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曲がり角  作者: 加藤無理
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正和の勝負

 和男は勉学に励みながら更に研究会にのめり込んだ。男子の中でも一二を争うようになった。他大学の柔道研究会の面々は和男の研究会の面々に、

「お前ら、もっと頑張れよ」

「お前らはいつも予選敗退してるよな」

 と、半ば呆れた。しかし、和男が他大学の面々と勝負しても勝つ場合が多かった。


「もう、アイツは完全に男だろ」

「連盟は何故、認めないんだろうな」

「むしろアイツへの判定はいつも厳しいんだよな」

 他大学の研究会員達は連盟の判断に対して腑に落ちなかった。


 初夏のある日。この間の五輪で金メダルを獲った中村が、正和と偶然に会うことがあった。正和は和男の件で連盟に挨拶をしに行っていた。連盟を騒がせた詫びである。また、警察は以前から報道陣に対して和男についての取材や報道をしないように強く要請していた。一般人どころか柔道愛好家でも和男の存在に気付かない者も少なくない。


 中村は正和に挨拶すると笑みを浮かべながら、

「貴方と息子さんの武勇伝は聞き及んでおります」

 正和は無表情で頭を下げる。中村は、

「よろしければ俺と勝負をしていただけませんか」

 正和は冷静な口調で、

「光栄ですね」

 中村は明るい顔で、

「貴方が俺に勝てば俺は息子さんを男扱いするのを止めます」

 正和の目が光る。正和が低い声で、

「ああ。良いだろう」


 約一週間後。中村が普段利用している道場で正和と中村が勝負することになった。何人か柔道家達が集まっている。更衣室で着替えた正和は険しい顔で出て来た。正和は長身だが痩身である。歩き方は緊張よりも怒りが滲み出ている。中村は無表情で待っている。


 試合が始まる。中村の容赦ない足払い。正和は耐える。中村は何度も技をかけて投げようとする。正和はそれにも耐える。不思議に思い始めた中村の一瞬の隙を逃さず、正和は鮮やかに中村を投げた。


 結局、正和が勝った。中村は呆然としている。観察していた柔道家達は、

「あの人、五十歳ぐらいなのに」

「なんで若い時に五輪に出なかったんだろう」

 正和は無表情で頭を下げると、中村に、

「これで娘を男扱いするのを止めていただけるね」

 中村はゆっくりと頷いた。正和は颯爽と道場を後にした。

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