第1話・放つは《風》の鋭き刃 ~蠢く『風』を押さえ込み~
第3章 最初の一歩を改めて
第1話・放つは《風》の鋭き刃 ~蠢く『風』を押さえ込み~
幻影人形の子供たちを、アインは改めて……否、初めて真正面から見据える。
恐怖に引き攣り、泣き出しそうで泣けない……したくもないことをさせられて、けれどもそうしないと殺されそうで……
あの時の子供たちも、きっとこんな顔をしていたのだろうとふと思う。
だって、誰だって、死にたいなんて思わない。
殺されたくなんてないし、早く家に帰って、家族に会いたい。
大好きな、大切な人に抱き付いて、安心したいに決まっている。
けれど、それが叶わないことも……きっと何となくわかってしまっていて……
(……きっと、殺したくもなかったんだと……思いたいのは、僕の勝手な望みでしかないのかな……?)
悲鳴のような叫び声。
しっかりと、両手で握りしめ、胸の前で構えられたナイフを体で固定して。
恐怖に引き攣った顔の、絶望しきった瞳を、見つめる。
ぎゅっと、インスに抱きしめられて、あの時自分は、こんなにも強く、抱き着いていたんだなと、思う。
床を蹴って走る三体の幻影人形に向かって、右手を翳す。
一度、大きく息を吸って、吐いて……今にも飛び出してきそうな心臓を、少しだけでも落ち着かせる。
全然、上手くはいかなかったけれど、気持ちは少し、落ち着いた。
「……アイン君……」
呼び掛けるインスの声に、アインの目からぽろりと涙が零れ落ちる。
息が震えて、上手く呪文が唱えられない。
ほんの少し、呼び掛けるだけの、ごく簡単な詠唱でしかないのに……だからあの時、すぐに構築できたのに!
「……アイン君……」
もう一度。先ほどとは少し違う感じでインスに呼ばれて、ほんの一瞬。瞼を閉じた。
もうすぐ、四度目の刃が届く。
「っ……」
迷っている暇なんて、もうない。
ここで、できなかったら、インス様が――!
口の中で、素早く呪文を唱える。
途端に、左の腕に残る、風の神剣が掠めてできた傷が熱くなったけれど、気にかけている余裕はない。
(((……っ……!?)))
ハッと、インスたちが息を飲む。
暴走しそうな強大な魔力を感知し、一気に緊張した。
けれど……
(……邪魔をしないで……!)
アインは心の中で叫んで、蠢く風を押さえ込む。
今、欲しいのは、違う。
だって、使うのは初級の風の精霊魔法。
だから、そんな力じゃない!
風の神剣の魔力、なんていう、恐ろしい力じゃない!!
欲しいのは……!
「空刃切裂!」
意思を持って宣言された『合図の言葉』と共に、アインの、その小さな掌から放たれた見えない刃が幻影人形を切り刻む。
それを、アインは自分の意思ですべてをきちんと見る、見届ける。
あの日と同じように、全身を切り刻まれて、飛ばされた首が地面に落ちて転がって、光を失った瞳と、真っ直ぐに目を合わせる。
背筋を這い上がる恐怖と、抗いがたい吐き気をグッと歯を噛みしめて押さえ込む。
そして……
ゆらりと揺れた子供の姿が、空気に溶けて消えていく。
魔法の残滓がすべて再び魔力に還元されて世界に還っていく。
「……アイン君……」
シンと静まり返った訓練場に、インスの声がやさしく響く。
「……ぅ……っ。……く……っ」
ぎゅっと、インスの胸に顔を押し付け、必死に嗚咽を堪えるアインをやさしく撫でて、宥めて……
「……よく、頑張りました……」
告げたインスのその言葉に、アインは一度、大きく息を飲んだ。
第3章第1話をお読みいただきありがとうございます!
インスが限界を迎える中、ついに覚悟を決めたアインが、あの日と同じ絶望的な光景……迫り来る幻影人形たちを「初めて」真正面から見据えます。
恐怖と悲しみに足が竦みそうになりながらも、インスを守るために必死で心を落ち着かせようとするアイン。
さらに途中、アインの左腕に残る「風の神剣の魔力」が暴走の兆しを見せます。
震えながらも確かな一歩を踏み出す決死の魔法行使。
目を背けたくなるような光景から逃げず、しっかりと自分の選択の結末を見届けます。
そして、静まり返った訓練場に響くインスの優しい声……。
過酷な授業もいよいよ結末へ。
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
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姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】
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皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)
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【第4弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




