第1話・十字架背負う幼子と ~導く大人の問題と~
第1章 聖皇国を襲った事実
第1話・十字架背負う幼子と ~導く大人の問題と~
インス=ラントはまだほんの十八歳の若い皇宮呪師。
けれど、その才覚や保有する魔力量の多さから、皇宮呪師学校入学時には次期皇宮呪師長最大候補と目され、当時、皇宮呪師学校の教員であった皇宮呪師たちによって苛烈なまでの教育を施された。
その結果、討伐への参加が許される十五歳の誕生日以降、まだ学生の内から任務に駆り出され、大人が望む以上の成果を常に出し続けている。
既に実力で言えばインス以上の皇宮呪師は存在せず、万が一、見習いの呪師らが魔法を暴走させた際の『火消し役』を常に務めてきた。
その、インス以上の才の持ち主と目されているのがアインで……だからこそ万が一の火消しが可能と判断されたインスが皇宮呪師側の『実技指導担当教官』としてアインの指導に当たっている。
本来。呪師学校に入学した子供たちは、その学習の進捗速度に合わせて集団で授業を受けるのだが、先にも述べたとおり、アインの才覚はあまりにも規格外。
授業の内容も多岐にわたりすぎている。
それ以前の問題で、呪師学校の最低入学年齢に満たない幼子であるため、初めから個別で授業を受けさせることになっており……しかも十三歳の子供ができない速度ですべてを習得していた。
もし、初年生の子供たちと一緒に授業を受けさせていたら、アインを待たせるか、他の子供たちを置き去りにした授業になってしまうところだった。
そうならなかったのは、かつてインスが皇宮呪師学校に入学した当初、それで大きな問題が起こったから。
「……知っての通り、アイン君は先の事件で、攻撃魔法を使って子供を三人殺しています」
ウスニーの問いかけに対して、重い口を開いたインスの言葉に、張り詰めていた空気がさらに冷たく、鋭くなる。
討伐任務に参加できるのは、十五歳。
更に、その最初のひとつとなる『命』は必ず携帯させた武器を使って、その『手』で直接奪わせる。
その通過儀礼を経て、命の重みと、魔法を使えばそれを簡単に摘み取れてしまうことを体感させる。
けれど、アインはまだ五歳ほどの幼い子供でしかないのに、その最初のひとつをすでに『魔法』を使って奪ってしまっていた。
もちろん、それはアインが望んで行ったことではない。
ジャンヌを狙った魔族に利用され、追い込まれた結果、そうせざるを得なくなったというだけ。
更に、そのアインによって命を奪われた子供たちも魔族に利用され、呪いをかけられていて、たとえアインが殺さなくても、自分たちで殺し合って命を落とす運命だった。
しかもその場合は、魂までもが呪いによって囚われたまま利用されることになったのだから、魂の『救済』と言う意味ではアインの行いは正しい。
その上、アインが子供たちを殺していなければ、今ここにインスも生きてはいなかった。
インスもまた、アインと共に魔族に連れ去られ、子供たちとアインを追い詰める人質として使われた挙句、ジャンヌを魔族の下に運ぶための目印と、魔力の供給源として利用されたのだ。
「……攻撃魔法を使う際。その経験が原因で、失敗する可能性が非常に高い状態です」
静かに続けたインスの言葉に、それはそうだとウスニーもディオネラも頷く。
「今後、皇宮呪師として『攻撃魔法』を学ばせても『使えない』のなら……その分、他の魔法を学ばせた方がいいでしょう……攻撃魔法以外にも、魔法はたくさん。ありますからね……」
告げる声とは裏腹に、表情には隠し切れない憂いが浮かぶ。
確かに、皇宮呪師としての攻撃魔法が使えないのなら、その教育を続ける意味はない。
けれど、アインに求められているのは最低でも『これまで通り』。
すなわち、すべてを網羅すること。
仮に、今すぐは無理だったとしても、いずれまた学びを再開させられることになるだろう。
だからこそ、最初の授業はインスが主導で行う『皇宮呪師としての攻撃魔法の使い方・実践』となる。
「……怪我がまだ治りきっていないことももちろんですが、何よりもその精神的な負担がどれほどのものになるか……予想もつきません……」
万が一、アインが不調を起こした際に迅速な対応ができるように。
そのために医呪神官であるウスニーの参加が求められていた。
「……話は分かったが……」
重い口を開いたウスニーの視線が鋭くインスを見据える。
「お前の方はどうなんだ?」
「はい?」
聞かれて、インスは首を傾げた。
「お前も、先の事件然り。その後も連日の任務で疲労が蓄積した挙句、大怪我をして回復魔法での治療ができなくて昨日まで入院していたのだろう?」
ウスニーの言う通り、インスもまた先の事件で一時生死の境を彷徨い、その後復帰してからも何度も命の危険に晒されるような任務に連日駆り出されていた。
その結果、数日前には回復魔法での治療ができないほど疲弊して、主神殿の医務殿を預かる医呪神官長によって半ば強制的に入院させられていた。
回復魔法は、神官呪師が使う治療のための魔法。
怪我や病気を治すことができる魔法ではあるのだが、その仕組みは患者が持つ治癒力を高めることで治療すると言うもの。
当然、治療される患者側に治癒力と、それを支える体力がなければ治療はできず、最悪魔法をかけたことで体力を使い果たして命を落とす結果になりかねない。
だからこそ神殿では、魔法に頼らない医療技術の研究や薬の開発などといった医学の発展・進歩に積極的に取り組み、日夜研鑽に励んでいる。
医呪神官として業務に当たる神官呪師が軒並み三十代に近い外見以上の者ばかりなのはそれが原因で、学習期間が非常に長くかかる特徴があった。
「私はもう大丈夫ですよ。怪我の治療もできましたし……昨日一日休ませていただいたので体力的にも回復しています」
その治療に当たってはまた別の問題が出たせいで、当初、医呪神官長が考えていたのとは違う結果になってしまったのだが、それはそれ。
今はその問題なども解決したおかげでインスの方には問題はない。
「……身体は、ということだな?」
返答に、インスを見据えるウスニーの目が睨むようなものに変わった。
第1章第1話をお読みいただきありがとうございます。
アインが先の事件で抱えてしまった心の傷と、あえて「攻撃魔法の実践」から授業を再開するというインスの決断。
攻撃魔法を使うと失敗する可能性が高いと分かっていながら、インスはなぜそれを最初の授業に選んだのか。
そして「身体は、ということだな?」と、インスの見えない無理を鋭く見抜くウスニー。
過酷な運命を背負う幼子を、大人たちはどう導くのか。
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
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【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
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皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
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【番外編・第3弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
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ノリト&ミコト




