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第4話・完璧すぎる再現と ~救いのようで救いではない~

第2章 幻影人形ビジョン・ドールが穿つのは



      第4話・完璧すぎる再現と ~救いのようで救いではない~



 あの日、魔族に連れ込まれた暗い、石造りの狭い部屋で、呪いにかけられ、殺し合う運命を強要された子供たち……アインよりも倍は年上であろう子供たちは二つの条件を与えられていた。



 一つはもちろん「お互いを殺しあえ。」と言うもの。



 けれど、その前に、魔族が魔法で拘束したインスを先に殺すようにと指定した。



 魔族がインスにかけた拘束魔法は、細い糸のような形状の魔力の束で、時間経過でインスの体に食い込み、いずれは断ち切る凶悪さを持っていて……捕縛の糸に殺されるのが先か、それとも子供たちに殺されるのが先かという極限の状況。



 数日前に生命力まで消費するほどの、大量の魔力を強制的に奪われて、まだ魔力が回復しきってもいなかった上に、拘束された状態で無理やり使ったインスの魔法では、十三人全員を範囲に取り込めなくて……



 生き残った子供が三人。



 その三人と、全く同じ姿形をした幻影人形を前に、震えて、喉を詰まらせたアインは目を見開いてただ見つめることしかできない。



 あの時は、本当に時間がなかった。



 インスは魔力切れで体調も最悪。



 捕縛の糸に食い込まれた全身が血に染まり、狙いも定まっていないとはいえ、何の遠慮も無く振り回される子供たちの持つ両刃のナイフが、何度もインスを掠め、その体を切り刻んでいく。



 怯えた子供の叫び声と、苦痛に染まったインスの途切れがちな息遣いと、不意に上がった悲鳴とに……アインは考えている余裕をなくして、無我夢中で構築した魔法を、解き放った。



 止めようと、手を汚させまいと呼ぶインスの声が聞こえたのは、もう魔法を放ってからで……自分が何をしたのかを、その時になって漸く理解して……



 あまりの恐怖に意識が飛んだ。



 気づいた時には、魔族が作った魔剣に心は囚われ、抜け殻になった体は皇孫皇女であるジャンヌを刺して……()()()と、強く思った。



 もう、これ以上。誰かを傷つけたくない。



 もう、これ以上。何かを壊したくない。



 もう、これ以上……



 自分は……居ては、いけないのだと、()()()()()



 存在することが罪である。



 神さまからもそう()()()()いたのに……どうして、ずっとずっと、居ても良いと、許して貰えていると、思い込んでいたのか……



 つうっと、頬を伝う雫を、そっとインスが指先で拭う。



 そのぬくもりは、ずっと……暗い闇の底に閉じ込められていた時から全く変わらない、やさしいあたたかさ。



 なのに……



(……インスさま……? どう、して……?)



 そんな、声なき声の問いかけに気づいているかのように、ふわりと優しくほほ笑んだまま、インスはアインを突き落とす。



「……始めましょうか。頑張ってくださいね。アイン君……」


「……っ!!!!」



 優しく抱きしめてくれる、腕のぬくもりを知っている。



 そっと撫でてくれる、手のやさしさを知っている。



 脈打つ鼓動を聞いていると、すごく安心できて……



 その、柔らかな微笑を向けられて、あたたかな声音で呼ばれると……神さまが『居ない者』とした自分の()()()でさえも、とてもきれいな、宝物のようで……



 大事な、大事なもののように、扱ってくれるのが嬉しくて……



 なのに、どうして?



 叫ぶ声が耳の奥に響く。



 あの日と同じ、恐慌状態に陥った、子供たちの悲鳴。



 しっかりと、両手でナイフを握りしめ、胸の前で固定して、少し離れたところから……助走まで付けて、刺し貫こうと、駆けてくる。



 あの日と同じ、全く同じ動きだと、気づく。



「……ど……して……?」



 あの時、インスは拘束されていて、自分の真後ろで、ナイフを構えて走ってくる子供たちの姿なんて、見えなかったはずなのに……



 どうして、()()()()()()()()()()



 呆然と、ただ茫然と見つめるうちに、幻影人形の子供たちは、その手のナイフでインスを刺した。



「……っ……!」



 びくりと、インスの体が震えて、悲鳴を飲み込むように、息を詰まらせる。



 一人の持つナイフは、正確に、背中側から心臓を貫いていて、躊躇うことなく、三人共が刺したナイフを……抜く。



 一瞬だけ、アインを抱きしめる手に力が入って……堪えきれない悲鳴が微かに唇から零れるのが、耳に刺さる。



(……死亡判定、一回目……やはり、最初からは動けませんね……)



 インスはそっと、細く息を吐き出して痛みを逃す。



 心の内で数を数えて、宥めるようにアインの背を撫でる。



「……さあ、アイン君……自分の意思で、選び取りなさい……」



 冷たい汗が、体を冷やす。



 けれど声音は、揺らさない。



 変わらぬ穏やかさで、アインを()()()()()



「……ぃ、んす……さま……?」


「……それとも、どうしても、できませんか?」



 呆然と呼ぶ、アインの目の前では、()()()()に戻った子供たちが、再びナイフを構えていた。



 繰り返されるのだと、嫌でも理解させられる。



 自分が、何かを()()()()()()……



「……ダメなら、ダメで仕方ありません……皇宮呪師の攻撃魔法を学ぶのをやめるのなら、それはそれでいいでしょう……ただ、私がアイン君の授業にかかわることがなくなるだけです」


「……っ……!?」



 それは逃げ道のようで、逃げ道ではない選択肢。



「皇宮呪師としての勉強は、今後は全部、アムス校長に教えて頂くことになるでしょう……そちらを選んでも、大丈夫ですよ?」



 微笑むインスを、信じられない思いで見つめる。



「……ぁ……ぼ、く……」


「……どうしますか……?」



 やめますか?



 続けますか?



 言外の問いかけに、震えて、わななく唇が、微かに動いて言葉を刻む。



「……つ、づけ……たぃ……です……」



 続けて、ちゃんと、できるのか? とか。



 そんなこと、何も考えられない。



 ただ、()()()()()()()が嫌だと思ったら……それしか言えなくなった。



 にこりと笑ったインスが一つ頷いて。



「……では、もう一度……」



 合図と同時に、幻影人形の子供たちが再び走り出した。


第2章第4話をお読みいただきありがとうございます!


いよいよ始まった過酷な授業


最も恐れていた過去の完全再現を前に、すっかり恐慌状態に陥ってしまうアイン。


目の前で繰り返されるのは、決して思い出したくない「あの日」の絶望的な光景。


幻影人形からの攻撃(ダメージ判定)を自ら受け続けながらも、決して微笑みを崩さず、アインに「逃げるか、向き合うか」の究極の選択を迫るインス。


逃げ道として提示された「授業をやめる」という選択肢。


しかし、それが大好きなインスとの別れを意味すると悟ったアインは、震える声で一つの決断を下します。


優しい腕に抱かれながら最も残酷な猛毒を注ぎ込まれる極限状態の中で、アインが涙と恐怖の果てに絞り出した「答え」――。


退路を断たれたアインはどう動くのか?


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【番外編・第3弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意おもいの欠片~

(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日12時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第4弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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