第5話・第三者が見る現実は ~隠されている真実に~
第3章 最初の一歩を改めて
第5話・第三者が見る現実は ~隠されている真実に~
(一体全体、どんな授業をしたんだよ!?)
ぐっすりと眠っているアインの目元に残る涙の跡に、同室の兄弟子であるペルフィー=プリメーシャスは押さえきれない憤りを感じた。
アインは、まだ幼い子供なのだ。
その、軽い小さな体で、一生懸命に毎日たくさん勉強して、訓練して……時間が少しでもあればお祈りもして……まるで、何かに追い立てられているかのように過ごしていた。
二か月ほど前に、皇宮で行われた授業で事故が起こり、皇宮にある神殿の医務殿に入院していたアインは、また別の大きな事故に巻き込まれて大怪我をした。
ペルフィーが聞いているのは入院中のアインも巻き込まれる事故があった、ということと、同じ事故で皇宮呪師のインス=ラントも大怪我をして、二人が主神殿の医務殿に転院した、という話。
けれど、それだけではないのだろう、というのはアインの様子を見ていればわかる。
アインは嘘や隠し事が苦手だ。
いや、悪いことだと思っている、といった方が正確か……
誤魔化す、というのも下手で、思考停止したように動きが止まる。
(……変だ、変だとは思っていたけど……)
医務殿に入院中のアインの様子を見ろ、と言われて一度見舞いに行ったペルフィーは、退院間近のはずなのに顔色の悪すぎるアインを目にして驚いた。
そして、左腕の……恐ろしいほど大きな魔力。
怪我が治っていないようだ、というのはすぐにわかって、その理由が傷口に残る魔力なのだろう、ということも分かった。
一切、何の説明もしてもらえないが、自分で考えて、感じ取って、パズルのピースを集めるように情報を精査して行けば……
真相とまではいかなくても、ある程度の事情は分かる。
いや、何となく想像がつく、といった方が近いか……
(……間違いない……何か、俺みたいな、一介の見習いが知っちゃいけない事件があったんだ……)
アインはそれに巻き込まれたのだろう。
それを、口外できないから、だれにも相談することもできなくて……
なのに、これまでと同じように過ごさなくては行けなくて……
(っ。まだ、怪我は治り切ってもいないのに……!)
治るのかどうかすらもわからない左腕の怪我だけではなく、アインは胸に、刺されたような怪我が残っている。
最初にそれを目にした瞬間、何とか平静を保った自分を褒めてやりたい。
だって、その怪我は明らかに……
(……刃物によるものだった……偶然、刃物が胸に刺さる事故って、なんだよ? アインが居たはずなのは皇宮医務殿だろ? 騎士団の訓練場じゃない……)
これが、騎士団での武術訓練の最中に起きた事故だった、と言われれば、まだ納得できる。
けれど、アインは皇宮医務殿に入院中だったのだ。
騎士団の訓練場になんて、行っている筈がない。
(……まさか、皇女殿下の護衛騎士団長がまたアインに剣でも突き付けたのか……?)
皇孫皇女であるジャンヌの護衛騎士団長、ファン卿ディアスが、アインが初めて皇宮に……皇宮呪師としての学習までさせられることになって訪れた日に……いきなり剣を振り下ろした事件は……目撃者が多すぎて神殿の奥にある神官呪師学校にまで噂として流れてきていた。
だから、またファンがアインを殺そうとして……それも、不審な気配がしたとかいう訳の分からない理由で……剣を振るったと考える者が出ても不思議はない。
特に、ファンと会ったこともない神殿の者は、その為人も知らないのだから当然だ。
(……神殿護衛官の人たちから聞いた話や……クロードの話からしても、理由なく子供を斬るとは思えないけれど……)
アインを保護したクロードはファンに熱烈にスカウトされてジャンヌの護衛騎士団にも籍を置いている。
だから、クロードは当然ファンとの付き合いがあるし、神殿護衛官らも一応は騎士団の一つに所属する形にはなるので、他の騎士団の団長クラスの為人を知っている。
彼らの話に聞くファンと、いきなりアインに剣を振り下ろしたファンの噂が一致しない。
(……本当に……)
どうなっているのか分からない。
そして、できれば知りたくもない。
真相を知らされる、ということは、それにどっぷり巻き込まれ、逃げられなくなるということ。
一介の神官呪師見習いには荷が重すぎる。
ペルフィーは、自分にできるのはアインの寮での世話だけだな……と独り言ちて、それ以上は無理だ……と半ば諦めの境地で溜め息を吐く。
せめて、アインが部屋の中でだけでも、安心して息ができるように……
少しでも、安らげる時間を取らせてやれるように。
(……そのくらいしか、できなくてごめんな……アイン……)
眠っているアインを起こさないように、声に出すことなく呟いて、ペルフィーはそっと、アインの肩に毛布を掛けた。
第3章第5話をお読みいただきありがとうございます!
今回は、寮の部屋で眠るアインを見守る同室の兄弟子・ペルフィーの視点のお話でした。
大人たちの間で共有された重すぎる「国家機密」ですが、事情を何も知らない第三者から見ると、アインを取り巻く状況はこれほどまでに不自然で異様なのだと改めて突きつけられましたね。
持ち前の観察眼と情報収集能力で、アインの身体に残る不自然な傷跡や日々の様子から、彼がとんでもない事件に巻き込まれたのだと察して理不尽さに憤るペルフィー。
真相を知れば自分も引きずり込まれると理解した上で、深くは追求せず、せめてこの部屋の中だけはアインが安心できる場所にしてやろうと決意する彼の「不器用な優しさ」が見えます。
大人たちの思惑とは別のところで、アインを気遣う確かな絆が育っていることに心温まるお話でした。
次回はついにエピローグです。
大人たちの報告の行方をお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【第2部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)
【番外編・第1弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~
(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)
【番外編・第2弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力の残滓~
(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)
【番外編・第3弾はこちら】
皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
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【第4弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




