ゆりの思惑
「まずは、直感で解答を書く。ここまでは一緒。どうせ深い質問をするだから、そこに解説を一分で書く、どう?」
それはゆりの中での抵抗であり、俺に対してのアンサーでもあった。目的は一緒だとけど主導権は握らせないと。
「滉誠、笑っててきもい」
ゆりらしさを感じ笑っていると、楓に突っ込まれる。
「じゃぁ私の質問、生きる上で1番重要なあなたの価値観を教えて」
「仲間」
「私らしさ」
「理解と受容」
「じゃあ、どうしてそう思ったのか考えようか」
そう言ってなぜそう考えたのかを自信に問いかける。
「一分経ったけど、皆は大丈夫そうかな?」
「あぁ」
「私も大丈夫だよ」
「じゃあ滉誠から発表しようか」
「俺は、人は一人では何もなせないと考えてる。どんな人だって、企業だって、沢山の人が関わって大きなことを成せる。だからこそ俺は人とのつながり、仲間の大切さを一番大切だと思ってる」
「なるほどね、私は自分らしくあり続けること。人のせいにしないこと。自分の人生だもん、自分で選択して自分らしく生きるそうありたい」
「私はね、本当に誰かを理解することなんてできないとわかってる。だって自分自身すらわからないから。だから、心から相手を理解しようとして、ありのままの相手を受け入れる気持ちが重要なんだと思う」
「やっぱり、生きて来た過去の経験から答えが出てくるよね。滉誠は何で仲間なのかな?何が君にそう考えさせた?」
ゆりの質問に疑問を感じる。楓を救うという目標からかけ離れた質問に感じるからだ。
「ゆりはどうしてそんな事が気になるんだ」
「滉誠はさ、隠しているよね本心という部分では。何もかもを曝け出すといって、表面しか見せてない様に感じる。楓はどう感じる」
「うーん。はっきり言ってまだ深く関わってないからわからないけど、どこか違和感を感じる」
そう言われて驚いた。なるほどね、言い得て妙だと納得する。確かに、本質的な部分はいってない。正確には主観的に語る事でぼかしたと言っていいい。
「なるほどね。仲間が必要なのは本心だよ。違和感を感じた部分は人といった部分でしょ。」
「そう、滉誠は冷静な様で熱い部分もあるどっち?」
ゆりが俺に問いかける。
「仲間っていったでしょ最初に。俺は、本気で関わってくれる人のみ仲間と認めてる。後は関わってくれた人って線引きをしている」
「他の人はどうでもいいって事?」
「そうじゃない。俺はチームを全力で勝たせる。けれど使う労力のほとんどを仲間に使う。後は全体にって線引きしてるだけ」
「一緒の意味じゃない」
「そうかもしれない。けど有限な時間を誰に費やすかは大事だ。お金と違って増やすことはできないから」
「じゃあ、何で私のために時間を費やすの?」
なるほどな、ゆりはこの状況を作り出したかったのかと理解する。相手を理解したい、受け入れたいと、そして受け入れて欲しいと願う彼女に俺が何と声をかけるのかと。
共感する力が強い、ゆりだからこその気づけた部分か。冷静に分析する自分を置いておき答える。
「一つは自分のために、妹は君よりも酷い夢の中にいる。それを救うため。そして二つ目は、俺を救ってくれた人と同じ様に、誰かの助けになりたいから。なにより、君という人物が葛藤を抱きながらでも前に進んだことを知って、応援したいと感じたからだよ。」
「応援って馬鹿にしてるの?」
「俺にとっては、最上級の褒め言葉だよ」
「君の気持ちを押し付けられてもね〜」
「一番すごい人は応援される人だ」
俺が断言したことで、楓は戸惑いながらも俺に注目する。
「自然と人が手助けしてくれる。君の力になってくれる。別名で言うならカリスマ力だよ」
「何で苦しそうなの?」
「えっ?俺が?」
楓の唐突な質問に俺は疑問を浮かべる。窓ガラスに映る自分の顔を見て理解した。なるほどな。顔は歪んで不安そう、拳を自然と力が入っていたことを理解し、緩める。
「単純だよ、俺にはない、心から望んだモノだからだよ」
分からないという顔を二人は浮かべる。
「学校で一番の成績、運動でもトップ。そんな人がいたら応援しようと思う?」
急な質問に疑問を感じつつも、ゆりと楓は答える。
「思わないかな」
「そうだね」
「さっきの俺は主観的に自分の評価を話した。客観的に言うなら、成績は学校を含めて常にトップ、運動も全国レベルのチームに入れるくらいは殆どのスポーツでこなせる。」
「ここに来て自慢?」
「違うよゆり、基準が違うと言う話だよ。トップアスリートがほぼ全てをスポーツに捧げると聞くとどう思う?」
「もっと楽してもいいんじゃない、かな」
「私もそう思う」
「俺からしたら、当たり前なんだよ。毎日どう自分を超えるかのみが焦点」
「それって苦しいことじゃない?」
「やったことはある?」
「えっ、ないけど」
「だよね。やってみたら慣れる。でも、慣れたらまた挑戦が常になる。それを幼少期からこなして来ただけ」
「異常だね」
「異常だよ」
「だよね、だからこそ価値観が基準が異なるから俺は人が理解できなかった。コレが俺だよ」
二人は理解できないモノを見ているのだろう。眉間に皺を寄せて俺を見ている。やはり、俺たちは理解されないのだろうと静かに目を閉じた。