12 魔法
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ありがとうございます。だいぶ長い連載になりそうですが、お付き合いお願いします。
「エヴァ、契約しておいて悪いんだけど、僕、魔法なんて使えないよ? それで魔法騎士団になんて入れるものなの?」
エリカは、ずっと疑問に思っていたことをエヴァに尋ねる。
「それなんだけど、たぶんなんとかなると思うわ。貴方は貴石をもってるらしいって、ジンが言っていたのよ。今朝、貴方の部屋を訪ねた時に見たって……」
「……貴石? ソレと魔法にどんな関係が?」
(貴石……って、ススも言ってた。きっと紫水晶のことだ)
エリカは思わずギュッと服の下のペンダントを掴む。
「やっぱり持っているのね……貴石には故人の能力が宿っているの。その持ち主になれば、そのまま故人の能力を受け継ぐことができる。だからエリック、貴方はきっと魔法が使えるようになるわ」
エリカは、エヴァの言葉の意味を、熟慮を重ね、推し量る。
(今朝、ジンが訪ねて来た時、ジンの言葉が全くわからなかった。でも、ペンダントを放ってよこされ、ソレをかけたら、ジンの言葉がわかった。それも故人の能力を受け継いだから……?)
「きっと僕は、その故人の能力を受け継いでいるから、魔法が使えるはず……って言っているんだね?」
「そうよ、きっと貴方は素晴らしい魔法使いになれるわ」
エヴァは、確信に満ちた声で、断言した。
エリカはそっとペンダントに触れ、故人の能力が宿ると謂われる貴石、という貴重な拾い物をした自分の数奇な運命に驚愕を隠せなかった。
「そう……この貴石ってそんなに凄い物だったんだね。知らなかった。素晴らしい魔法使いになれるかはわからないけど、この石に恥じないように頑張ってみるよ」
エリカはそう言い、自分を奮い立たせた。
「貴方なら出来ると思うわ、ビシビシ扱くから覚悟してちょうだいね」
「はい!」
☆ ☆ ☆
「私が、食器を洗うのを見ていてね、ゆっくりやるから良く見ているのよ?」
そう言うと、エヴァは水の溜まったシンクの中に食器を浮かせてどんどん入れていく。泡立つ水の中ではガチャガチャと食器の洗う音がする。
「うわー、すごい! 食器洗い機みたい」
エリカはエヴァが手を使わずに食器を洗っていく様子を、食い入るように見つめる。
「よしっと。これで上げれば終了よ」
エヴァは、シンクの中から食器を浮かせ上げながら、食器を浮かしたまま棚に戻していく。良く見ていると、泡立つシンクから出すと同時に泡を洗い流し、それとほぼ同時に乾燥もさせているようだ。食器たちは、まるで自分たちの戻るべき場所がわかっているかのように、どんどん片付けられていく。
「……凄すぎる。みんなこの国の人は魔法で洗っているの?」
エリカは、コレが標準じゃ困る、と切実な思いでエヴァに尋ねた。
「残念ながら、厳密にいえば違うと言うしかないわね。でも、大体の家で食器をシンクの中で洗うことは魔法でやっていると思うわ。私みたいに、洗いから、すすぎ、乾燥、片づけまで一度に出来る人はあまりいないかもしれないわね。私はわりと魔法が得意なほうだし、なるべく面倒な家事はやりたくないから効率的な魔法での工程を研究したのよ」
エヴァの言葉に安堵するが、きっとエリカに求める基準はエヴァの方法で出来るようになることなのだろう。
「僕にコレが出来るようになれと?」
「もちろんよ。今日から私と一緒になんでも魔法でやるようにしてもらうわよ」
あぁ、恐れていたとおりだった。エヴァ、スパルタ過ぎるよ。
「まずは、見て、どんな魔法が使われているか、自分だったらどうするかをイメージして。貴方は貴石の主だから、イメージが攫めれば出来るはずだから」
「はい、頑張ります」
☆ ☆ ☆
「ギャー!!」
エリカは魔法で溜めたお湯の中に入って、あまりの熱さに悲鳴を上げた。
はぁ、また失敗だ。
ちゃんとお湯に手を入れて温度を確かめてお風呂に入ったのに、底の方が熱かったみたいだ。おかしい。
(お湯は温度が高い方が、上にくるはずでしょ? なんで科学を裏切りやがるんだ、この魔法は)
「もう! なんでこうなるのよっ!」
「エリック、女言葉は禁止」
エリカの叫び声を聞きつけ、浴室を覗いたエヴァから厳しいチェックが入る。
恒例となりつつあるこの光景。
あれからエリカはなんでも魔法でやる生活を送らされている。大切なのはイメージ、そしてその仕組みを知るために魔法学術的な理論もまた、エヴァからみっちり仕込まれている。
生活魔法って難しい。微妙な位置の調節とか、人肌くらいの温度調節とか……私はドーンと派手な大魔法の方が得意みたいだ。あとは、箒で空を飛べたら最高なんだけど、それをエヴァに話したら『何ソレ?箒で空が飛べるはずないでしょ』と言われてしまった。
きっと箒で空を飛べる仕組みを理論化して飛んでみせる、とエリカは決意した。