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曲がり角  作者: 加藤無理
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真波との別れ

 二月の初め。和美は突然、道久のアパートに来た。道久は動揺して、

「来るなと言っただろ」

 和美は腰に手を当てて、

「このままだとらちがあかない」

 道久は眉を下げて、

「お前がどうこう出来るわけじゃないだろ」

 和美は鋭い眼光で睨みながらドアの端を掴んで、

「入れろ。多分、盗聴器か小型監視カメラが有る」

 道久は目を泳がせながら迷っていたが、結局は和美を部屋に上げた。


 和美は鑑識を長年務めてきた父親と一緒にしっかりと掃除をしてきたせいか、何度も学校や駅で不審物を見つけてきた。高校の時も植え込みから目ざとく盗聴器を発見したことがある。


 心配そうな顔をする道久を尻目に、和美は部屋中を見渡す。怪しい所は道久と一緒にどかして探る。


 一時間ほどで、心当たりの無い不思議な物体を三つ見つけた。和美は無表情で、

「これは小型カメラ。その二つは盗聴器」

 道久は目を見開いた。不審物を見つけた事よりも、平然と見つけ出す和美に恐怖すら覚える。


 呼鈴が鳴った。画面を見るとドアの前で真波が手を後ろにして立っている。和美と道久は呆然とした。真波は無表情でまた呼鈴を鳴らす。和美は、

「どういう事だ?」

 道久は真っ青な顔で、

「お前。トイレか浴室の中で隠れてろ」

 和美は不思議そうに、

「まさかお前が真波と浮気するわけないよな」

「いいから隠れろ!」

 道久が怒気を含んだ声で命じた。呼鈴がまた鳴る。和美は腑に落ちないまま、便所に隠れた。道久がドアを開ける。


 真波は背中に隠していた腕を素早く前に出す。道久のみぞおちに銃口を当てる。道久がそれを見ると、

「中に入れてくれる?」

 道久が後ずさった。真波は右手で拳銃を持ち続けながら左手でドアを押さえた。道久がまた後ろへ下がる。真波は土足のまま部屋に上がった。


 銃を無理に奪おうとしてもその前に撃たれる。真波の瞳には躊躇いが無かった。道久が今死んだら異変に気付いた和美が出て来て真波に殺されるかもしれない。道久はゆっくりと下がり続けた。奥の居間の真中まで来ると、真波は微笑みながら、

「さようなら」

「真波」

 真波が撃つ直前で和美が便所から出て呼んだ。真波と道久がビクリと身体が動いた。和美は落ち着いた声で、

「どうしてここに来たんだ」

 和美からは真波の後ろ姿で拳銃は見えない。真波は前を向いたままだ。道久は怯えた顔で和美を見ている。異様な空気を感じた和美はまた落ち着いた声で、

「まさか、ソイツを殺すつもりか?」

 真波は前を向いたまま、

「その通り。でも、復讐しないでね。私、今、拳銃を持っているの」

 暖房の音がいやに響く。和美は冷静な声で、

「女になった俺に幻滅したなら俺だけ殺せば良い」

 真波は暗い声で、

「私、貴方には生きたまま男に戻って欲しいの」

 外から車の走行音が響いて来る。和美は明るい声で、

「それじゃあ、男に戻ってやるよ」

 道久は息を飲む。真波は、

「本当に?」

 和美は穏やかな声で、

「ああ。その代わり、拳銃を俺に寄越せ」

 真波は動かずに黙っている。和美は真波に歩み寄りながら、

「俺がお前を撃ち殺すと思うのか?」

「じゃあ、この拳銃をどうするの?」

 真波は振り向かない。和美は一歩手前で立ち止まり、

「警察に渡す。お前は自首しろ。出所したら俺と駆け落ちしよう」

 道久の顔から血の気が引いた。真波は銃口を道久に当てたままだ。和美は真波に手を差し出し、穏やかな声で、

「俺を信じないなら俺とコイツを殺せば良い」

 真波は溜息を吐く。ゆっくりと銃口を下ろしながら、

「貴方には敵わないね」

 銃口を床に向けた状態で和美に手渡す。和美は右手で受け取ると、左手でスマホを取り出して警察に通報した。道久は座り込む。


 真波は悲しみの含んだ笑顔で、

「本当は坂東君を助ける為の嘘なんでしょ」

 和美は俯く。真波は苦笑いしながら、

「もう良いの。正直、ホッとしている。ごめんね」


 警察が来ると和美は拳銃を渡し、真波は大人しく捕まって連行されて行った。それを悲痛な顔で和美が見送る。道久は暗い声で、

「和美。結局、俺は駄目な男だ」

「お前らしくもない」

 和美は明るい声で否定した。道久が悲しい顔をする。和美は目を泳がせ、

「俺のせいでお前は死にかけたんだ」

 道久は無表情で頭を振り、

「そんな事は気にするな」

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