現実
俺たちは詳しい対策を練るべく、博士が待っている施設へと向かう。 すでに病院の前には、施設へ行くための車が手配されており、俺たちは車に乗って施設へと向かう。
施設に到着すると 入り口前にヒナが立っていた。
「皆さんお疲れ様ですっ」
ヒナは 俺たちを励ますように満面の笑みと、小さな体で表現できないような大きな身振り手振りを使って俺たちを迎え入れてくれる。
普段おとなしいヒナだからこそ俺たちは素直に気持ちを伝えれるチームになったのだと心に温かい気持ちが広がる。
「ひな、ありがとうな。おかげで助かった。」
「さすがひなちゃんだね。冷静な判断で、焦っている私も、少し冷静になれた。 」
「ひな、ありがとう。 あなたがいるから、私たちは安心して飛び込める。」
俺、ちとせ、ゆりの順で感謝を伝えると、ヒナは照れたのか、両手をパタパタさせながらそんな事ないと手を振る。
「早く入りたまえ、我々に残された時間というのは少ないものだ」
博士がエンドランスルームから出てきて、俺たちに告げる。みんな意図を理解しているからこそ、気持ちを切り替えて真剣な表情になる。
「ついてこい。」
博士はそう言いって俺たちの先頭に立ち進んでいく。中央施設ではなく、俺たちはテーブルと8人くらいがちょうど収まるような部屋に来ていた。
これは、チームが会議する専用の施設と事前に説明を受けている。他チームがいる施設では患者の情報が漏れてしまう危険性がある。
通常、患者の夢にダイブする際に親から了承を得る。その際に、夢の中で起きた出来事を漏らす事がない様に紙面で誓約書を交わしている。
サポーターやアナライザーに関しても、例外の状況を除いて求められる。仮に誓約書を交わしてない被験者を対応した場合は、ダイバー二人と博士のみで対応を練る事になる。
「君たちの状況はおおよそ把握している。その上で、ゆりとは滉誠どう対処する?」
無機質に、機械的に問いかける博士から無言の圧力を感じながら答える。
「俺たちは彼女と真剣に向き合うことが必要なんだ。まずはユリが自分の気持ちを素直に伝える。 そして、俺が恐怖した感情含めて素直に気持ちを伝える。」
「私ももう取り繕ったりはしない。彼女を知りたい。向き合いたい気持ちを伝える」
ゆりの覚悟を決めた視線ははっきりと博士の方を向いていた。
「君たちは誤解をしているようだ。」
俺たちは、思考を巡らせる。何が間違っているのか、いやどうする事が現状の最善なのか。博士は、視線を巡らせて言い放つ。
「次で決めろ。それができるのか?」
最も疑問であり、俺たちが そこまで至れていないという本質を突かれた一言だった。
「もちろん、最善なんてありはしない。私では彼女を救う事は絶対にできない。けれど、君たちなら、そう、君たちなら出来ると信じている。」
俺たちの全員、悔しげな表情を浮かべている。 なぜそこまで考えなかったのかと。いや、思いたりもしていなかったのかと。あの世界で患者が受ける心の影響という部分を、ダイブした俺は考えきれていなかったんじゃないかと後悔する。
俺たちはまだ彼女と向き合うということについて真剣に向き合っていなかったんだと、そう感じる。
「ごめん、俺の考えが甘かった。」
ちとせがフォローしてくれようと、何かを言う体制に入る。
「けれど、対策を考えないといけない。リミットは?」
後悔をしても仕方がない、そんな暇も時間もない。
「明日の16時に再びダイブする。それまでに結論を出せ」
博士はそう言い放つと部屋を出ていった。残された俺たちの皆が皆、表情が暗くなっている事に気づく。
「謝るのは、もう終わり。わかってるでしょ皆」
一番、後悔をしているからこそ、ゆりがこの均衡を破った。
「だから、皆んなで泊まり込んで話そうか。もちろん、滉誠もね。」