爆発
大晦日の早朝も道久は懲りずに公園でジョギングしていた。退院して以来、リュックを背負いながら走っている。まだ慣れないが、また毒殺されたくはない。
一度、休憩の為に公園の中に入る。荷物を下ろす。ベンチの下には空缶が置かれてあったが、気にしなかった。むしろ気色悪いので、わざわざ拾ってゴミ箱に捨てる気にはならなかった。空缶から離れて座る。リュックからタオルと水筒を取り出す。
ドオン。轟音が鳴り響いた。先程の空缶が爆発した。道久が文字通りに吹き飛ばされた。地面に叩きつけられる前に咄嗟に受身をとって倒れた。後頭部の強打は免れたが、身体中に激痛が走った。火傷しているのか熱さを越えて肌がビリビリと痛む。水筒が遠くに落ちて転がっている。
道久は起き上がろうとしたが、身体が動かない。激しい痛みの中、意識が遠のく。
爆発音で近隣住民や通行人が集まった。ベンチが完全に壊されて、飛び散った破片が焦げている。気絶している道久の服も焦げて破れている。出血もしている。野次馬達は呆然としていたが、誰かが、
「救急車と警察だ!」
と、叫んだ。ジョギングしていた三十代の男がスマホを取り出す。
年末で休業している病院が多かったが、何とか救急車が来た。消防車もパトカーも来た。救急救命士達が野次馬をどかしながら道久に駆け寄る。道久は気絶しているが息と脈が有る。
手術を受けた。全身に何箇所も傷と火傷を負っているが、致命傷にはならなかった。道久は今回も一命を取り留めた。意識が戻ったのは二日後で、年が明けていた。奇跡的に骨折しておらず、火傷も傷も浅かった。全身が包帯で巻かれたが、一週間も経たないうちに取れた。十日ほど入院することになった。
入院の間にボクシング仲間や学友の的場が見舞いに来た。警察官も何度か来ては事情聴取を行った。道久は喉も口も無事だったので、素直に質問に答えた。皆、
「心当たりは?」
と、尋ねるが、道久は、
「全く身に覚えが有りません」
クリスマスイブに毒殺されかけた上に今回は爆殺未遂。警察も捜査中だが、単独犯なのか組織的なのかすらも分からない。けれども犯人による道久への強い殺意は誰でも感じられた。
監督が心配して、
「お前、暫く外出を控えた方が良いんじゃないか」
ボクシング仲間達も、
「警察か警備会社に身辺警護を頼んだ方が良い」
「食材や生活物資を家まで運んでやろうか?」
と、提案したが、道久は平然とした様子で、
「お気遣いありがとうございます。でも俺は大丈夫ですから」
退院前に和美が来た。道久は低い声で、
「近寄るな」
和美は顔をしかめて、
「酷いな。その姿も態度も」
道久は無表情だが暗い声で、
「お前が巻き添えになって死んでも俺は責任取れない」
和美は腕を組んだ。道久は顔も腕も胸も傷と火傷の跡がくっきりと残っている。時間が経ては癒えて跡が消えると医師から説明があったが、やはり痛々しい。和美は、
「今度、俺がお前の家で盗聴器や小柄カメラを探してやろうか」
道久は、
「そんな事をしなくて良い」
その頃。実鶴は再度、真波の家に来ていた。真波は青白い顔で全身が震えている。実鶴は更に大きくなった腹を楽しそうに擦っている。
道久が公園の周りを走っている間に爆弾と起爆装置の詰まった何個かの空缶を全てのベンチに一つずつ真波が置いた。道久が公園の中に入る前に便所の陰に隠れて様子をうかがった。道久がベンチに座るのを見計らってスマホで起爆させた。
作戦を考えたのも、装置や爆弾を用意したのも実鶴だ。
真波は震える声で、
「アイツはサイボーグか何かですか」
実鶴は笑いながら、
「あの子は私と似て生命力が強いの」




