実鶴と和美
実鶴は丁寧だが手際良くリンゴを剥いている。皮に実がほとんど付いていない。和美は感心して、
「お上手ですね」
実鶴は続けながら、
「貴方こそ、今まで沢山、犯罪者を捕まえてきたのでしょう」
和美は道久を見やり、
「道久から聴いたんですか?」
「いいえ。私が直接、何度も電車で貴方を目撃してたの」
と、言うと、実鶴はリンゴを剥き終えた。皮をビニール袋に入れながら、明るい声で、
「私、貴方みたいな子、大好き」
和美は照れて頬が赤くなった。実鶴はそれを見やりながらリンゴを切り、
「道久が貴方を気に入るのも分かるわ」
和美は苦笑いしながら、
「道久は危険だから止めろと言ってますが」
実鶴はリンゴを八等分にすると、冷たい声と目つきで、
「そうね。あいつら、本当に卑劣で薄汚いから」
和美は息を飲んだ。冷徹な実鶴には独特の凄みがある。実鶴は笑顔に戻っで芯と種を切り取っていく。和美はそれを見つめる。実鶴はやけに明るい声で、
「貴方、淫乱女についてはどう思う?」
和美は咄嗟に答えられなかった。実鶴は完全にリンゴを切り終える。一切れを和美に渡す。和美は受け取ると、
「いただきます」
と、礼を言い、食べる。実鶴は微笑みながらそれを見つめる。道久も顔をそっと上げて見やる。和美は食べ終えると、
「そもそも本当に淫乱女なんているんですか」
実鶴は首を傾げる。和美は、
「男は快楽を覚えるけれど女は苦痛を伴うでしょう」
実鶴は嘲りの目で道久に振り向く。道久は悲痛そうに目をそらす。和美は頭を振りながら、
「道久は加減してくれます」
実鶴は笑顔を和美に向ける。和美は腕を組み、
「淫乱と言っても、貧困と孤立から逃れる為に性交を繰り返すしかなかったのでは?」
実鶴は一切れをつまみ、
「売女を哀れむの?貴方」
和美はリンゴを食べる実鶴を眺めながら、
「性産業を積極的に否定するつもりはありません」
実鶴は楽しそうに食べ終えると、
「女は貴方の思い描く女ばかりじゃないの」
和美は無表情で、
「道久から貴方が多数の男を相手にしてきた事は聴いてます」
実鶴は笑顔だが眼光が鋭い。和美は、
「俺は貴方を蔑むつもりはありません」
道久が不思議そうに和美を睨む。実鶴は首を傾げながら冷たい声で、
「何故」
「俺が蔑んでいるのは貴方を利用してきた男達です」
実鶴はクスっと笑い、
「本当に可愛いのね、貴方」
和美に顔を近付けて心底、面白そうに
「私が一番、楽しんでいるの」
和美は動じずに、
「強がってませんか」
実鶴は顔を離して座り直し、薄ら笑いを浮かべながら、
「あくまでも私を哀れむのね」
道久は組んでいる指に力を込める。手が変色していく。実鶴は頬杖をつくと、
「実は私が藤崎真波ちゃんをそそのかして道久を何度も殺そうとしたの」
道久は立ち上がる。実鶴めがけて一歩踏み出しながら殴る前に、実鶴がナイフを持って刃先を道久に向ける。和美の顔が青白くなる。実鶴は道久を睨みながら、
「どう?和美ちゃん」
和美は震える声で、
「どうしてそんな事を?」
実鶴は微笑みながら、
「貴方を独占するこの子にムカついたの」
道久は拳を握り締め目を見開き歯を食いしばる。実鶴は笑みを崩さない。和美は低い声で、
「まずはナイフを仕舞ってくれませんか。道久、座れ」
実鶴はナイフをゆっくり下ろす。道久は辛そうに目を閉じながら座った。実鶴はナイフを鞘に入れて鞄に入れる。和美は冷徹にそれを眺める。実鶴は無表情で溜息を吐くと立ち上がる。荷物を持つと和美に笑顔で手を振りながら、
「もう道久には何もしない。和美ちゃん、あとはよろしくね」
と、言い残して出て行った。




