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曲がり角  作者: 加藤無理
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失恋

 年が明けた後、吉田は和男に、

「先輩。大学卒業まで交際が続いていたら、結婚しませんか」

 和男は驚いて、

「けっこう気が早いな」

 吉田は鋭い目つきで、

「私は正月休みに両親とじっくり話し合ったんです」

 和男は固唾を飲み、

「御両親は何ておっしゃってた?」

 吉田は微笑み、

「先輩と先輩の御両親が承諾すれば認めてくれると二人共、言ってました」

 和男は、

「へえ。そうか。じゃあ俺も親に訊いてみるよ」


 その日の夜、和男は両親の雪絵と正和にその事を打明けた。雪絵は困惑して、

「まだ高校生でしょう」

 和男は肩をすくめて、

「結婚をするとすれば大学を卒業した後だよ」

 正和はフンと鼻を鳴らし、

「その吉田さんという子を来週の日曜日にこちらへ連れて来てくれ」

 傍らで聴いていた和夜は不安そうな顔をした。


 和男は言われた通りに吉田を自宅に連れて来た。和夜は驚いた。吉田は健康そうだが可愛い容姿だ。和男が紹介すると和夜と吉田は挨拶した。正和は和夜に、

「お前は部屋で勉強していなさい」

 和夜は名残惜しそうに部屋の中に入った。


 居間で雪絵と正和は和男と吉田と向い合せに座った。吉田は深く頭を下げると、挨拶した。雪絵も穏やかな表情で挨拶した。正和は腕と脚を組みながら、吉田を見据えて、

「とんだおままごとだね」

 和男はギロリと正和を睨んだ。吉田は眉をひそめて、

「私達、真剣ですよ」

 正和は首を傾げて、

「どこが?」

 雪絵は顔を曇らせて正和に振り向く。吉田は正和を真っ直ぐ見据えながら、

「ふざけていたらとっくに性行為をしてますよ。いつも私は和男さんと勉強をしているので和男さんが真面目な人だと分かります。私も誠実に生きようと思っています」

 正和は無表情。雪絵は悲しい顔で吉田に振り向き、

「貴方が本気なのは分かるけれど、和男はまだ性別適合手術を受けていないし戸籍も女なの」

 吉田はゆっくり頷いて、

「渋谷区みたいにパートナーシップ制度がある自治体が有ります。私は和男さんを尊重しながら責任持って手続きします」

 吉田の眼光は鋭い。雪絵は無表情を装ったが内心、驚嘆した。正和は薄ら笑いを浮かべながら低い声で、

「君はまだまだ世間知らずの小娘だ」

 和男は拳を握りしめながら、

「親父。これ以上、吉田を侮辱するなよ。俺が責任を持つ」

 ククっと正和は短く笑いながら、

「お前は本当にバカだよ」

 和男が勢いよく立ち上がる。雪絵は鋭く、

「座りなさい」

 吉田は正和を見据えながら、

「貴方は警察官なのにトランスジェンダーを全くご存知ありませんね」

 和男は座り直す。正和は薄ら笑いを浮かべたまま、

「君よりは知っている。君はマスコミに踊らされているだけだ」

 吉田は暗い声で、

「何故、貴方はそこまでかたくななのですか?結婚に反対ならば諦めますが、交際は続けます」

 正和は額に青筋を立てて、

「今ここで別れなさい」

 和男は怒気を込めて、

「いい加減にしろよ、親父」

 正和は和男を睨むと吉田を蔑んだ目で見ながら、

「君の御両親が今、どんな思いでいるのか、君には分からんだろうね」

 吉田は俯きながらゆっくり立ち上がる。雪絵は身構えた。和男が心配そうな顔で吉田の手首を軽く掴む。吉田は泣きそうな顔で、

「先輩、別れましょう」

 と言いながら、手を振り解いた。荷物を持ち上げると部屋を出て行った。雪絵が後を追いかける。


 玄関で靴を履く吉田に雪絵は、

「ごめんなさいね」

 と、謝った。吉田は立ち上がり、

「いいえ」

 と、言い残すとドアを開けて出て行った。


 居間で和男は青ざめた顔で俯いている。正和は黙って立ち上がると書斎に向かった。

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