仲間
共有部屋に入ると、一変して温かみと個性が感じられる空間が広がっていた。カラフルなクッションやぬいぐるみ、二段ベッド、円形テーブルといった、メンバーが持ち寄ったものたちが部屋を彩っている。ここは、チームメンバーがリラックスしながら自然に過ごせるように工夫されていると同時に、互いに信頼関係を築くための「特別な場所」だ。だからこそ、各々が持ち寄ったアイテムには個性が出ている。
誰が見ても可愛いと思えるくまのぬいぐるみや、Theオシャレな女性といった化粧品の数々、自分が置いたスタイリッシュなペン等、互いが互いの好きを知るところから関係は始まっている。
「あれ、ユリしかここにいないのか?」俺は目の前の少女に声をかける。
目の前に見える少女は 意志の強さを表す 真紅の髪に、それでいて柔らかな雰囲気がわかるまん丸とした目。誠実さを感じる綺麗な佇まいをしている。
彼女はチームメンバーで同じくダイバーでもある白河ゆりだ。
「うん。ちとせちゃんとひなちゃんは他チームのサポートに回ってるよ」
この施設に参加する皆が学生である。それは、不安となる原因の多くが学校生活が原因である事が多く、内に溜め込んだ事が原因だからだ。問題を解消した後に学校に復帰できる所まで考えて、同世代の人が対象になる事が多い。
「ゆりは、博士からのデータを既に確認したのか?」
彼女の目の前にデバイスが置かれている事からも、既に目を通しているだろう。
「もちろん!君も早く確認してよね。時間は有限なんだから」
と言いつつも、言い方は親しみやすく、それで言いたい事をはっきり通す。やはりダイバーの適性がある人間は的確に要点を押さえ、相手を観察していると感じる。
「10分ほど待ってくれ。」
デバイスを手に持ち、俺は患者の情報を頭に入れていく。
患者名:氷川楓、17歳
彼女の学校での特徴は、誰に対しても優しく気配りができる点で、友人たちからの評判も非常に高い。家族関係も良好で、一見、何も問題がなさそうに見える。逆に言えば、ここに問題の原因が潜んでいるかもしれないな。周りからの期待に応え続ける生活の中で、自分自身の感情を押し殺し続けてきたのかもしれない。不安を吐き出せる相手がいない事か、あるいは...
ピピピッ・・・
そんなことを考えていると、デバイスのタイマーが鳴り、現実に引き戻される。
「滉誠はどう感じる? 」
ゆりが静かに尋ねてきた。
「何とも言えないが、 誰にでも気を使うという生活は、ある意味でストレスだったんじゃないか」
「本当にそれだけ? 」
彼女はこちらを覗き込む形で、しっかりと俺の目を捉える。
こっちを見透かしたような。それでいて。 相手の真意を探るようなその質問に、ドキッとさせられる。
「予測だけれど、 彼女は自分自身がわからなくなったんじゃないか。 生きる意味も目標も、 いつも誰を見ている傍観的な立場だからこそ、 彼女は他の人に見えない視点で物事を考えたんじゃないか。」
ゆりはその答えに納得した様子で、静かに微笑んだ。
「君なら、相手のことをよく考えていると思ったよ。正解なんてないけれど、相手のことを想う気持ちが一番大切だからね。」
いつも落ち着いた感じでいて、誰よりも相手を見ている少女。白河ゆりという少女だからこそ、俺は彼女を信頼しているのだろう。
「それじゃあ、親睦を深めよう~!!」
さっきの真剣な空気などどこいったのかというギャップこそが彼女の最大の魅力なのかも知れないな。この施設にいる殆どの人間が、ON・OFFがハッキリしている。勿論俺も例外じゃなく。
「そうだな」
俺は内心の不安や焦りといった感情を客観的に把握しつつも、今は素直な彼女に向き合った。互いが互いを助け合えるように。