正座してエリック・カスティリオーニだと自己紹介した望月エリカは、『縁があるらしいな』とのウィルの言葉に、意味がわからず、うーんと首を捻っている。

「縁があるって……どうゆうこと?」

 わからず聞いたエリカに、ウィルは澄ました顔だ。

「秘密」

 クスっと笑い、誤魔化された。

「はぁ?」

 ムッとしたエリカは、ベットで布団を被っているいるウィルに向かって渾身の飛び蹴りをかまそうとするが、軽く躱されてしまい、不発に終わった。

「おい、エリックいきなり蹴るなよ」

「ウィルが秘密とか言うからムカついたんだよっ」

「まぁ、そのうち会うんじゃねぇ? お前がスティリオーニ家の人間ならな」

 そう言ってウィルは蹴りを外されベットで伸びているエリカの髪をガシガシと撫でる。

「やめろよ! 僕はこれでもウィルよりも年上の27……」

「27? お前が?」

 つい本当の年齢を言いかける。だが、不思議なことに遺跡の巨石に触れ、身体が10歳程若返ってしまったことを思い出す。

「いや、17歳だけど……」

 もごもごと小さな声で訂正する。

 まだ若返ったことに慣れない。

「17歳だったら6つも下じゃないか。生意気だな。」

「……はははは。ごめん、ウィル若く見えるね」

(4歳も年下か。この姿なら彼の方が年上だけど)

 実年齢で考えて言ってしまった発言を笑って誤魔化すエリカに、ウィルは「変な奴だなぁ」と言ってまたガシガシと髪をぐちゃぐちゃに撫でまわす。

「やめろよ! ウィル」

 エリカはウィルの堅い筋肉に覆われた腹を押して逃れようとする。

「ははっ。だって弟が出来たみたいでなんか構いたくなるんだよ。お前見てると」

 エリカは年上で女の自分が弟かよ、と複雑な気分で深いため息をつく。

「弟じゃないし」

 そう言い拗ねるエリカにウィルはしょうがないなぁ、とベットの上の布団をかぶせ自分はソファへと移る。

「拗ねるなよ、エリック。まぁ、まだ二日酔いだろ? ベットは友達になった記念に譲ってやるからもう少し寝てろよ。俺も寝る」

 エリカは友達という言葉にピクっとベットの中で反応し、にこっと微笑んだ。この世界に来てから初めての同世代の人間の友達ができたことが物凄く嬉しかった。

「ありがとう」

 笑顔でそう呟いたエリカを見てウィルは顔を逸らしてソファの毛布に潜りこんだ。

「……俺、何ドキっとしてるんだ。相手は男だぞ……」

「何か言った?」

「な、何でもねぇよ。おやすみ!」

「おやすみぃ」


 ☆ ☆ ☆


 ハッと目を覚ましたエリカは腕時計を見る。


(7時43分。あれから3時間程寝たのか)


 ソファでまだ寝ているウィルを起こさぬよう、そうっと帰る準備をする。

 少し寝たことで、さっきよりも酒でボーっとしていた頭も働くようになる。冷静になると、酒場の飼育小屋で待っているみぃたんのことも気になってきたし、何よりスビアコの酒場の家にいるジン達に何の連絡もせずに無断外泊をしてしまったことに今更ながら気付き、早く帰らなければ、と焦ってしまう。


(この世界って携帯とかないからこんな風に予定外の行動をしちゃいけなったんだ。連絡の取りようがないから、きっと心配してるよね……)


 エリカは鞄に入れていたスケジュール帳の後ろの方の紙を破り、ボールペンでスラスラとヴァレンディア語で書き置きを書く。




 ウィル

 

 ありがとう。

 僕は、もう帰ります。

 もうすぐこの町の学究院へ通う予定なので

 また、会えたらいいな。

                エリック




 ベット横のナイトテーブルに書き置きを置き、そうっと部屋を出た。

 宿から出ると、幸いなことに酒場はすぐ近くに在ってすぐ見つけられた。

 隣の飼育小屋へ真っ直ぐ向かうとみぃたんが丸くなって眠っていた。エリカはそっとみぃたんの背をトントンと叩き、みぃたんを起こす。


「みぃたん、ごめんね? こんなに待たせちゃって……帰ったらネズーラとパキーナの実とかみぃたんの好物いっぱい用意するね」

「みぃ」

 少し恨めしそうな声で、でも身体をエリカへ摺り寄せてくる。


「帰ろうか。きっとジン達、心配してるよ。怒ってるよね……あたしって勝手だ。居候の身なのにこんなんじゃ駄目だね」

「みぃー」


 飼育小屋の入口で、飼育員さんに追加の預かり賃を払い、エリカとみぃたんは外に出た。

 宿の近くの中心街の店はまだ開いてなく、人通りも少ない。リーラベルの外れに行こうと、マーケットの方を抜けようとすると、そちらは朝から活気に満ちていた。


「今度、学校が始まったら、マーケットも覗いてみようね?」

「みぃー」


 マーケットを抜け、郊外に出たエリカは、みぃたんの手綱から手を離し、鞍へ跨る。


「お願いね? みぃたん」

「みぃー」


 みぃたんに乗ったエリカはスビアコの酒場へと急いだ。


 リーラベルからの山道を駈け登りスビアコへと帰って来たエリカが、みぃたんを連れ、飼育小屋に入って行くと、僅かな時も経たずに閉じられた扉が開く。

 扉の前には、強張った顔のジンが立っていた。


「あ……ジン、ごめんなさい。無断外泊して。私、身勝手な行動だったって反省してます。こんなにお世話になっているのに迷惑かけて本当にすみませんでした!」


 ガバっと頭を下げる。気が動転していつも注意される女言葉になってしまう。


「何してたんだっ! 帰ってこないから如何したのかと思って心配してたんだぞ!」

「ごめんなさい……酒場でつい飲みすぎて、寝てしまって……」


 ジンはハァと深いため息をついて、

「無事で良かった」

 と寂しげな微笑を浮かべた。


「本当にごめんなさい」

「エヴァも心配してる。早く家に入って顔を見せてやれ」

 そう言うとジンは先に母屋の方へと向かった。


「……はい」


(ジンには物凄く怒られると思ったのに……意外と優しい。だからこそ凄く心配かけたことが分かってしまった。逆に思いっきり怒ってくれた方が私の気は晴れたかも……)


「もう心配かけないようにしなきゃ……ね」


 そう独り言ちて、エリカも母屋の方へと向かった。

 酒場の母屋に入っていくと、エリカはエヴァに抱き竦められた。


「心配したのよ。どうして、いなくなったの。何処にいたの。どうして、どうして、どうして……」

 そう言うとエヴァはそのまま泣き崩れてしまった。


 エリカは床に座り込んでしまったエヴァに跪き、そっとエヴァの右手を取りギュッと握る。


「ごめんなさい、心配かけて。何も考えずに身勝手に飲み潰れていました……エヴァ? 泣かないで……もうこんな風に予定外の行動を取るのは慎むから、心配かけないようにするから」

「貴方までいなくなったかと思った。もうあんな思いはしたくないの。心配かけないで……エリック」

 エリカが握っている手の上にエヴァは左手をそっと重ねた。

「クリスティーヌのようにいなくなったりしないで」

 深い悲しみの溢れる菫色の瞳でエリカを真っ直ぐ見つめ、涙で擦れた声で、そう言った。


 部屋の壁を背に立ち二人の様子を見守っていたジンがこちらに近づいてくる。エヴァを支え立たせると、腰を抱いて2階へとエスコートしていく。


「エヴァが落ち着いたら戻ってくる。それまで食卓にある朝食を食べてろ。まだ何も食べていないんだろう?」

「はい。エヴァ、ごめんね」


 食卓にはエリカの分の朝食が用意されていた。

 様々な果物をダイスに切り、ふわふわのほんのり甘いチーズ味のクリームが乗っているそれは、ハウメアでエリカが好きな料理の一つだった。

 クコ茶をカップに注ぐと独りテーブルで食事を摂る。

 しばらくするとジンがエヴァを伴って階段から下りてきた。


「ごめんなさい。取り乱してしまって」

「謝らないで。悪いのは僕だから」


 お互いに人心地がつき、エヴァもエリカも冷静さを取り戻していた。

 談話室へ移り、三人はソファに腰を落ち着ける。


「クリスティーヌは俺たちの娘なんだ……」


 ジンはエヴァの背に腕をまわしたままそう言い、彼らの娘クリスティーヌのことを語り始めた。

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