滉誠という人物
「自分自身を一言で表すとしたらどんな言葉を選ぶ?」
パン、パン。
「行動」
「同調」
「演劇」
絶対に揃うはずがない質問をしたが、素直に答えてくれる事に安堵する。
「ゆりの同調っていうのは?」
「分かってるくせに敢えて言わせるんだね」
ゆりの張り付いた笑顔から、圧を感じつつも俺は冷静に返す。
「誰かが決めつけた答えに合わせるんじゃなくて、自分なりの言葉で伝えて欲しいから」
「はぁ〜、私は他の人の意見に賛同して生きてきた。私の周りの人もそうだった。皆が皆、誰かに共感して本当の感情が分からなくなったって感じだよ」
宙を見る彼女は、きっと過去の自分を俯瞰してみる事で、受け入れる事をしているのではないだろうか?そう感じた。
「楓の...」
そこまで言うと楓は自分からは話し始める。
「理想の私を演じ続けた。何でもこなせる自分、人に優しい自分、そうやって生きて本当の私が分からなく感じた。」
そっか楓とゆりは同じようで違うんだ。ゆりは人の意見に合わせることで自分たちのコミュニティーを守ってきた。誰が好きとか何がおいしいとか多分そういったものを。自分の意見がなくなったそういう意味での欠落感。
楓は、理想の像を演じた私は私であるのかと存在自体を問いかけている。私の感情はどこにあるのかという部分で同じ括りにしていた。俺も無意識のうちに2人を同じ様な人だと決めつけていたんだと理解する。
「なるほどね。滉誠が普通にこんなゲームをやるわけないものね。」
「滉誠君だもんね。出会って数日だけどやり方を理解してきたよ。」
そうゆりと楓が言う姿を見て思った。ゆりは味方でいる事を願っていると。まぁ、互いに理解を深めようとする状況を作れている部分については問題ないと感じる。
「今度は私の質問だね。好きなタイプは?」
パン、パン。
「夢に向かって全力で頑張れる、相手と同じ目線に立って優しく接してくれる女性」
「人の気持ちを察することができる人」
「優しい人」
「じゃあ、滉誠がどうしてそう感じたのか聞いてみようか」
楓だけでなく、ゆりもにっこりとした笑顔で俺の方を向いてくる。逃さないという意志を感じるね。
「何かを頑張っている人が美しく感じた。困難な状況でも、行動できる人。そして、何かを一人で成すことなんて出来はしない。チームで行動するなら、相手を思いやる気持ちも大切なんだよ」
ゆりと楓はえっ、という顔で俺のことを見つめてくる。
「滉誠も思いやる気持ちを持った方がいいよ。」
「そうだね」
楓とゆりが二人で頷いている。その意見は真摯に受け止める。
「にしても、かなり具体的じゃないかな滉誠君」
楓は満面の笑みで俺を見つめてくる。
「今、恋してるの?」
「してないよ」
俺があっさり返した事に楓はびっくりした表情をする。
「じゃあ初恋の人とかだ」
「そうだね」
感傷的にはなってしまうが、やっぱり笑みが溢れる。あの人を好きになって良かったと今でも心から思える。
「ヘェ〜恋が叶って、成就した感じか。幸せそうな笑みを浮かべてますね」
「滉誠を好きになる人いたんだ」
多分、幸せそうな笑みを浮かべていたんだろう。楓とゆりがつまらなそうに呟く。確実に浮いた方でなく、攻撃材料が無くなっての方だな。
「いや、付き合った事ないから」
「えっ、今めちゃくちゃ幸せそうな笑みを浮かべていたけど、マゾ?」
楓がめちゃくちゃ失礼な勘違いをしていた。
「違うわっ、ただ彼女が結婚した時に幸せそうに微笑んでいたから、胸が温かくなっただけだっ」
えらい誤解をされそうになり、若干語尾がきつくなってしまったことを反省する。さっき、人の気持ち云々を言われたばかりだからな。
「ってか、結婚!」
楓が驚いたようで、席を立ち上がって反応する。ゆりも言葉には出していないが驚いた顔で俺を見ていた。
「今は34歳の人だよ、25歳の時に結婚したな」
「滉誠って9年間も思い引きずってる、かなり重いタイプなのでは」
「意外すぎる」
ゆりと楓が想定外の反応をする。
「滉誠って想いを大切にできる人だったんだね」
ゆりが本当に意外だと、深く考え込む様に難しい顔もしながら答える。直ぐに表情を切り替えるとゆりは続ける。
「じゃあ次は私が質問するね。だけどさ滉誠がしたい話の意図は分かったからこうしよう」
ゆりからの提案に俺と楓は息を呑む。主導権はこうしてゆりへと渡っていった。