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曲がり角  作者: 加藤無理
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和美

 一時間ほど経つと和男は目を覚ました。身体の上に布団が敷かれている。徐ろに起き上がる。鈍い痛みが残っているが、心地良さも感じる。


 和男が振り向くと既に服を着て座っていた坂東が脚を組んで頬杖をつきながら見つめている。表情は穏やかだ。


 和男はベッドから下りる。浴室に入ってシャワーを浴びる。身体を拭いて服を着る。


 和男が浴室から出ると腕を組んでいた坂東は、

「朝倉。本当の下の名前は?」

 「和美」

 和美は答えた。坂東は微笑む。和美は、

「お前の下の名前は確か……」

道久みちひさ

 道久は立ち上がる。突っ立っている和美に歩み寄る。道久は和美よりも背が高い。まじまじと道久の顔を見つめる和美を道久はそっと抱いた。和美の身体が一度強張ったが道久を突き放そうとはしなかった。道久は耳許で囁くように、

「和美」

 と、呼んだ。和美の身体は震えたが、すぐに弛緩して火照っていく。和美は呟くように、

「道久」

 と、呼んだ。道久は和美を抱いたまま、背中を撫でる。和美の脈が速くなり、呼吸が甘ったるくなった。道久はゆっくりと腕を解いて一歩下がった。和美は赤面しながら踵を返して玄関に向かった。靴を履く和美に道久は穏やかに、

「また来いよ」

 和美は立ち上がると頷き、ドアを開けて出て行った。


 夜遅く帰ってきた和美に和夜と雪絵は神妙な表情で迎えた。和美の表情に普段の力強さは無かった。雪絵は和美を食卓の席に座らせる。和夜も隣に座りながら和美の様子をうかがう。雪絵は冷蔵庫から飲物を出して和美の前に置いた。


 居間の隅で読書していた正和は家族を見守る。


 和美は飲物を少しずつ飲む。暖房の音がやけに響く。和美はコップを置くと、

「俺、今から女として生きる」

 和夜と雪絵は固唾を飲んだ。雪絵は、

「そんな事、いきなり出来るの?」

 和美は肩を落とし、

「突然、俺が女の格好しても似合わないから、暫くはこの格好でいる」

 和夜は、

「この後、具体的にどうするんだ」

 和美は首を傾げて、

「大学にも研究会にも相談する。就職活動する時は女として動く」

 雪絵の瞳が揺らぐ。和夜は、

「これから俺は兄貴と呼ばない方が良いのか?」

 和美は微笑み、

「兄貴でも姉貴でも、慣れるまではどちらでもかまわない」

 雪絵は暗い声で、

「それじゃあ、母さんは和美と呼ぶことにする」

 和美は頷いた。


 部屋の隅から様子をうかがっていた正和がポツリと、

「やっと女に戻ったか」

 和夜と雪絵は振り向いて正和を睨む。和美は正和を見ずに静かに立ち上がると自室に向かった。


 雪絵は正和に低い声で、

「あの子が今までどれだけ葛藤していたか、貴方に分かる?」

 和夜も拳を握りしめながら正和を更に睨んでいる。正和は無表情で二人を見返したまま、答えない。

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