和夜の友達
高校二年になった和夜は細々と陸上部の長距離を続けていたが真面目にやっていない。勉強も頑張っていない。教職員からも女子からも男子からも呆れられていた。しかし開き直っている和夜は意外と気さくで、学校生活は和気藹々としていた。
帰り道が途中まで一緒なので、和夜は同窓生の塚原といつも一緒に帰っていた。塚原は卓球部だが、和夜と同じくサボリ気味だった。二人は周りに少女や女性がいないと下ネタで盛り上がった。時々、スマホでエロ画像を閲覧する。
和夜は和男がトランスジェンダーである事を隠しながら塚原に和男の話をしていた、
「ウチの兄貴がマジで面倒臭えんだよ」
塚原は笑いながら、
「俺の姉貴なんかだらしないぞ」
和夜はスマホでエロ画像を塚原に見せながら、
「この間なんか、『ロリコンは駄目だ』と諭されたんだ」
塚原はニヤリと笑いながら、
「良い兄貴じゃねえか」
和夜は肩を落とし、
「それがトラウマで俺は五十歳ぐらいのババアでも平気になった」
塚原は目を丸くして、
「キメエ。既にババアを抱いたのか?」
和夜は目をそらして、
「それが、ババアにも相手にされない」
「悲惨!」
塚原は哀れんだ。
二人の同窓生の松山が割り込んで来て、
「どうせお前ら暇だろ。夏休みに一緒にボクシングを観ようぜ」
二人は不思議そうに松山を見つめる。和夜が、
「お前、美術部だろ」
松山は自分の目を指差して、
「俺、運動音痴だけど動体視力が良いんだ」
塚原は面倒臭そうに、
「俺は格闘技に興味ない」
「俺も」
和夜も断ろうとした。松山はニヤリと笑いながら、
「けっこう勉強になるぜ。お前ら、一応運動部だろ」
和夜と塚原は目を合わせる。二人は頷く。三人はボクシング観戦をすることになった。
当日。三人は駅で待ち合わせをして会場に向かった。和夜が、
「誰を応援しているんだ?」
松山は、
「坂東。性格が悪いけど美形で強いんだ」
「ふうん」
塚原が曖昧な相槌を打つ。
三人は客席に着いた。非日常的な雰囲気が漂う。試合前から肌がピリピリする。松山は慣れている様子だ。
試合が始まる。容赦の無い戦い。塚原は何度も生唾を飲み込んだ。和夜は怯えた顔で何度も声を漏らした。松山はじっと観察する。
坂東が登場する。松山が指差しながら小声で、
「アイツが坂東」
二人は頷く。坂東は松山の言う通り、鋭い動きをしていた。打撃も強い。遠目でも素人目でも分かる。結局、坂東は勝った。
試合が全て終了し、三人は客席を後にした。会場を出ようとする時、他の選手と会話している坂東を見かけた。松山が近寄る。和夜と塚原もそれに続く。途中で若い女が坂東達に駆け寄った。
坂東と話していた男が笑顔で女に振り向く。坂東は露骨に不快な顔で女を睨む。女は立ち止まり、気まずそうに踵を返した。男は坂東の頭を掌で叩きながら、
「女の子にまたガン飛ばしてんじゃねえよ」
「ごめんなさい」
坂東が謝る。松山はその場から離れる。和夜と塚原がそれに続く。和夜が、
「サインもらわなくて良いのか」
松山はズンズン早足で歩きながら、
「あんな可愛い女を拒絶したんだぞ」
塚原は呆れ顔で、
「どうかしてるよな」
三人が帰宅する途中、和夜が大声で、
「あ、兄貴!」
痩身の優男と小柄で可憐な女が楽しそうに会話していた。二人が和夜達に振り向く。和夜が駆け寄る。塚原と松山も追う。男は気さくに手を挙げた。和男だ。和夜は三歩手前で立ち止まり、
「彼女?」
和男は人差し指を唇に当てた。真波が和夜達を見渡す。和男が和夜を見ながら、
「弟」
真波が軽く頭を下げる。三人も頭を下げる。和男が興味津々と、
「何してたんだ?」
和夜は、
「ちょっとボクシングを観てた」
と言うと離れて行った。
塚原は腑に落ちない様子で、
「すげえ優男じゃねえか。お前の話からゴリラかと思ってたぞ」
松山は薄ら笑いを浮かべながら、
「あの兄貴は本当に強いのか?」
和夜は頷く。松山は嘲笑しながら、
「本当は弱いんじゃねえの?」
和夜は頭を振る。松山は、
「じゃあ、稲島と戦わせてみろよ」
和夜は困った顔をした。稲島は三人の同窓生だが典型的な不良だ。




