父方の祖父
雪絵は自分の両親と正和の両親に和美について説明した。雪絵の両親は驚いたが和美を受け入れようとした。しかし正和の両親は困った顔をした。特に父親は不快そうに顔をそむけた。
和美が五歳の時に雪絵は和美を病院に連れて行った。二歳になった和夜も一緒だ。喋ったり動き回ったりする和夜を和美は座らせて唇に人差し指を当てて静かにさせた。意外と和夜は大人しくなった。
診断の結果、和美はトランスジェンダーだと判明した。医師はじっくりと雪絵と和美に説明した。和美は喜び、雪絵は冷静に受け止めた。
帰り際、和美は雪絵と和夜に、
「今日から俺の事を和男と呼んで。もう、お姉ちゃんと呼ばないでね」
と、頼んだ。雪絵は頷く。
夜中に仕事から帰宅した正和に雪絵は診断結果を説明した。正和はゆっくりと頭を振り、
「まだあの子は五歳だ。数年後にまた診断した方が良い」
雪絵は肩を落として溜息を吐いた。
翌日、雪絵と子ども達は正和を見送った。雪絵は和美と和夜に、
「和男。父さんの前では女の子のふりをしてね」
和美は俯いた。まだ幼い和夜はポカンとしていた。
年末に一家は雪絵の実家に帰省した。和美の診断結果を聴いた雪絵の両親はしっかり頷いて受け入れた。雪絵の兄夫婦も反発しなかった。むしろ八歳になった息子に噛み砕いて説明した。息子は不思議そうに和美を見つめていたが、最後には躊躇いがちに頷いた。
雪絵の両親と兄一家は和美を「和男」と呼ぶことにした。正和は気まずそうに、
「そんなに気を遣わないでください」
雪絵の母親は頭を振りながら、
「気を遣ってなどいない」
雪絵の父親も穏やかな口調で、
「正和君も受け入れたほうが良いよ」
正月休みに一家は正和の実家に帰省した。正和の両親と妹夫婦に雪絵は和美について淡々と説明した。妹夫婦は固唾を飲んで聞き入り、母親は心配そうな顔をし、父親は不満そうに腕を組んだ。
母親は和美に躊躇いがちに、
「男として生きるのは大変よ」
和美は微笑みながら、
「頑張るよ、おばあちゃん」
妹はニコリと笑みを浮かべながら、
「頑張ってね、和男君」
妹の夫も微笑みながら頷く。八歳になった妹夫婦の娘は不安そうに和美を見つめている。
父親は腹立たしげに溜息を吐き、低い声で、
「和美。二度とこっちに来るな」
皆、一斉に振り向く。妹は怒気を込めて、
「なんてことを言うの、父さん!」
妹の夫も父親を睨む。父親は和美を見つめながら、冷たい声で、
「お前が男と言い張る事で、どれだけ皆に迷惑をかけていると思っているんだ」
妹夫婦の娘が、
「おじいちゃん」
と、呟く。父親はやけに落ち着いた口調で、
「世間では配慮配慮とうるさいが、それでは何も解決にはならない」
和美は俯いた。正和は無表情で、
「父さんの言う通り、和美を二度と連れて来ないよ」
父親はゆっくりと頷く。雪絵の目が泳ぐ。正和は立ち上がり、顔を青ざめている和美を立たせると玄関に向かう。雪絵は悔しそうに和夜を連れてそれに従う。妹は兄一家を見送りながら、
「雪絵さん、ごめんなさい」
眉をひそめた母親は父親に、
「貴方、言い過ぎよ」
父親は黙って宙を睨んでいる。




