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ナイトメアシンドローム  作者: 夢見る冒険者
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再スタート

「助かった~」


最初に感じるのは安堵であった。ゆりと別れてから2分間、計算して逃げることが出来たのは僥倖だった。最悪刺されることは覚悟していたが、トラウマになる状況だけは避けたかった。


「ばかっ」


背中を起こし習慣に胸に衝撃を感じる。顔を下に落とすと涙目になったちとせがいた。すすり泣く声から、どれほど心配してくれたのかが想像でき、申し訳なさを感じる。


「ごめん、ちとせ」


彼女のすすり泣きが止む気配はなかった。


「ゆりも、ありがとうな」


彼女の方を振り向くと、悔しそうな・申し訳無さそうな悲痛感がある表情をしていた。


「私がしくじった。ごめん」


誰よりも真剣に取り組んでいたからこそ、彼女は自分を責めていた。いつもは合わせてくれる目線が俺からそれていた。拳は固く握られきっと何も出来なかった自分を憎むほど、悔しい思いが支配しているのだと思った。


「ゆりが冷静にハンドサインを覚えていたお陰で俺は助かったんだよ。最悪の別れ方は避けられた。」



「そんなことないんだよ」



普段はあまり感情を見せない彼女が、目に涙を浮かべるほどの悔しがっている姿を始めてみた。



「最善の選択なんて無い、それに俺だって、彼女と話す準備が出来ていなかった」



ゆりの一言によって思い返される。客観的に見て、彼女と直ぐに遭遇することを想定出来ていないがゆえに、警戒した姿勢になっていた、声色を含めて。だからこそ、ゆりが場を和ませようと知れくれていたことに。



「それでも、進まないといけなんでしょっ。聞かせてよ何があったのか。」



ちとせが落ち込んだ雰囲気を変えるべく、少し明るめに提案してくれる。そうだ、悔しがっている暇なんてない、ここから離れないとまた夢の世界へと入ってしますのだから。次で、彼女を救うために俺達に出来る最善を尽くすしかなかった。



※ ※ ※



病室から離れてすぐ近くの部屋に入る。構造は病室と同じであるが、音声を拾うマイクが備わっている。音声からアナライザーが議事録を作成していき、俺達ダイバーは記憶が忘れない内にすぐに話を始める。


ダイバーが二人存在する理由は、一人が危険な状況でもサポート出来るようにすること・同時に患者に危害を与える行動を取らないか監視・そしてダイブ後に記憶の誤りによって最悪の事態を招かないためでもあった。



俺とゆりは、ちとせからの質問に答える形で状況を説明していく。



「そっか、容姿を褒められて態度が変わったってことは、男性関係で何かあったのかな?」



ちとせは想像しうる結論を話してくれるが俺はそれを否定する。



「それはないと思う。俺を最初の攻撃対象に選んでいないことからも男性関係ではないだろうが、ゆりはどう感じる?」



氷川楓と実際に接したのは、俺とゆりしかいない。その実体験から想像することしか出来ない。



「私も男性だけが対象じゃないと思う。ちとせの想像も当然だけど、どちらかというと私が媚びたから起こった反応に感じる」



いつもは自信が満々な彼女がしおらしく、意見を言っていることから本当に堪えているのだと痛感する。



「確かにそうだな。ちとせの出してくれた意見なら、男性から持てて女性が嫉妬なんてこともあるんだろう。事前資料から考えるなら、本気で自分と向き合っている人を探している可能性もある」



完璧すぎる彼女に誰も告白する人がいなかった。いや出来る雰囲気ではなかったらしい。学校中が彼女のことを一種のアイドルにしていたんだから。



「だからこその凶器を使った脅しだったのかな?包丁って偽物ってことは無いの?」



ちとせは状況を把握するために質問を投げかけてくれる。



「いや、間違いなく本物の包丁だったよ」


「そうだね」



実際に彼女を目にしているゆりも本物であると感じた事からも、確証する。



「えっ、ということは滉誠は本当に命の危険があったってこと」



ちとせは、本気で心配そうに俺を見てくれる。こんな時であっても本当に素敵な仲間に出会えたことに感謝する。だからこそ、安心させるように穏やかに伝える。



「いや、それは無いと思う」


「どうしてそんな事が言えるの?」


予想外にゆりが俺を心配そうに見つめてくる。


「彼女は俺を殺すのではなく、危害を加える程度だった。最後に振り下ろされた包丁は心臓や肺ではなく、腹や太ももあたり辺りに狙いが定まっていた。」


「つまり、彼女は私達を試しているってこと」


いつになくしおらしい彼女を可愛いと思ってしまう反面、素直に感じたことを伝える。


「確かに試しているって味方もできる。けど、信頼出来るか不安の方が勝っている用に感じた。」


「ふふっ、私がいたら確証があるって素直に言わない辺り、気を使われているんだね」


パンッ。彼女は自分の頬を叩いて気合をいれる。先程までとは目つきが既に変わっていた。



「落ち込む私は、終わり。対策を練ろう」



目つきはずっと前を見続ける。誰よりも未来を見据えているいつもの彼女がそこにいた。ゆりは強いな。ちとせもそんな彼女の姿を見て、感化されてものがあったのだろう。先程よりも、表情が引き締まっていた。



「具体的にはどうするんだ?」


あえてゆりに挑戦を叩きつける形で俺は問いかける。


「私が、謝るところから始める。しくじったら助けてね、みんな」


「「「もちろん」」」


スピーカーの先から、ひなを含めて全員の声が重なる。


「俺がしくじった時は、フォロー頼んだ」


「私がすぐに起こして上げるから、サポートは任せて」


「ひなも、すぐに情報を共有します」


素直に気持ちをさらけ出したこの瞬間、俺達は初めてチームになったのかもしれない。

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