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第5話・祈りは深く、儚くて ~誰かの役に立てるなら~

第1章 聖皇国を襲った事実



      第5話・祈りは深く、儚くて ~誰かの役に立てるなら~



 神官呪師学校の敷地内には、いくつかの礼拝堂が存在する。



 神官呪師は、神殿に所属し、神官としての奉仕に当たる傍らで魔法を学び、行使する呪師。



 その活動範囲はほとんど神殿内で、外に出ることはまれ。



 更に、神官としての格がそのまま魔法の結果にも影響を与えるため、常に研鑽し、徳を積むことを求められる。



 そうは言っても人間、常に高潔であり続けることは難しい。



 そんな、心の迷いや堕落。腐敗に陥らないために、日に何度も神と向き合う時間を取ることが推奨されていて、そのために各所に礼拝堂が設けられていた。



 大人数が入れる礼拝堂では、早朝、朝、昼、夕方、夜と一日五回の拝礼の時間が行われ、修業中の神官や呪師らは基本的にこのすべてに参加を義務付けられている。



 神官や呪師というのは、見習いの呪師ではない、魔法を学ぶことのない見習い神官も存在するから。



 ただ、双方の活動域は違うので、神官見習いと、神官呪師見習いが共に礼拝や奉仕に当たるということはない。



 先の事件で生死を彷徨う大怪我をして、二か月近くの入院生活を強いられたアインが学生呪師寮に戻ってすぐ。



 同室の兄弟子であるペルフィー=プリメーシャスに頼んで連れて来て貰ったのが、呪師寮内の外れにある、人がほとんど訪れることのない小礼拝堂だった。



 小礼拝堂は個人やごく少数の人数で利用される小さな礼拝堂で、なおかつ学生呪師寮の外れにあるこの小礼拝堂は、先ほども述べた通りほとんど人が訪れることのない、半ば忘れ去られた場所。



 しかし、定期的に清掃の奉仕は行われるので、薄汚れて壊れかけている、などと言うこともない。



 堂の東側に複十字(ディエルじゅうじ)が設えられた、天窓と出入り口となる扉しかない小さな礼拝堂。



 その小礼拝堂の床に膝を着き、真摯に祈りを捧げるアインを、閉ざされた扉の内側からじっと見守るペルフィーは、その何とも言えない神秘的な雰囲気に圧倒されて、ただただ時間を忘れて見惚れていた。



 アインが着ているのは神官呪師見習い初年生の、グレーの制服。



 サイズが合うものがなくて、一番小さいものの裾や袖を折り曲げ、紐で止めて何とか着られるようにしているせいで洗練された様子は皆無。



 一見黒にしか見えない、深くて濃い紫色の髪はクセもなく、真っ直ぐに伸びて腰を超すほど。



 後ろで緩くひと纏めにされたその髪が、天窓から降り注ぐ陽光に照らされて、その真紫をほんの少し覗かせていた。



 今は閉ざされた瞼の下の瞳も同じ色をしていて、元来色白のこの国の民よりもなお白い、透けるような肌は今はずっと続いている貧血のせいで青ざめても見える。



 神が「丹精を込めてつくり上げた。」と言われても納得するしかない美貌を持った、どこからどう見ても絶世の美少女が、実は少年であることを一目で見抜けるものは皆無。


 

 年齢に関しては、五歳ぐらいだとされている。



 けれど、アインの体格は五歳児の平均より、ずっと小さい。



 逆に、その理解力や言葉遣い、頭の回転などは並みの五歳児を優に超え、呪師学校の最低入学年齢である十三歳の子供さえも上回っている。



 今のアインと会話をして、一体誰が保護された当初は言葉も知らなかったと信じるだろうか?



 しかも、その当初は知りもしなかった言葉を、ほんの数日で会話するのに支障がないほどマスターし、更に一週間もすれば読み書きまでもを完璧に習得したと言って、どれだけの者が信じるだろう?




 けれど実際に、アインはその速度でありとあらゆることを覚え、使いこなせるようになって行った。



 アインに一般教養を教えている教師は、実は呪師ではない普通の神官である女性。



 神殿孤児院の子供たちに同様の教育を授けている神官で、当初彼女は神殿孤児院の子供たちと一緒にアインに授業をすることを提案したという。



 だが、アインには呪師の才があり、しかもその魔力があまりにも多く、かつ魔力を魔力のまま使えてしまう見者けんじゃであったため、神殿孤児院での授業は受けさせられず、かといって神殿孤児院の、呪師ではない子供たちを呪師学校の敷地に入れることもできず、個別授業と決められた。



 結果は、個別授業にして正解。



 孤児院の子供たちと一緒に受けさせていたら、アインの理解の速度に他の子供たちがついてこられず、どちらかを置き去りにした授業となって軋轢が生じるところだった。



 そんなアインは、そのハードな学習スケジュールの隙間を縫うようにして、以前からこうして祈りの時間を取ることが多かった。



 まるで、許しを請うように。



 あるいは、罰されるのを望むかのように。



 ただひたすらに神への祈りを捧げる。



 アインが以前から積極的に祈りの時間を取っていることは知っていたが、その祈りの姿がこれほどまでの神秘性と気高い清らかさを持ったものだったとは、同じ部屋で生活をしているペルフィーも知らなかった。



 降り注ぐ陽光のせいか、あるいはそのたたずまいの神秘性のせいなのか、存在しない羽の幻が見えてきそうなほど。



 何も知らない者が見れば、今、ここで祈りを捧げているのは生きた人間の子供ではなく、もっと神聖な何か……それこそ本当に天使が祈っているのだと思っただろう。



 けれど……



「……アイン……」



 時間を忘れて見惚れていたペルフィーは、ハッと気づいて声をかけた。



 祈りを捧げるアインの左腕、治る様子を一切見せない怪我からの出血が、ジワリと袖に染みを作り始める。



「……ぁ……。ご、ごめんなさい……」



 声をかけられて、同じくハッとしたように顔を上げたアインは、ペルフィーを待たせていたことを思い出して顔色を変える。



 青くなって、身を竦めるようにして謝罪した。



「いや。お前が謝ることはない。俺はお前に付いているのが任せられた役目だし。祈りの時間は大事なものだ。むしろ、中断させて悪かったと思ってる」


「そんなこと……」


「けど……」



 謝る必要はないというペルフィーに反論しかけたアインを黙らせて、歩み寄ったペルフィーは言いながらアインを抱き上げる。



「血が染みて来てる。一度医務室に行くぞ」


「……ぁ……!」



 少し驚いて目を丸くしたアインに、真剣な表情でそう告げると、返事を待たずに歩きだした。



 抱き上げられたままのアインが慌てるが、じっとしていろと言われてぴたりと動きを止める。



「今は急ぎたいから我慢しろ。そのままにしておくわけにはいかないからな」



 早く治療を受けさせたいペルフィーはアインを抱いたまま急ぎ足で呪師寮内を移動した。




 アインの怪我のことは知っていたのに頭から抜けて、見惚れてぼーっとしていたことに、自分で自分が許せないペルフィーは、アインが身を固めたまま動かなくなったことに気づかない。



 焦って、言い方が少しきつくなってしまっていたことも。


 それによってアインが硬直したまま顔色を悪くしたことにも。


 駆け込んだ医務室で、当直の医呪神官が治療を始めるまで気づけなくて、気づいた瞬間、内心で頭を抱えた。



 何も言わず、けれど目だけでチクリとペルフィーを刺す医呪神官も、青ざめて、唇をきゅっと噛んで、俯くアインには優しく声をかけるが、ペルフィーに注意をすることはない。



 それをすれば、なおさらアインが落ち込むと分かっているから、アインの目の前ではできない。



「……もう少し、自分の怪我の状態にも気を配りなさい。集中するのが悪いわけではありませんが、こうやって駆け込むようなことを繰り返すべきではありませんよ? 定期的な処置が必要なのは、君も分かっているのでしょう?」



 ただ、代わりにアインに対して注意を促す。



 けれどその言い方も、仕方ないなというような苦笑混じりで軽い言い方。



 アインに心理的な負担をかけ過ぎないように注意する。



「はい……。ごめんなさい……」


「うん。次からは、もう少し早めに来てくださいね」



 素直に頷いたアインに、小さく笑って言えば、アインもこくりと、もう一度頷く。



「分かりました……。ペルフィー様も……ご迷惑をおかけして……」


「ああ! いや。迷惑なんかかけられてないから、そこは気にしなくていい」



 それから、ペルフィーに対しても再度謝罪をしようとするのを、焦って止めるペルフィーの焦りように、医呪神官がプッと小さく噴き出した。



「アイン君。ペルフィー君は、医呪神官見習いです。アイン君の様子をきちんと観察することは、彼にとっては貴重な勉強の機会ですから、迷惑にはなりませんよ。けれど、だからと言って『患者』の容態の変化に気づけないのは問題ですから、アイン君自身が今、どんな状態なのか、きちんと教えてあげて下さい」


「「……ぇ……?」」



 医呪神官に言われて、目を丸くした二人が顔を見合わせる。



「……確かに? これだけ近くで観察できるのはいい勉強の機会だな?」


「……僕が、どんな状態なのか、お伝えすることがお役に立つんですか……?」


「ペルフィー君はちゃんと聞きなさい。アイン君はちゃんと言いなさい。いいですね?」



 キョトンとする二人に、ますます笑って、医呪神官はそう告げた。



「「……分かりました……」」



 医呪神官に向き直り、こくりと頷いたアインとペルフィーは改めて顔を見合わせる。



「……え、と……?」


「宜しくな? アイン? ちょっとでも何かあったら、教えてくれよ? 俺も聞くからさ」



 そうは言われても、何を言えばいいのかと困惑するアインに対し、にっと笑って見せたペルフィーがそう言えば、ちょっと驚いたようにアインは目を見開く。



「……はい。よろしくお願いします……」


「では、二人とも、そろそろ部屋に戻りなさい」



 ぱちぱちと、数度瞬きをして、薄く笑顔を浮かべたアインがぺこりと頭を下げると。


 話がまとまったのを見て取った医呪神官は二人に退室を許可する。



 はいと頷いて、挨拶をした二人は来た時とは違い、穏やかな雰囲気で医務室を出て行った。


第1章第5話をお読みいただきありがとうございます!


今回は、退院したアインが小礼拝堂で熱心に祈りを捧げるお話でした。


ペルフィーが見惚れてしまうほど静かで美しい祈りの時間でしたが、腕の傷から血が滲んでしまい、慌てて医務室へ駆け込むことに。


医呪神官から優しく諭されつつも、お互いを思いやるアインとペルフィーの間に少しずつ温かい絆が芽生えているのが垣間見えました。


次回からはついにインスとの授業本番が始まります。


ぜひお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【番外編・第3弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意おもいの欠片~

(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第4弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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