第5話・惑う心に注ぎ込む ~断たれた退路のその先に~
第2章 幻影人形が穿つのは
第5話・惑う心に注ぎ込む ~断たれた退路のその先に~
ぽろぽろと、零れる雫が増えて行き。
震える小さな体が、それでも歯を食いしばって、前を向く。
(……三回目……流石にそろそろ限界か……?)
様子を、少し離れたところからディオネラと共に見つめるウスニーは、チラリとインスに視線を向ける。
既に、三度インスは死亡判定となるダメージを受けていて、流石に体の震えが隠せなくなってきていた。
もちろん、その腕に抱かれているアインが気づかないはずもなく。
声もなく泣き続けて、ぎゅっとインスにしがみついている。
ウスニーから向けられた視線に、当然気づいているインスは、微かな頷きで返すとアインに最終通告を突きつける。
「……アイン君。次で、最後です……」
「……ぇ……?」
見上げたインスの顔が、白く青ざめて、震える体の熱が、ずいぶんと冷たくなって……けれど、声音は一切揺らぐことなく、向けられる微笑も、やさしい眼差しも、時折、力が入る抱きしめてくれている腕も……変わっていないように見えて……
「……っ……!?」
息を、飲む。
いつの間に? こんなに?
アインは、見えざるものを見る目を持っている。
本来、人には視認できない魔力を、あるいは、精神を……
物質の姿かたちを持たない、世界の眩いばかりの輝きを、どこまでも暗く呑み込む闇さえも。
そのすべてを、見ようとすれば見える。
常にその情報のただ中にいてはおかしくなってしまいそうで、だから普段は見ないようにしているから……
よほど強い、眩い光やよほど深い、暗い闇以外は、気づけないけれど……
「……いんすさま……?」
いつの間にか、何度も繰り返したせいだろう。
インスの体の中で、肉体という、物質の中で、本来であれば守られている精神体……心を具現するための体が、崩れかけている。
これ以上、否。次に殺されれば、もう、復元できなくなると分かった。
「……次に、アイン君ができなければ、今後、私がする授業はありません……」
インスの言葉に、納得したくないけれども、納得する。
だって、次に出来なかったら……!
「……もちろん、ここまででやめても、かまいませんよ? どちらにしろ、できないのなら、私の授業がなくなるだけです……」
でも、そうすれば、少なくとも……
「……アイン君……」
まるで、アインの揺らぎを見抜いているかのように、インスがふわりと微笑んで、やさしく両手でアインの頬を包み込む。
そっと、耳元に唇を近づけて、内緒話をするように、他の誰にも聞こえない、他の誰にも見られないように、囁く。
「……言ったでしょう? この先、何があろうとも、私は君を、独りにはしません……」
アインが大きく息を飲む。
「たとえ、一時的には、物理的な距離ができてしまったとしても、ずっと、君を想っていますよ……そして……かならず、また、君の元に戻りましょう……絶対に……」
「……インス様……」
唇を遠ざけ、微笑んで見つめるインスを見上げる、アインの顔つきが変わっていた。
怯えて、震えて、必死になって縋っていた声にも、力が戻る。
「どうしますか?」
問いかけに、ほんの一瞬だけ、怯えと迷いを瞳に浮かべる。
けれど……
「……続けます……」
大きく被りを振って、答えた言葉は、明確な意思を持って発せられていた。
ふわりと微笑んで、インスは頷く。
「……最後です……。アイン君。指定した攻撃魔法を使って、幻影人形を破壊しなさい」
「……はい……」
限界まで傷ついているとは思えない、冴えわたる声の指令に、これまでにはない、強い意志を持った声が、はっきりと頷く。
「「……っ……!!」」
違いを、ウスニーもディオネラも……四人にそれぞれついている護衛官もはっきりと感じ取る。
「……本当に、最後だぞ? これ以上は許可できない……」
「分かっていますよ。私も……アイン君も、ね……」
真剣に言うウスニーに、鮮やかな笑みを見せてインスは頷いた。
「……始めます……」
それから、一度、そっと息を飲んで、合図を出す。
両手でナイフを握りしめ、悲鳴のような叫びを上げて、幻影人形の子供たちが走り出した。
第2章第5話をお読みいただきありがとうございます!
幻影人形からの攻撃を受け続け、インスの体がいよいよ限界を迎えようとする極限状態。
インスが傷ついていくのを目の当たりにし、パニックになってただ泣くことしかできなかったアイン。
限界が近づくインスから「次で最後」と告げられ、アインはインスの本当の「危機」を悟ります。
逃げ出したい恐怖と葛藤する中、インスがアインだけに聞こえるように囁いた言葉が、アインの心に強い火を灯しました。
震える声を振り絞るのではなく、はっきりと「続けます」と前を向いたアインの成長と決意……。
いよいよ最後の試練。
覚悟を決めたアインは魔法を放てるのか?
次回もお楽しみに!
【第1部はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】
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皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意の欠片~
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ノリト&ミコト




