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File. END ローズな彼女と一緒なら……

 雨音が聞こえてこない。湿った地面の感触がない。温かい、柔らかな感触だ。これが天国ってやつか? 花の香りがする。薔薇の香りだ。天国には薔薇が咲いているもんなんだな。目を開けると、青空が広がっていた。雲ひとつない青空だ。久しぶりだが、ひどく憎々しい空だな。あの雨が無かったかのように、お天道様が出てやがる。やっぱりここは天国なんだな。俺には似合わないぜ。

「デビット、起きて!」

ロゼッタの声が聞こえる。俺はゆっくりと起き上がった。空とは裏腹に、灰色の世界が広がっている。何かに吹き飛ばされたように、建物が削り取られていた。灰まみれになった街が、俺の目の前に広がっている。なんだ、まだ地獄にいたのか。乾いた地面は雨の痕跡を消し、この街全体の出来事がなかった事にされたみてぇだ。だが、俺の隣にはロゼッタがいた。灰を振り落とし、ロゼッタは涙を浮かべて俺に抱きつく。

「よかった……。よかったぁ!」

「……どうも俺は悪運がいいらしいな。天国も地獄もお断りみてぇだ」

ロゼッタは涙で俺の肩を濡らす。茎みたいな感触だった皮膚も、今は柔らかいと感じられた。日の光に照らされ、ロゼッタの胸元の青い薔薇は鮮やかに咲いている。何もかもが消えた街に、俺とロゼッタだけがいた。


「ロゼッタ、お前はこれからどうする?」

「……」

研究所も、街もなくなった今、ロゼッタは帰る場所がない。今だけじゃない。これからも、ロゼッタを受け入れてくれる居場所はないかもしれない。ロゼッタもそれを感じ取っているのか俯いた。

「お前はもう自由だ。お前を縛るものはもう何もないんだぞ」

「私は、デビットと一緒ならどこに行ってもいい。だから、お願い! 私を連れて行って!」

ロゼッタは俺の手を強く握る。こりゃあ離せって言っても離してくれなさそうだな。というより、俺も離したくはなかった。死ぬ事ができないなら、生き残っちまうなら、俺もロゼッタと一緒に生きていたい。

「楽な旅じゃないぜ。俺達、はみ出し者はまともには見えないだろうからよ」

「それでもいい! デビットと一緒なら何も怖くないわ!」

俺の一歩に合わせて、ロゼッタも一歩踏み出す。彼女の緑色の瞳は、陽にあたって一層輝いた。ロゼッタはクロロノイドだ。それは揺るがない事実。緑色の肌も、身体中に巻き付く蔓も、胸元の青い薔薇も、隠す事はできない。だけど、今の彼女は、最初に会った時よりも人間らしく見えた。

「そりゃあ心強いな。じゃあ、ここじゃないどこかに行くとするか」

「うん!」

ロゼッタは微笑み、軽い足取りで俺に付いて行く。晴れた青空の元で、俺達はどこかへと向かっていた。アテはないが、行き先はあの街よりはマシな場所ばかりだろう。長い休暇が取れちまったな。ジュニファー、お前との願いがこんな形で叶っちまったよ。


 俺の悪夢も……。もう、拳銃を片手に持つ事も、微睡む事も許されない生活も終わった。雨宿りは終わりだ。今は、晴空の下でロゼッタと一緒に歩く。それだけで幸せだった。

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