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昼食

外に出た瞬間、眩しい陽光が視界を満たす。


「やっば、明るっ! でも無事生還っ!」


と純夏が満面の笑みで両手を広げる。さっきまでの暗闇が嘘のように、周囲は爽やかな昼の空気に包まれていた。


「……二度と入りたくない……」


ゆりがぽつりと呟き、まだ少し震える指で額の汗をぬぐう。少し聞いちゃいけなかったかもしれない。でも、そんなゆりの様子を察してか、乃愛が明るく声を上げた。


「ちょっと早いけど、そろそろお昼にしない?」


その一言に、みんなが「いいね」と頷いた。


フードコート風のレストランエリアに入り、それぞれが好みの店に並んで注文を済ませると、テラス席に近い四人掛けのテーブルを確保した。


純夏ちゃんはオムライス、ゆりはサラダとサンドイッチ、俺は定番のカレー。そして乃愛はパスタを頼んだ。


「見て見て! ケチャップで顔描いてくれてる〜! かわいすぎて食べられない~っ!」


純夏ちゃんははしゃぎながらスプーンを手に取り、勢いよくオムライスに向かった。その様子を見ながら、ゆりが小さく笑った。


「ふふ……元気だね、純夏ちゃん」


「うん、元気だけが取り柄だからねっ」


そのやりとりにつられて、俺も笑う。自然とテーブル全体に和やかな空気が広がっていた。気がつけば食後の皿は空になり、皆の表情には満足感が浮かんでいた。


「ふぅ~、おなかいっぱい! もう動けないかも~」


純夏ちゃんが椅子にもたれかかりながら、くったりと両腕をぶら下げる。


「そう言いつつ、どうせまたすぐ元気になるでしょ?」


乃愛がそう言って、微笑みを浮かべながら見つめている。


「うっ……そ、それはまぁ、否定はしないけど」


と話している二人を見ると、互いを理解していることが理解できる。いいな、そういうのと思いつつ俺は二人の会話を眺めていた。ゆりの方を見ると、さっきまでの疲労が少し薄れたのか顔色が良くなっている。


皆が持ってきたドリンクも気付けば少なくなっていた。


「ちょっと飲み物見てくるわ」


そう告げると、純夏ちゃんもついてくる。


「私もいくー!」


俺と純夏が連れ立って席を立つ。体調を戻してきたゆりを乃愛に任せて席を立った。


***


私は目の前に座るゆりに目線をやる。やっぱり可愛いな。陽射しの差し込むテラスの光をさらさらと反射する艶やかな黒髪。顔の輪郭は左右対称できれいで、どこか儚げな雰囲気さえある。


反射的にどこか負けたような気分になる。優しさだけじゃなく、ハッキリと意見を伝えられる所がきっと滉誠に信頼されているだろうな。


時折、滉誠の方を見る彼女の目線は、特別だと思う異性に向けるそれだ。彼女は気づいていないだけで、きっと恋をする手前。...もしかすると、恋してるかも。


このまま黙ってもいい、彼女が自分の気持ちに気づく前にアプローチを掛けてもいい、だけど、、、それって、滉誠にふさわしいのな?


彼はきっとどんどん前に進んでいく、私には想像もつかないスピードで。そんな彼と肩を並べたいなら、私も覚悟を決めないといけない。だから、ゆりに問いかけるんだ。


「ねえ、ゆり」


私は静かに声をかけた。


「……滉誠のこと、気になってるんでしょ?」


彼女が驚いた顔でこちらを見る。私の質問の意味を察したように彼女は返答する。


「い、異性としてはないよ?」


その即答は想定済み。人としてじゃなくて、異性としてと限定するあたり、彼女も動揺していることがわかる。だから私は笑って返すんだ。


「うん、それは分かってる。でもさ。……他の男子よりは特別だって思ってるでしょ。滉誠のこと」


ゆりは一瞬だけ、黙る。私から目線を逸らして、その事に気づいて、慌てて戻す。それが何よりの答えだった。


「私はね、ゆりが滉誠のこと好きだと思ってる。もしかすると、ただ信頼してるだけかもしれないけどね」


なんでもない風に言うんだ。ゆりに気を遣わせないように。


「だから、ゆりも遠慮しないで、全力で来て。本人はどうせ私達の気持ちになんて気づかないから」


認めたくない現実を認めて宣言する。自分の気持ちに素直になってと。言いながら、少しだけ胸が苦しくなった。でも、それが自分の“覚悟”だとも思った。


ゆりが私の言葉をどう受け止めてるか、わからない。けど、彼女の表情には、ほんの少し戸惑いと、何かが揺れている気配があった。


「……乃愛は、本気なんだね」


「うん。だから、ゆりも本気で挑んで」


「もしかして私と滉誠が付き合っちゃうかもよ」


ゆりが悪戯っぽく笑う。最初に出会ったときのような、自然なゆりだって感じた。だから私も素の自分で告げるんだ。


「その挑戦、受けた」


少しだけ、心が軽くなる。けれど同時に燃え盛るように熱い。絶対に譲らない。心の底からそう思った。

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