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プロローグ・静かな白に揺れる黒~医務殿に集う呪師たち~

序 章



     プロローグ・静かな白に揺れる黒~医務殿に集う呪師たち~



 静まり返った皇宮内神殿の医務殿にこつり。こつり。と石造りの廊下を歩く靴音が規則的に響く。



 動きに合わせてふわりと裾が揺れる黒いローブは皇宮呪師こうぐうじゅしの制服。



 身に纏うローブの黒さとは逆に、肩甲骨の辺りまである髪は青みのかかった銀色。


 癖のない真っ直ぐな髪を左側で緩く結んで、毛先を体の前に流していた。


 細見で、女性的とも言える優し気な風貌の中で、赤みを帯びた紫色の瞳が鮮やかだ。



 白一色に近い医務殿で、ローブの黒はあまりにも異質。



 けれどその髪色の明るさのせいか、それともその風貌のおかげか、妙に周囲に馴染んで見えた。



 

 皇宮内にある神殿。それが皇宮内神殿と呼ばれる場所。


 その中の医務殿は『皇宮医務殿』とも呼ばれ、主神殿の医務殿と呼び分けられる。



 皇宮医務殿は、皇族を除くすべての皇宮関係者が利用可能な医療施設。


 基本的には一次治療を行う場所で、あまりにも重篤な場合は主神殿の医務殿へと転院される。


 そうは言っても入院設備等も整っており、数日程度の入院ならば可能だ。




 皇宮内のすべての者が利用可能との言葉通り、早朝から深夜まで、様々な人員がちょっとした怪我の治療や軽い不調の相談に訪れたり。



 討伐任務に当たった騎士団や呪師団の負傷者などが運び込まれたり……場合によっては訓練中の怪我や不調で運び込まれたりすることがあって、連日連夜、人の出入りが多い。



 そんな、にぎやかな外来棟に併設された事務棟は、さすがに静けさを保っており、この皇宮医務殿の長官である医呪(いじゅ)神官・ウスニー=メンテが使っている執務室周辺も、神殿護衛官が静かに警備に当たっているだけで、人気もなくしんと静まり返っている。



 執務室の前で足を止めた皇宮呪師のインス=ラントは、軽くノックをして返事を待ち、いらえを受けてから静かに中へと身を滑り込ませた。



 部屋に居たのは茶色の髪と青灰色の瞳を持つ四十手前ほどの外見の男と、ふんわりとしたウェーブがかかった淡いピンク色の髪と明るい翠色の瞳をした四十代ほどの女性。



 この皇宮医務殿の長官であるウスニーと、皇宮呪師学校の校長である女性の呪師・ディオネラ=アムス。



 医呪神官を表す白いローブ姿のウスニーが手前側。


 皇宮呪師の黒いローブ姿のディオネラが窓を背に応接セットのソファに座って歓談していた。



 ディオネラとインスは、同じ皇宮呪師とはいっても性別も所属も違う。



 だから、インスが纏っているのは実戦に配属される男性用の制服。立ち襟で前ボタンのローブ。



 対して、ディオネラが纏っているのは内勤を中心とする女性用のドレスタイプのローブで、更にその上から皇宮呪師学校の教員を示すケープを羽織っている。



 ウスニーとディオネラ。


 この二人に対して、今日、ここに集まってくれるように頼んだのはインス自身だった。



「すみません。遅くなりました」



 先に居た二人に対し、インスは軽く頭を下げる。



「いや。時間にはまだ早いだろう?」


「そうですよ。私が早く来ただけです」



 軽く手を振って気にするなと返したウスニーと、朗らかに微笑んで告げるディオネラにもう一度謝意を伝えたインスが応接セットに着き、ウスニーの秘書官がお茶の準備を整えて部屋を出るのを待つ。



 三人だけになったところで、それまでの穏やかな空気が一瞬で消え去った。



 一度、全員が一口お茶を飲んで、静かにカップをテーブルに戻す。



「主神殿から依頼があったが……明日行われる()()()の授業に参加して欲しいって?」



 それから、まず最初に口火を切ったのはウスニー。



 皇宮で行われる見習い呪師の授業はもちろん『皇宮呪師』としてのもの。


 神官呪師しんかんじゅしであるウスニーが同席するのは本来あり得ない。



 皇宮呪師とは、黒魔法を得意とし、皇宮に勤める魔法の使い手。


 対して神官呪師は、白魔法を得意とし神殿に仕える神官を兼ねる魔法の使い手。



 神話の時代。人間の女呪師がその魔法の力を悪用し、魔族と化し、大陸の守護神である女神と争った逸話から、この大陸において魔法の使い手たる『呪師』は監視され、管理される存在。



 魔法を学ぶことが許されるのも、教えることが許されるのも、それぞれの適性に合わせた教育施設でのみ。



 それ以外の場所での授与は極刑だし、呪師の才があると判明している者はその監視体制の中から逃げようとすれば殺される。



 皇宮呪師の才がある者は皇宮内に設置された『皇宮呪師学校』で、神官呪師の才がある者は神殿内に設置された『神官呪師学校』で、それぞれ十三歳の誕生日を迎えて以降の子供たちが『学校敷地内』とされる範囲の『学生呪師寮』で集団生活を営みながら教育を受ける。



 一人前の呪師となって卒業してからはそれぞれ、皇宮呪師なら皇宮に、神官呪師なら神殿に所属し、学び、得た知識と技術を用いてそれぞれの役目を果たすことになる。



 しかし、先ほどウスニーが名を上げた『アイン』と呼ばれる少年だけは、この枠組みから逸脱していた。



 その子供は、皇都・アンシェで違法に人身売買を行っていた裏家業の者から逃れてきた、記憶を持たない幼子だった。



 一応は五歳ほどとして扱ってはいるが、それよりも幼くも見える小柄な体格。


 なのに、落ち着いてからの受け応えや理解度は五歳の子供を優に超える。



 生まれも、自分の名前も、どこから来たのかも、どうして皇都に居たのかも何も覚えていない、初めは言葉すら通じなかった迷い児。



 その容姿は、神が『丹精を込めてつくり上げた』と言われても納得の美貌で、裏家業の者たちが値を吊り上げ、高値で売ろうと画策していたのも理解でき、何とも言えない複雑な心境に陥る。



 肌の色は白く透き通って、元来色白のこの国(エスパルダ)の民の中にあっても群を抜く。



 それとは対照的に濃い色の髪は、パッと見では黒にしか見えない。


 けれども、光に透かしてよく見ると、この辺りでは見たこともない深くて濃い紫色だと分かる。


 長さは腰を優に超すほどもあり、癖のないそれを後ろで緩くひと纏めにしていることが多い。



 同じ色の瞳は、闇の中にあっても光を見通すような神秘的な輝きを宿す。



 人間では唯一、魔力を()()()()()使うことができ、見えないものを見ることのできるその瞳は『見者けんじゃ』と呼ばれる特殊な能力を持っていて……



 更に、感情の高ぶりで暴走した魔力は、保護された先であった神殿孤児院の一室を破壊してもあまりあるほどに莫大。



 当然。身元照会は行われた。



 だが、自分のことを何も覚えていない幼い子供から聞き出せることは何もなく。


 どこから来たのかも、どうやって来たのかも何もわからないまま……


 放置するにはあまりにも危険であると判断され、早急にその膨大な魔力の制御を学ばせる必要に迫られた。



 幸いだったのが、落ち着きを取り戻して以降のアインは、大人が一方的に決めた事を素直に受け入れ、なおかつそれを理解し、実行できるだけの理解力と、努力を厭わない性質を持っていたこと。



 その上、その才覚までも桁外れで、より『安全管理』が望めるとして入れられた神殿側での学習のほか、皇宮側での学習にも同時についてこられるだけの能力を有していた。



 神官呪師としてだけではもったいないと、皇宮呪師としての修業も、更には武芸の才覚までも見せたため、幼いがゆえに足りていない体づくりもかねて簡単な武術の訓練も。


 そしてもちろん、一般的な基礎教育までもを同時にこなすことになってしまった結果……



『早朝から深夜まで』という幼子にはありえないほどのハードスケジュールとなってしまったのだが、それでもアインはそれにずっとついてきていた。



 けれど、今からおよそ二か月ほど前。



 エスパルダ聖皇国の皇孫皇女であり、大陸の守護神である女神・ディエルの加護を受けた巫女姫であるジャンヌ。



 ジニア・プローフ・ジャネット皇女殿下の命を狙う魔族・アーグによる襲撃に巻き込まれ、重傷を負ったアインは一時生死の境を彷徨い……ほんの三日前に漸く退院が認められたところ。



 退院したとはいっても、まだ怪我が完治したわけではなく、けれどもアインの復学を望む声があるのも事実で……


 退院後、最初の授業が明日、インス主導で行われる予定になっていた。


番外編第4弾、開始です!


序章をお読みいただきありがとうございます。


長かった入院生活を終え、ついに退院の日を迎えたアイン。


しかし、大人たちの密談からも分かるように、彼を待ち受けているのは決して平穏な日常ではありません。


ウスニーやディオネラといった大人たちを集め、静かに、そして周到に準備を進めている「最初の授業」には、インスなりの重い覚悟が込められています。


まだ心身に傷を抱えたままのアインに、インスは一体何をさせようとしているのか。


そして、大人たちは何を見届けることになるのか。


次回もお楽しみに!


【第1部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第1部・レッド・フレイムの呪い】

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【第2部はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~【第2部・レッド・フレイムの残照】

(https://ncode.syosetu.com/n5488lq/)


【番外編・第1弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞①~悪夢の海で瞑る翳・代償と贖罪の狭間で望まれる~

(https://ncode.syosetu.com/n5697ln/)


【番外編・第2弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞②~滞留するのは魔力ちからの残滓~

(https://ncode.syosetu.com/n6684lr/)


【番外編・第3弾はこちら】


皇宮呪師は護りたい!聖皇国列伝秘聞③~重なり合うのは悪意おもいの欠片~

(https://ncode.syosetu.com/n5078lu/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは本日22時から、毎日昼と夜、1日2話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第4弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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