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君を喚ぶ声  作者: 佳月紫華
第1章 はじまり
13/45

13 日課

 エリカの日課、朝の散歩。みぃたんの背に乗って、バスティ山のコンパスという通り名の石の遺跡まで走る。

 スビアコ村の外れにあるイーシュ川を架ける長橋を渡っていくのだが、そこが第一の難関である。あの橋の袂には甲冑さん達が長剣を持って通る者を拒んでいるのだ。

 それはコンパスでの不可解な失踪を防ぐためにジンが防人として警備兵を置き命じたことであったが、その警備を掻い潜ってあの遺跡まで行くことをエリカに命じたのもまたジンであった。


 時間指定は早朝の朝食前。警備兵が持ち場を離れる一瞬を狙ってあの橋を行く。

 朝、昼、夜、そして真夜中と警備兵が持ち場を離れる時間があることは、以前、バスティ山からこのスビアコ村へ下るときに調べていたのでエリカは知っていた。指定された早朝のその時間は、丁度朝の警備兵のいなくなる時間が重なる。

 警備兵が橋を離れる僅かな一瞬を狙って、エリカはみぃたんと共にコンパスへと向かった。


 コンパスではエリスの謎に繋がると思われる白く輝く巨石を調べる。

 以前、この石に触れた時、エリカの肉体は10年程若返り、逆に魔従キャロのみぃたんは年を重ね成長を遂げた。その為、この石に触れることに躊躇していたのだが、エリカが「あっ」と止めようと手を伸ばすも間に合わなく、みぃたんが触れてしまったが、何の変化もなかった。

 エリカも恐る恐る触れてみたところ、身体に特に変化はない。以前は浮かび上がった文字も、現れることはなく、目の前の白い石塔は沈黙を守っていた。

 この石を調べていたエリカだったが、目的はこの石を調べることではなかった。

 調べたのはついでだ。


 ジンからは、この遺跡に着いたら、遺跡の真ん中から、上空に向かって光の魔法を思いっきり放てと言われていた。

 時間は、午前5時きっかり。『コンパスの6番目と12番目の巨石の対角線上にある十字の模様が入った石板の上で垂直に真上に光を放て』と言われたとおりに実行しようと腕時計で時間を確かめる。

 この世界――ハウメア、ヴァレンディア王国でも時間の概念は地球と一緒らしく、一日24時間というのは同じらしい。

 エリカのしていた腕時計がだんだんとずれて行き、時計として機能しなかったことはどう説明すればいいのか、疑問に思い、時計を見せ、ジンに尋ねたところ、このように動く時計というものを見たことが初めてだったようで、ジンは驚いていた。

 この世界で時を刻む時計は、時を示す針の代わりに魔法で動く光線が時を示しているものであるらしい。

 エリカは慣れ親しんでいる時計の仕組みを簡単に説明すると、どうやら地球とハウメアの時間の進む速さに大分ずれがあるようだった。ハウメアの時の方がゆったり進んでいるらしく、魔法の得意なエヴァが魔法で時計の針の進み方をハウメアの時の刻み方に合わせてくれた。

 時計は5時を示す。

 ジンに言われた通り真上に光の魔法を思いっきり放つ。

 一瞬、薄暗い空に眩しい閃光がまたたき、あたりを照らす。

 普段はジンの日課であるらしいこれは、魔法を習いたてのエリカの練習にピッタリだ、ということで毎日する課題の一つとなった。

「これは何の為にしているの?」と尋ねたところ、このあたりが空路になっている飛鉱艇とやらが、遺跡の上空を間違って飛ばないようにするためにやっている、とジンが話してくれた。

 何年も前に運悪くこの遺跡の真上を通った飛鉱艇が忽然と姿を消してしまったことがあってから、その消えた時間帯の早朝に危険を知らす合図を放つことになったらしい。

 エリカは、以前は思いっきり魔法を放つ良い練習だ、程度に考えて行っていたが、それを聞いてからは、責任の重みに背筋が伸びた。

 それにしてもジンは容赦がない。コンパスからの帰り道、あの橋には甲冑さんこと警備兵が2人、長剣を持って橋を封鎖している。

 ジンの仕事をしばらくの間引き継ぐということで、コンパスへ行く許可を貰っているが、警備兵には知らせてないようだ。

 なるべく衝突は避けるように、警備兵のいない時間帯を狙って行きの時間は、合わずに済んでいるが、帰りは昼まで待たないと鉢合わせしてしまうのは避けられない。結局、午前は他にも色々と日課があるので警備兵と攻防を繰り広げることとなる。


「そこ通してー!」

「こらっ!ここは立ち入り禁止だぞ!どうやって入り込んだんだ?!待てっ」


 みぃたんの背に乗って橋を走り抜けようとするエリカに、警備兵は容赦なくを向け長剣を向けてくる。刺さったらエリカもみぃたんもひとたまりもない。寸前のところで、ひらりと飛んで躱しつつ、橋を走り抜ける。


「ふぅ、今日も無事完了」


 橋を渡りきったところで、やっと朝の散歩にしてはちょっとハードな訓練つきの日課が終わる。

 バスティ山に登ったついでに時間に余裕のある日は、木の実や野草などをついでに採ってくることもある。酒場と併設している商人ギルドの簡単な依頼にそれらの採取があるので、ちょこちょこ小銭を稼ぐために採ってくるのだ。

 基本的に、ジンの日課、武術の練習、エヴァの魔法学術理論の講義、家事手伝いをしながらの魔法演習の時間以外は、今のところ自由時間なので、ギルドで簡単そうな依頼を受けて、小金稼ぎをしている。

 今年1年は、生活費タダなので、頑張っただけ溜められそうだ。

 もう少しここの生活に慣れたら、バスティ山脈の麓にある大きな町リーラベルの学校に通う予定だ。そして、ジャックの女装、変装の授業も追々やらなくてはならないらしい。ジャックは昨夜遅くに王都の学校へと戻って行った。幸運なことに、ジャックは今、王都の全寮制の学術院という大学院のようなところで学んでいるらしく、しばらくは顔を合わさずに済みそうだ。


「よし、今日もいっぱい小銭を稼ぐぞ」


 エリカはそう言い、エヴァの作る朝食の待つ酒場へ急ぐ。

 ススから貰った漆黒の貴石を失くさないように耳飾りに加工してもらうには、まだまだお金が足りないようだ。朝食を食べて、魔法での片づけが終わったら、少しだけ時間が空く。そうしたら、ギルドでエリカにも出来そうな依頼がないか見てみよう。

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