頑張る高校生
和男は部活や勉強を頑張る他に、盗撮犯や痴漢を捕まえるようになった。月に一度は犯罪者を捕らえて駅員や警察に差し出す。性犯罪者達は、
「冤罪だ!」
と、騒ぐが、被害者達も傍観者達も和男を応援した。性犯罪者達は罪を認めざるを得なかった。
和男がそれを理由に遅刻しても教師達は全く咎めなかった。むしろ心配した。授業を始めていた教師が、
「御苦労様。しかし無茶しないでね」
勉強三昧だった坂東も和男に興味を持ち始めた。和男は授業態度は真面目だ。教師に質問されると、時々間違えるが一生懸命に答える。休み時間は男子と一緒に会話する。登校する時も下校する時も女子にも挨拶する。
坂東は和男に話しかけることはなかった。時折、盗み見る程度だった。休み時間には便所に行く以外はいつも勉強している。その甲斐があってか、同窓生の中では最も成績が良かった。
和男は夏休みも部活を頑張る。大会に出る時は女子として参加した。和男は嫌がったが、全国大会に出場したら男子と一緒に保健体育に出たり部活動しても良いと学校から許可が下りていた。中学の時は結局、男子として大会に出られなかったが、和男は励んだ。
坂東も夏休み中も学校に来てはずっと勉強を続けた。部活動は一切していない。その代わり、放課後にはボクシングジムに通っていた。学校にはボクシング部が無かったからだ。
和男と坂東は学校でたまに擦れ違う時があった。ある日、坂東は頬を張らせて湿布を貼っていた。和男が、
「どうしたんだ、それ」
と、尋ねると坂東は、
「ボクシングをやっている」
と、答えた。和男は、
「へえ」
と、驚嘆すると坂東は教室に入って行った。
二学期になっても和男と坂東は相変わらずだった。しかしある昼休み。坂東は袋から生のキャベツを丸ごと取り出すと、葉を剥がしてはムシャムシャと無表情で食べ始めた。調味料は一切付けていない。その様子を見た女子の一人が、
「キモい」
と、呟いた。隣の女子が唇に人差し指を当てて、
「放っておこう」
男子もしばらく呆然と坂東を見つめた。坂東は黙ってキャベツを食べている。男子達も見て見ぬふりをして食事や談笑を続けた。
その数日後、和男はまた痴漢を捕まえて駅員に突き出した。その日は保健体育があった。渡辺は相変わらず和男に張り合っていたが、なかなか勝てないでいる。授業が終わって教室に入る手前、渡辺は和男の肩を掴み、
「あんた、いつか痴漢に刺されるよ」
と、警告した。和男は立ち止まって振り向き、不快そうに、
「なんで俺が責められるんだよ」
渡辺の近くにいた女子が不安そうに、
「危ない事には変わりないでしょ」
和男は右手で自分の腰を押さえて、
「現行犯じゃないと駄目なんだぞ」
渡辺は呆れ顔で、
「そんなのは駅員や警察に任せれば良いでしょ」
三人は何となく視線を感じて振り返った。坂東が無表情で見つめている。和男が、
「どうした、坂東」
「いや、別に」
と言いながら教室に入った。渡辺は目を輝かせて、
「彼を私に紹介してよ!」
和男と女子は顔をしかめる。渡辺は不満そうに、
「既に彼女いるの?」
和男は手をヒラヒラさせて、
「アイツは無類の勉強バカ」
隣の女子は、
「それに性格がすごく悪いよ。この間なんか、キャベツを丸ごと食べてたし」
渡辺はニッコリ笑い、
「私、そういうの、大好き」
数日後の昼休みに和男は坂東を呼んだ。坂東は生のニンジンを二本、丸ごと食べていた。坂東が嫌がると和男は、
「どうしても隣の渡辺がお前に話したい事があるんだ」
坂東は渋々廊下に出た。渡辺は満面の笑みで、
「坂東。私の彼氏になってよ」
「断る」
と、即答するとすぐに教室に戻った。渡辺は落胆して肩を落とした。和男は気まずそうに踵を返すと、坂東の所に歩み寄る。既に坂東は席について勉強を始めている。和男は、
「確かに勉強も大事だけど、良好な対人関係を築くのも大事だぞ」
坂東は頬杖をつきながら和男を見上げ、
「だからって好きでもない女の相手をしなければならないのか」
和男は眉をひそめた。坂東は無表情で、
「そうやって俺を睨んでも、あの女の為にはならねぇよ」
和男は溜息を吐くと席に戻った。隣の男子が、
「アイツ、相当ヤバいな」




