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SAX PISTOLS

作者: 軒原寧々
掲載日:2026/05/09

たしかこれは初夏のあたりの話だった。


ここ、市立三丸高校は、この辺りでもエリートなやつらが集まる進学校である。

まあエリートと言っても幅広いもんで、努力でのし上がってきたガリ勉から、才能と金の七光のズルい奴まで多種多様存在する。


そこの吹奏楽部に、一年生の瀧川茉由(たきがわまゆ)がいた。彼女は成績優秀な美少女で、才能も努力も満遍ない、一見優等生なサックス弾きである。女というよりかは女の子という言葉が似合う小さな女子で、クリンとした大きく艶やかな目にツンとした唇が魅惑的である。

身体もたいして主張しておらず、総合的に可愛いらしい子である。

しかしながら彼女はRacisteであり、知的障害やインキャを伝染病だと思い込んでいる。また、アニメや漫画のオタクを重度に嫌い、メガネをつけている男を見るだけで拒否反応を引き起こすという、カンプチアのポル・ポト並に偏見で捻じ曲がっている人間である。


そんな彼女に嫌われていたのがこれまた一年生の北山陵(きたやまりょう)である。

彼はあの女子とは違い、心優しい男子だ。優しいオーラがすごく際立ち、才能とかがある周りの人間とは違い、努力でのし上がってきた下剋上の武将並の力強さがあるコントラバス弾きだ。

しかし、彼は天然パーマでそのうえメガネである。顔もイケメンとは言えないだろう。

さらに彼はアニメオタクであって、よくアニメイトに行っているところを目撃されている。

そんな彼を周りの人々は良く言うが、茉由はそれが気に食わなかった。

当然彼は茉由に嫌がらせを受け、あることないことを噂されたり近寄るだけで茉由はハンカチで口を押さえたり、また近くで陰口を言われたりもした。

今日もまた、そんな日々だった。




茉由「ねえ、そこのメガネ」


陵「……」


茉由「オマエだよ、オマエ!耳ついてんのかこの野郎」


陵「…ません」


茉由「なにぃー?聞こえないねえ。コントラバス奏者だからかなあ?

まあいいや。譜面台とってきてくんなーい?」


茉由のこのイジリは正直よく分からないが、陵はとりあえずこういう頼みは誰からでも、傲慢なガキからでも、アリでもミジンコでもゾウリムシでも断れないタイプだったので、とりあえず譜面台を取りに行った。


陵「これです。これが譜面台です」


茉由「ふーん

でもいらないや。お前みたいなチー牛が触った譜面台なんて使いたくないし、チー牛菌がうつるわ〜」


そう言って茉由は譜面台を蹴り倒した。


せっかく組み立ててあげたのになんてことするんだ。と陵は思った。

しかし、彼は良心的すぎて彼女に怒りの感情は湧かなかった。良心を持ちすぎるということは時に自分を壊してしまうのかもしれない。


陵はその後に茉由の横を通り過ぎて、コントラバスのほうに戻ろうとした。しかし、茉由が急に大声で泣き出したのだ。


周りで楽器の音に気を取られてさっきの茉由と陵の会話が聴こえなかった部員どもも一斉にこっちを向いてきた。


女部員1「えーっ、なに!?」

女部員2「マユマユどうしたの?大丈夫?」

女部員3「泣かないでマユちゃん」

女部員4「深呼吸、深呼吸」

男部員1「うわ、また面倒な」

男部員2「練習きつすぎて泣いたんちゃうん?」


茉由はこう言った。

「北山くんがぁ、さっき私の肩掴んできて…

私、本当に嫌だったの。でも、北山くん謝ってくれなくて…」


その瞬間、女どもが陵を敵として貶し始めた。


女部員1「うわ、痴漢じゃん!サイテー。」

女部員2「男だからってなんでもしていいと思うなよ」

女部員3「ブスでカスのインキャのくせに純情可憐なマユちゃんを穢してんじゃねえ」

女部員4「殺すぞ」


女というのは恐ろしい生物である。先程まで普通に喋っていたとしても、なんらかの出来事にて、信頼は一瞬で崩れ落ちる。最古の仲間でも簡単に斬り捨てる事は容易だ。筆者は男であるが、この女どもの生態には疑問符と感嘆符が交互に浮かぶ。胸とケツを得た代わりに義理人情を失う生物だ。

しかし、そんな窮地に立たされた陵を救ってくれたのは、いつだって男だった。


男部員1「陵がそんな思いきった事するかね?フツーに」


女部員ども「は?」


男部員1「いや陵はいつも優しいし、ケシカス地面に落とさないし、ティッシュだって必ずもらうし、しおれた花に水筒の水をあげるような人間なんだよ!」


女部員3「いやでもさ、普段は優しくても豹変することってあるくない?普通にさ


男部員2「アイツはそんな事しない。

お前らよりも俺らの方が長くアイツと話してるから分かるけどさ。

アイツ本当に女に興味なくて、最近は嫌いらしいぜ。マジで。

てかこんなアホみたいなことやってる間に練習しねえか?時間が足りなすぎる」


女部員「確かにそうだわ。」


男部員2「ほなら練習する他ないやろ。やろうぜ。それこそが俺らの人生なんやから。」


女部員「ういっす〜」


男部員「ほなやろかー」



喧騒は一瞬にして去った。


茉由「でも待って…

私、北山くんが同じ空間にいること自体が嫌で、集中できないの!!」


また茉由が戦火を灯す。


女部員2「それは、流石に違うくない?

だってうちら普段北山に助けられとるやん。なあ?」


女部員1「そうだね。思い返せばいろいろ掃除とか整理整頓とかやってくれるし、いないとちょっと困るかも。」


女部員3「でも北山は!!」


女部員2「そうなる気持ちは分かる。でも私達が今そうやって部内で対立してたら綺麗なハーモニーは生まれないよ?

それでもいいなら勝手にしとけばいいと思うけどね。」


女部員3「まあそうだな…」


女どもは何故か自然に調和し、自らの作業に戻っていった。

陵は、人という生物の光を感じた。


茉由「お前、覚えてろよ。」

舐めたツラを下げて、茉由は言った。




部活が終わり、彼らは楽器を片付けに楽器庫へと向かった。三高の吹部はまあまあ強豪であるため、彼らの楽器庫は大きい。彼らは、たった一つしかないドアを通り、そこに楽器を置いて帰っていく。今日もそんな日だった。

しかし、茉由と陵にとってはそんな日ではなかった。

なんと、不幸なことに、2人は楽器庫に取り残されてしまったのだ。


茉由は、さっそく口論を始めた。


茉由「お前、忘れてないよな。

あんな屈辱は人生で初めてだよ。


お前さあ、自分の立場分かってる?

私の親は金持ちで、駅近の高層マンションに住んでるワケ。

んで、お前は郊外に住んでんじゃん。

性格がいいからってもてはやされるのは学校だけで、外では金が全てなんだよ?

あんまり調子乗ってると、消しちゃうよ?」


彼女はこう言ったが、これは彼女の経歴を見れば恥ずべき言葉である。

だって彼女は、こう金持ちのように振る舞っているが、実際彼女の父親はスーパーの店長をやっているので、いっとう金持ちだというわけではなく、単に普通によくいる金持ちである。

そんでもっていっとう金持ちな人は高層マンションには住まない。芦屋とか、そのあたりの高級住宅街に住むものだ。

ついでに、彼女は調子乗ってると消すと言ったが、陵の父親は一般的な地方公務員なのでそれは叶わないと思う。


陵「はあ。


瀧川さんには呆れたよ。なぜそこまでして自分の非を認めたくない?

あなたは強い言葉で虚勢を張って楽しいらしいけど、周りからみればそれは愚かなことだよ。


じゃあ。僕はもう帰るから」


茉由「おい、待てやこの野郎!!」


陵はドアを開けようとした。だが、なぜか開かないのだ。

自分の力が足りないのだろうか。でも、体重をかけても開かない。


彼らは、この楽器庫に閉じ込められたのだ。


陵「どうやら僕たち、閉じ込められたらしい。」


茉由「…は?


そんな!お前みたいなオタクと閉じ込められたとか最悪…

死んだ方がマシだわ。ホントに…」


陵「待ってくれ。一旦冷静になろう。

外に助けを求めるべきだ。


ほら、こうやってドアを叩けば…」


陵はドアを3回叩いた。

そうしたら、そのうち、女からの返事が聞こえてきた。

返事は、彼らの絶望を意味した。

それはこの様な内容であった。


「成功だ!

2人とも、よくぞ閉じ込められてくれたな!

ボクはフォークソング部で音楽を研究しているただの女だ…そして今、感情と音楽の関連性について研究している。

そのために、君たちを利用させていただくよ。

ああ、奇跡だ。奇跡すぎるよ。

ボクは君たち2人の関係性をよく知っている。

その関係性を音楽でどのようにグチャグチャにできるか、ハァー。

もう想像しただけでたまんねえよ!

ちなみに、君たちの行動は監視カメラでいつでも監視しているから。ボクが満足するまで君たちはここから出られないから、そこら辺はよろしく。

ボクからはこれだけ。

さあ、2人とも、狂気と愛憎のセッションを60分間無制限でお楽しみを!」


彼女の説明は分かりづらいから要約するが、どうやら2人はかの有名な「情事をしなければ出られない部屋」に閉じ込められたらしい。


当然茉由は噛みついた。


茉由「ハァ!?

狂気と愛憎のセッションって何?しかも女なのに『ボク』?

キモ。障害者なんじゃないの?

もしここから抜け出せたら、その時は死ぬまで殴るから…!」




茉由は貧相な体つきの女だ。その器の小ささは胸とケツと比例しているようで、男にはあまりモテていない。しかし、可愛い可愛いと甘やかされて育ってきたので、姫様気取りなのだ。

ただ、不幸なことに陵はロリコンみたいな人だった。小6の時に仲良くなった女子が好きすぎて、好きすぎて、忘れられず、そのあまり全てに触れたくて、その時の感情(complex)が今の陵に大きく反映されてしまっているのだと思われる。

ちなみに陵は恋バナとかそういうノリが苦手だし、ロリコンがバレれば今までの信頼が水の泡なので、男たちには女嫌いだと嘘をついてきたのである。


陵「…この時が、僕にもやってきたんだ!!」


陵は昂る興奮のままに、茉由に飛び込んだ。


茉由「キャア!!

っ…このクソ野郎!!!!」


茉由は陵にビンタした。

しかし茉由のビンタは弱く、たいして効果はなかった。

いや、陵はそれでさらに興奮したため、逆に効果は抜群だったと言えるだろう。


陵「いやさあ…もう何しても無駄だよ。

僕は君みたいなクソ女に服従するのはやめたんだ。

まるで革命のようだね!!」


陵は笑いながら、茉由にビンタし返した。

今まで虫も殺せなかった弱すぎる男が、初めて人を叩いた瞬間だった。


茉由「ううう…」


茉由は静かに泣き出した。そりゃそうだ。

嫌いな男に強姦されてしまうなんて考えられない屈辱だろう。

しかしこれは報いだ。悪人が罪から逃れられることはない。

悪人は罪に生き、罪に死す。


茉由「はじめては…好きな人と…

やりたかったのに…」


茉由のシャツは剥がされ、白く艶やかな肌と柔軟剤の香る下着が露呈する。

その涙ぼくろに涙が溢れるとき、陵は興奮のあまり息を荒くしてしまう。

茉由にはもう抵抗する気力すら湧かなかった。


陵「ははははは。君の胸を思い浮かべて眠れない日々がいくらあったことか…君が僕のことをこんなにも想ってるのに、君は僕を嫌ってる。これはおかしい!

君とセックスして逮捕されるのなら、僕はそれが本望さ。

ああ、最高だ。生意気な小娘を黙らせて自分のものにする気分はッ!!

今まで味わったことのないカタルシス…やっぱり人に優しくするのなんてただの虚無でしかないし、何も生まないんだよ!」


そして陵がその下着をも剥いでしまおうとしたその瞬間。またしてもあの女の声が聞こえたのだった…


「なんだ!ボクは君たちに性行為をしろだなんて一ミリも言ってないぞ!

狂気と愛憎のセッションと言えば、ふつうジャズだろう。

頭の中真っピンク野郎共が!下ネタなんて、プログレッシブ・ロックと全く真逆の存在なんだよ!

全くこのアホンダラ共。

いいか。お前らは、ジャズをするんだよ。

分かったかボケ!!!」


狂気と愛憎のジャムセッションは、これにてようやく始まりを告げたのであった。

市立三丸高等学校の211号教室(フォークソング部部室)から、表面に「NEVERMIND THE BOLLOCKS, HERE'S THE SAX PISTOLS」と書かれた不審なCDが発見された。

1つ目のトラックには、男女が口喧嘩している様子、2つ目のトラック以降は震えるサックスと、怒りに任せて強く弾いたようなコントラバスが演奏する様子が50分にわたり収録されていた。

容疑者の某N氏は「人間の心理とそれが生み出す音楽がどのように関係しているのかを研究したかっただけだ」と容疑を認めている模様。


(月報三丸 七月号から引用)

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