親睦
「まずは、私たちきちんと互いのことを知らないといけないよね」
急に真剣な表情になりながら、彼女は現状の課題を話だす。
「確かにな、ダイバー同士互いの性格を把握しないと、サポートすらできないな」
彼女は満足げに、うんうんと頷いている。
「そ・こ・で、カップル質問ゲーム」
この瞬間を演出したかったのだろう。めちゃくちゃ目をキラキラさせながら勢いよく立ち上がる。
「急に、どうした?」
いつになく、テンションが高い彼女に、素っ気ない態度をあえて取る。決して、可愛い女の子にカップルという単語を使われて動揺しているわけではない。そう、決して!!
「ぶー、反応が薄いね。そんなんじゃ彼女ができないよ」
彼女は可愛らしく頬を膨らませて、こちらを見つめる。
「そっ、それは関係ないよねっ」
「その反応は...、まあっそんなことよりも私たち出会って一週間しか経ってないでしょ?」
急な方向展開に戸惑いつつも俺は、内申スル―してくれたことに安堵をする。
「そうだな」
「君が彼女がいないのは置いておいて、ゲームの説明をするね」
「まて、まて、まて。何で触れた」
本当になんで触れたのかと俺は驚きのあまり、パッと彼女の方を振り向く。
「だってこうやってぶつかり合わないと、仲良くなんてなれないでしょ?」
いつも見透かした様にいう彼女、先まで見据える彼女には逆らえないほどの何かを感じる。同時に、その本音を引き出してみたいという欲が出てくる。
「やろうか、カップル質問ゲーム」
単純に負けたくないという気持ちが出てくる。いや、ここで応えられないようじゃ誰かを助けることなど出来ないと感じた。
「そう来なくちゃね」
そういって、彼女はこちらに座り直して説明を始める。
「じゃあルールを説明するね。質問者と回答者にまずは分かれる。質問者が質問をしたら、回答者がタン、タンって手拍子をしてどんどん質問に答えていくの。スムーズに答えられたら質問者がまた質問をして、答えにつまったら回答者と質問者は交代。勝敗は、長く続けられた方が勝ち。」
実際に手拍子をしながら、説明をしてくれる。相手目線に立って説明ができるのも彼女の強みだ。
「それで負けたら罰ゲームとかあるのか?」
彼女のことだ、罰ゲームがないなんてありえないだろう。俺は改めて覚悟を決める。
「もちろん、負けた方が恥ずかしい告白を一つしていく」
いたずらっぽく、彼女は小悪魔的な笑みを浮かべる。よくこんなに表情をコロコロ変えれるものだと関心をする。
「確かに、その方が緊張感が出るよな」
「それじゃあ私から質問者をやるね」
「あぁ」
俺は覚悟を決めて、質問を待つ。
「チームで一番気になる女の子は?」
タン、タンッ
「ひな」
急にえげつない質問をする彼女を見つめて理解する、誰かを救う覚悟を今は問われているのだと、ここで見えを張っているようでは背中を預けられはしないんだと。
「私のどこが一番魅力的?」
タンッ、タンッ
「優しげな瞳」
普通なら、自分も恥ずかしがるような質問をしているあたり、彼女も何でもやるという意思表示なのだろう。
「君って、童貞だよね」
「そうですけど」
ついつい、口調が強くなるのは許して欲しい。というか本当にえげつない質問を良くしてくるな。
「仮に誰かを救うために、自分を犠牲にできる」
「必要なら」
それからも、互いの本音を探るような質問が繰り返される。
21回目の質問で問われる。
「君が一番後悔をしていることは?」
一番真剣でいて、こちらの真意を探る質問に俺は一瞬、目線が鋭くなる。
「俺は、、、」
ピピッ
急にスマホに通知が来たことで現実に引き戻される。
通知:氷川楓のDIVEについて。至急、中央施設に集合せよ。
スマホに表示された文字を見て、俺達は佇まいを整える。彼女はこちらを振り返って告げる。
「さっきの質問の返答はいつか聞けるといいな。ちなみに私は処女だよ」
真剣な表情でいう彼女の表情から、俺はまだ何も読み取れずにいた。その瞳の先には一体何が見えているのか気になったが、今は氷川楓について考える。他の事を考えていては、誰かを助けることなど出来はしないのだから。
部屋から出た先には、行きと同じ様に一直線の光線が引かれている。
「今回が初のダイブだよな」
あらかじめの認識をすり合わせるべく質問をしていく。
「そうだよ。君もだよね?」
視線だけは、まっすぐに見つめつつも俺達は質問に答えていく。
「あぁ、想定できない状況についての対応は頭に入れているよな?」
「ハンドサインを含めて、頭に入れているよ」
端末を掲げて、彼女は全て頭に入っていると暗に示す。
「それじゃあ、後は俺達次第ってわけだな」
対策はしているし、ロープレを何回もこなしている。ブラインドスクエアやペーパータワーといったチーム力を高める訓練を積んでいる。正解が何なかでも行動出来るように必要な事の多くを俺達は既に学んでいる。
必要なのは”覚悟”だけであると。俺達は覚悟を胸に中央施設へと一歩ずつ歩みを進める。