第2話・変わらぬ笑顔のその下で ~落とすは罪のその深さ~
第2章 幻影人形が穿つのは
第2話・変わらぬ笑顔のその下で ~落とすは罪のその深さ~
訓練場や演習場は各敷地の端の方に、それぞれ広く間隔を開けて設置されている。
そのほとんどが屋外にあるのは、やはり広範囲に影響を与える魔法が存在するから。
狭い室内でできるのはごく基本的な魔法が中心で、あとは屋内での戦闘などを想定した訓練に使われる特殊な造りの訓練場がいくつか。
今日、アインが案内された訓練場もそういった特殊な訓練のための室内訓練場。
石造りの部屋の中央には少し高さのある正円の台座のような、舞台のようなものがあり、アインを促したインスはトンと、軽く床を蹴ってそこに上がった。
アインの身長では、ちょっと高すぎてそこからでは上がれない。
少し困惑した表情を見せたアインに微笑みかけて、スッと腰を落としたインスがひょいと抱き上げ、台座に乗せる。
「ありがとうございます」
「はい。どういたしまして」
ほわっと、少しだけ嬉しそうな表情を見せたアインが、すんなりと礼の言葉を紡いだことにディオネラが目を見張ったが、インスは当たり前のように受け入れるだけ。
ディオネラの驚きように戸惑ったウスニーがこそこそと何やら確認して、口を開いて唖然としていたが、インスは一切気にせず、アインはずっとインスを見つめていて気づきもしない。
そんなアインの様子にも驚きが重なるディオネラから説明されればされるほどウスニーの表情が険しくなっていった。
「さて、それではアイン君」
腰を落とした体勢のまま、アインと視線を合わせるように膝立ちになったインスが、アインの両肩にそっと手を添えて、にこやかに今日の『授業』の説明を始める。
それに気づいて、ウスニーとディオネラの間にも緊張が走った。
「私が主導で行うということは、当然、攻撃魔法の実践です」
「……………ぁ……」
表情を一切変えることなく、にこやかなままで告げられた言葉の意味を理解した瞬間。
アインの顔が青ざめる。
震えた、微かな吐息が唇から零れ落ち、乾いた空気に溶けて消えた。
「今日使ってもらいたいのは、以前にも訓練して貰った初級の精霊魔法です。ごく基本的な、攻撃魔法としては最初に学ぶ、風の刃を生み出す魔法……」
アインの体が微かに震えていることに気づきながらも、一切気にかけることなく、それまでと全く変わらない穏やかさのままで説明を続ける。
「空刃切裂を使って、幻影人形を破壊してもらいます」
「……っ……!?」
明確に、使う魔法を指定された瞬間、アインはびくりと肩を跳ね上げた。
目を見開いて、にこやかな微笑を保ったままのインスを見つめる。
「……げ、……げんえい……にんぎょう……?」
それから、必死に頭を働かせて、インスが言っていることを理解しようと……考えるけれど、聞いたことのない言葉が混ざっていて、何を望まれているのか、分からない。
「幻影人形というのは、影人形の魔法同様、見習い呪師の実践訓練に使われる創造魔法の一種です。影人形とは違って、真っ黒い影のような魔物を作り出すのではなくて……」
声音も、表情も、一切変わらぬままそこまで説明したインスが一旦アインの肩から手を離し、素早く呪文を唱え、呪印を切る。
「幻影人形――子供人」
「……っ……!!」
インスの背後。正円の舞台台座の中央に描き出された創造魔法の魔法陣の中から、子供が三人、姿を現した。
息を飲んだアインが、思わず一歩、後ずさる。
そんなアインを正面から抱きしめて、その耳元でインスが囁いた。
「……さあ、アイン君。あの、子供たちを壊しなさい……」
「……ぃ、んす……さま……?」
優しい声が、ゾッとするほど恐ろしくて、震えあがったアインは掠れた吐息で、インスを呼ぶ。
「幻影人形は、生徒たちに模擬戦闘を経験させるための特殊な敵性人形を作り出す魔法です。あの子供たちを作り出したのは私ですが、あの人形に組み込まれている敵性対象も……私です」
「……ぇ……?」
言っている意味が、分からない。
自分で作った敵性人形の、攻撃目標ともいえる敵性対象も自分自身?
「……分かりませんか……?」
聞かれても、わからない。
曖昧に、ぎこちなく首を横に振ることしかできなくて、声が、喉の奥に張り付いて出てこない。
「……コレは、あの日の再現です……アイン君が、私の制止を振り切って、自分の意思で子供たち命を奪った、あの日の……」
「っ!?」
ひくりと、大きく息を飲む。
同時に体もびくりと大きく震えて、まだ完治に至っていない胸の傷と、治る様子を見せない左腕の怪我に痛みが走る。
ぎゅっと、抱きしめる腕に力を込めて、その動きを抑え込んだインスが、アインの耳元で更に囁く。
優しい、穏やかな声音が甘い毒のように注がれる。
「だから、幻影人形の攻撃対象は私です。安心して下さい。怪我はしません……ただ、精神的なダメージを受けるだけです」
「………ぇ……」
涙が浮かびかかった大きな瞳が、信じられないとばかりにインスを見た。
にこりと笑って、その瞳をまっすぐに見つめて、インスは話を続ける。
「模擬戦闘の訓練なら、直接的に戦わせるのですけれどね……実際に、本当の戦場に出る前に、怪我はしなくても攻撃を受けた際の痛みを体験させるためのものです。ダメージ判定というのですけれど……何度も攻撃を受ければ戦うことができなくなるでしょう? 基本的には戦闘不能となった段階で敗戦判定です」
けれど……と続けられた言葉を、もうこれ以上聞きたくないと思ってしまったのはアインが悪いのか。
それとも、そのすべてを分かった上で、それでも話を続けるインスが悪いのか。
「時々、戦闘不能を超えて死亡判定されるほどのダメージを負う子が出ます……怪我をした。程度ではなく、致命傷を負った。と判断されるということですね……当然、受ける精神的ダメージもただの怪我より重くなります……何度も連続で死亡判定をされると、時々本当に……」
「……っ……!!!???」
あえてそこで言葉を止めると、大きく息を飲んだアインが震えだす。
「……ぃ……インス……さま……?」
まさかと。信じられないと言いたげに、目を見開いたアインがじっと見つめてくるのを、真っ直ぐに受け止めてふわりと微笑む。
「……アイン君。指定した攻撃魔法を使って、幻影人形を破壊して下さい……」
そして、もう一度、何でもないことのように穏やかな声音でそう命じた。
第2章第2話をお読みいただきありがとうございます!
開始前の和やかな雰囲気から一転、インスから告げられた授業内容はアインが最も恐れる「攻撃魔法の実践」でした。
指定された魔法、目の前に創り出された「あの日」と同じ3体の幻影人形、そしてその攻撃対象がインスであるという事実……。
過酷な状況に追い込まれたアインは、果たして魔法を使うことができるのか?
次回もお楽しみに!
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ノリト&ミコト




