前世トップアイドルの魂が暴走して、私、陰キャJKから伝説のアイドルに覚醒しちゃいました!?
「ユウナちゃん、次歌ってよー!」
クラスの打ち上げカラオケ。私、佐伯ユウナは隅っこで烏龍茶を啜っていた。
(いやいやいや、無理無理。
私みたいな陰キャが歌うとか、絶対に空気凍るやつじゃん。)
「えー、でも私、歌とか下手だし……」
「いいからいいから!ノリが大事!」
クラスの陽キャグループに半ば強引にマイクを押し付けられる。
うわぁ、最悪。こういう時、いつも適当に流行ってる曲とか入れて誤魔化すんだけど…何にしようかな…
指が勝手に動いた。
『Eternal Dream』
え?なにこの曲?知らない。でも、なんか……懐かしい?
イントロが流れ始めた瞬間、頭の中に電流が走った。
《歌って》
誰かの声が、頭の奥底から響いてくる。
《私の代わりに、もう一度》
…え?なに?なんなの!?
気づいたら、私の口が勝手に動いていた。
「♪ 夢の続きを――」
声が出た。
いや、これよく聞くと私の声じゃない。
透き通っているのに芯があって、感情が乗っているのに技術的に完璧で…
周囲の喧騒が、一瞬で止まった。
みんなが、私を見ている。
ポテトを口に運びかけていたクラスメイトが固まってる。
スマホいじってた子がこっちを凝視してる。
やばい、やばいやばい!なにこれ!?
でも、体が止まらない。
サビに入ると、さらに声量が上がった。
私の意思とは関係なく、完璧な歌唱テクニックが次々と繰り出される。
ビブラート、ファルセット、シャウト――全部、プロ級。いや、プロ以上。
《そう、もっと!もっと歌って!》
前世の記憶が、フラッシュバックのように流れ込んでくる。
私は、いや、この魂の持ち主は、トップアイドルだった。
「神咲ミサキ」
十年前、日本中を熱狂させた伝説のアイドル。
二十二歳で突然の事故死。その魂が、なぜか今の私に宿っている。
曲が終わった。
カラオケボックスは、完全に静まり返っていた。
「……え」
「ユウナちゃん……今の、なに……?」
クラスメイトの一人が、震える声で呟いた。
そして次の瞬間。
「すげぇぇぇぇっ!!」
「神かよ!?」
「ちょ、今の動画撮ってた!?」
「撮った撮った!すぐSNSに上げる!」
「待って待って、TikTokにもYouTubeにも上げよう!バズる絶対バズる!!」
「え、ちょ、待って!?」
私の制止も虚しく、スマホをいじる音が響き渡る。
あぁ、終わった。
私の平穏な陰キャライフが、完全に終わった。
翌日。
学校に行くと、案の定、廊下を歩く度にヒソヒソ声が聞こえる。
「あれ、カラオケの子だよね」
「動画見た!マジでヤバかった」
「再生回数もう50万超えてるらしいよ」
五十万!?
急いでスマホを確認すると、確かに私が歌っている動画が爆発的に拡散されていた。
『【神降臨】普通のJKがカラオケで歌ったら凄すぎた件』
コメント欄も阿鼻叫喚。
『プロかよ』
『こんな歌声聞いたことない』
『声優かアイドルデビューしろ』
『いや待って、この声どっかで聞いたことある気がする』
『神咲ミサキに似てる?いや、それ以上かも』
神咲ミサキの名前を出すコメントも、チラホラ見える。
やばい、やばすぎる…こんなにネットで見られるなんて…
昼休み。
「佐伯ユウナさんですね?」
突然、校門前で声をかけられた。
黒いスーツの女性。二十代後半くらい。名刺を差し出してくる。
「ブルームプロダクション、スカウト担当の小野寺カナと申します」
「えっ、スカウト……?」
「昨日の動画、拝見しました。素晴らしい才能です。ぜひ、うちの事務所でアイドル活動をしませんか?」
突然のことに頭が真っ白になる。
アイドル?私が?
「あの、私、そんな……」
「謙遜なさらずとも。あの歌唱力、そして表現力。埋もれさせるには惜しすぎます」
小野寺さんの目は、本気だった。
《チャンスよ》
また、あの声。前世の神咲ミサキの声。
《私ができなかったことを、あなたならできる》
……できなかったこと?
前世の記憶が、さらに流れ込んでくる。
神咲ミサキは、事務所の都合でやりたい音楽ができなかった。
本当は、もっと自由に歌いたかった。自分の意思で、自分の歌を届けたかった。
でも、叶わなかった。
事故で、全てが終わった。
「……分かりました」
私は、頷いていた。
「やります。私、アイドル…やってみます」
ブルームプロダクションは、小規模な事務所だった。
所属アイドルも数人。でも、アットホームで温かい雰囲気。
「新人の佐伯ユウナです。よろしくお願いします」
緊張しながら挨拶すると、先輩アイドルたちが笑顔で迎えてくれた。
でも、一人だけ。
「……ふーん。あなたが噂の」
高橋リオ。事務所のエースアイドル。二十歳。
彼女の目は、明らかに私を値踏みしていた。
「動画は見たわ。確かに上手いけど、アイドルは歌だけじゃないから。ダンスも、トークも、ファンサも。全部できて初めて一流よ」
「は、はい……」
完全に敵意。いや、ライバル心?
《負けないで》
前世の声が囁く。
《あなたには、私の全てがある》
レッスンが始まった。
歌唱指導、ダンスレッスン、トークレッスン。
でも、不思議なことに、全部スムーズにできた。
前世の神咲ミサキの経験とスキルが、私の体に染み付いている。
「ユウナちゃん、すごいね!初めてとは思えないよ!」
「センスあるなぁ」
褒められるたびに、リオ先輩の顔が険しくなる。
そして、なんと初ライブの日が来た。
小さなライブハウス。お客さんは…五十人くらい。
でも、ステージから見える景色は思ったより広く、緊張で手が震える。
「大丈夫?」
ステージ裏で深呼吸をしていると、リオ先輩が意外にも声をかけてくれた。
「初ライブは誰でも緊張するわ。私もそうだった」
「リオ先輩……」
「でも、ステージに立ったら、もう前を向くしかない。お客さんは、あなたの歌を待ってる」
彼女の言葉に、少しだけ勇気が湧いた。
そして、ステージへ。
照明が眩しい。
客席からの視線が、刺さる。
思ったより、怖い。
《さぁ、歌いなさい》
イントロが流れた。
私は、マイクを握りしめて――歌った。
「♪ 夢の続きを――」
歌いだした瞬間、会場の空気が変わった。
ざわめきが消え、全員が私に注目する。
カラオケの時と同じだ。
でも、今回は違った。
ただ前世の力に任せるんじゃない。
私自身の感情を、乗せる。
今の私が感じている、緊張、不安、そして――歌うことの喜び。
全部…歌に込める。
曲が終わると、一瞬の静寂の後…
「うぉぉぉぉっ!!」
会場が完成で爆発しているようだった。
スタンディングオベーション。
涙を流している人もいる。
「すげぇ……」
「本物だ……」
「神咲ミサキが蘇ったみたいだった……」
舞台袖で、リオ先輩が呆然としていた。
「……負けたわ。完全に」
でも、彼女は笑っていた。
「でもね、悔しいけど、嬉しいのよ。こんなに凄い子と、同じ事務所にいられるなんて」
「リオ先輩……」
「これからは、ライバルじゃなくて――同志ね」
彼女が差し出した手を、私は笑顔で握り返した。
学校でも、私の立場は一変していた。
「ユウナちゃん、すごいね!ライブ行ったよ!」
「サイン欲しい!」
「次のライブいつ?絶対行く!」
「あ、ありがとう…」
陰キャだった私が、一躍学校のスターに。教室では身動きが取れないほど人が集まっていた。
(あんまり目立つのは得意じゃないんだけどな…)
でも、一番驚いたのは…
「あの、佐伯さん」
クラスメイトの鈴木ハル。学年でもなかなか有名なイケメンだ。
物静かであまり誰かと話しているところは見たことがない。
「僕、あなたのファンになりました」
「え……ハルくんが?」
「はい。最初は動画見てすごいなって思ってたんですけど、ライブ見て確信しました。佐伯さんの歌には、人を変える力がある」
彼の真剣な眼差しに、心臓がドキドキする。
「これからも、応援させてください」
「う、うん……ありがとう」
SNSでも、私の人気は急上昇。
「サイン欲しい!」
SNSのフォロワーは十万人を超え、毎日のようにファンレターが届く。
でも、同時に――アンチも現れた。
『調子乗んな』
『どうせ加工だろ』
『一発屋』
今まではこういったものが自分に向くことはなかっただけに心が痛む。
《気にしちゃダメ》
前世の声。
《アンチは、人気の証拠。本当に無価値なら、誰も反応しない》
それもそうか。
私は、前を向くことにした。
大きなイベント『アイドルフェス2026』への出演が決まった。
三千人規模の会場。大手事務所のアイドルたちも出演する,らしい。
テレビやネットでしか見たことがない人たちが目の前にいる…
「ユウナちゃん、緊張してる?」
リオ先輩が、楽屋で声をかけてくれる。
「めっちゃ緊張してます……」
「大丈夫。あなたなら、絶対に成功する」
でも、その時だった。
「あの、大変です!」
スタッフが慌てて飛び込んでくる。
「音響トラブルです!ユウナちゃんのマイクとイヤモニが故障してて……」
「え!?」
本番三十分前。
修理は間に合わない。
「代替品は?」
「全部他の出演者が使ってて……」
つまり、私だけマイクとイヤモニなしで歌えと?
周囲がざわつく。
「無理だよ、三千人の会場で生声なんて……」
「延期するしか……」
でも、延期なんてできない。
ファンが、私を待ってる。
《大丈夫》
前世の声。
《私は、こういう時こそ力を発揮した》
――そうだ。
神咲ミサキは、数々のトラブルを乗り越えてきた伝説のアイドル。
マイクが壊れた時も、会場が停電した時も、全部ステージを成功させてきた。
「やります」
私は、宣言した。
「マイクなしで、歌います」
「え……本気?」
「はい。生声で、届けます。私の歌を」
そして、ステージへ。
三千人の観客。
マイクなし。イヤモニなし。
でも――
私は、深呼吸して、歌い始めた。
生声。
前世の神咲ミサキの発声法と、私自身の想いを込めて。
最初は、会場の後ろまで届くか不安だった。
でも、歌っているうちに、分かった。
(私の声…届いてる!)
会場全体が、私の声に聞き入っている。
マイクなんて、必要なかった。
本当に伝えたいものがあれば、声は届く。
《そう、それよ!》
前世の声が、歓喜に震える。
《これが、私が本当にやりたかったこと!》
曲が終わると――
会場が、爆発した。
「うぉぉぉぉっ!!」
「神すぎる!!」
「生声であの歌唱力とか、化け物か!?」
「伝説見た……」
スタンディングオベーション。
全員が立ち上がり、拍手と歓声が鳴り止まない。
舞台袖で、リオ先輩が涙を流していた。
「……ユウナ、あなた、本物のアイドルになったわね」
小野寺さんも、笑顔で頷いていた。
「ユウナちゃん、あなたはもう、誰にも止められない」
ライブ後、SNSは大炎上――いや、大盛り上がり。
『【神】佐伯ユウナ、マイクなしで3000人を魅了』とトレンド入り。
動画は一千万再生を突破。
テレビ出演のオファーも、次々と届く。
でも、私は一人、静かに考えていた。
前世の力。
確かに、神咲ミサキの魂と経験は、私を支えてくれた。
でも、いつまでも頼っているわけにはいかない。
「私は、私の歌を歌いたい」
そうふと呟くと…
《ふふ、やっと気づいたのね》
前世の声が、優しく響いた。
《もう、あなたに私は必要ない》
「え……?」
《あなたは、もう十分に強い。自分自身の力で、歌える》
神咲ミサキの魂が、ゆっくりと離れていく感覚。
でも、寂しくはなかった。
《ありがとう、ユウナ。私の夢を、叶えてくれて》
《そして――あなた自身の夢を、掴んで》
光が消えた。
前世の声は、もう聞こえない。
でも、私は一人じゃない。
今まで積み重ねてきた経験、出会った人たち、そして応援してくれるファン。
全部、私の力になってくれる。
「行こう。私自身の、最強アイドルへの道を」
エピローグ:伝説の始まり
それから半年。
私、佐伯ユウナは、日本を代表するアイドルになっていた。
ソロデビューシングルは初週五十万枚を突破。
武道館ライブも完売、大成功。
でも、私は変わらなかった。
学校にも通い、友達とカラオケにも行く。
なんと…ハルくんとも、いい感じに!(まだ告白はされてないけど…)
リオ先輩とは、今でも一緒にライブをする親友。
そして…
「ユウナちゃん、次の曲、自分で作詞作曲するんでしょ?楽しみだなぁ」
小野寺さんが、嬉しそうに言う。
「はい!私自身の歌を届けます」
武道館のステージに立つ。
沢山のファンが、私を待っている。
「みんな、今日はありがとう!」
歓声が響く。
「この曲は、私が初めて、自分で作った歌です。タイトルは…」
イントロが流れる。
マイクを握りしめて、歌い始める。
前世の力はもうない。
でも、私には私の歌がある。
《ありがとう、ミサキさん》
心の中で呟く。
《あなたのおかげで、私は私になれた》
会場が、光に包まれる。
ペンライトの海。
私の歌を聴いてくれる、沢山の仲間たち。
「♪ これが私の声――」
最高のステージ。
最高の仲間たち。
そして、最高の未来。
私、佐伯ユウナは…
前世トップアイドルの魂に助けられながらも、自分自身の力で、伝説のアイドルになった。
いや、これから、もっと伝説を作っていく。
自分の意思で。
自分の歌で。
自分の道を。
これが、私の物語の、始まり――!
【完】




