幸せ?
「滉誠って割と自分に酔っているよね?」
「え?」
「えっ、気づいてないのか〜。だって恥ずかしいセリフ沢山いっているし。」
俺がマジで分からないという感じで困惑気味の表情を浮かべると、ゆりが具体的に告げる。
「この瞬間は君だけを考える。とか君を見捨てないとか素で言っている所がね、ちょっと...」
痛いものを見る目でゆりが俺を見つめてくる。
「いやいやいや、オブラートに包んだら気持ちは伝わらないからっ」
俺は全力で弁解をするが余計に疑惑を深めただけだった。楓は俺とゆりの間にあるわだかまりを察して俺に質問を投げかける。
「それで、滉誠は妹さんのことをどう思ってるの?」
楓の疑問に俺はしばらく考えこむ。俺は雫のことをどう思っているんだろうか?父の教えに従って勉強する。食事の時間も何もかもすべて学習に捧げる彼女のことを。俺は雫に自由でいて欲しいとそう願ってる。
「もっと肩の力を抜いて欲しいと願ってる。」
「肩の力を?」
「そう。まだ高校生なんだよ。だからもっと自由でいいと思うんだ。」
「自由か」
楓は外の景色を見ながら、遠い未来を見ている様に感じた。
「滉誠って悩みなさそうだよね?」
ゆりが唐突に尋ねてくる。
「悩みが無いわけじゃないよ」
「いつだって前向きに取り組んでるのに?」
「行動するしかないって知ってるから、悩んでない様に見えるだけだよ」
「どういう事?」
「ゆりにとって幸せって何?」
「急に何?」
「まずは素直に答えてみてよ」
「甘いものを食べることとか?」
「そうだね。それがゆりの幸せだ。けれど、俺の場合は皆んなで何かを成し遂げた時!」
「自分の方が崇高だって言いたいわけ?」
「違うよ。幸せには人それぞれの形があるってことを言いたい」
「楓にだってしあわせの形はあるだろう?」
「私は、皆んなが笑顔でいられたら良いかな?」
「ずるいよ、その答えは。私だけ、自分勝手だね。」
「そうか、俺は俺の理想通りの結果を得るまで皆を巻き込むけど」
「訂正、滉誠はろくでもない」
「私も、権力を使って意見を封殺したことはあるかな」
「楓は無理してるでしょ。ふ、ふふっ。ばっかじゃないの、ほんとに」
ゆりが、笑い出したことに俺と楓は顔を見合わせる。
「滉誠は天然だし、楓は優しすぎ。楓が何に悩んでるのかって話が私の悩み相談になってるし」
ゆりは一頻り笑った後に楓に尋ねる。
「楓はどう生きたいと思っているの?」
急に真剣な表情をするゆりを見て、楓も黙ったまま彼女の瞳を見つめ返す。
「ホントにわからないんだよ」
楓はゆりから目を話して宙を見つめる。
「こんなにも感情的になったことも久しぶりで、私ってなんだろうって感じかな。でも、私自身と向き合いたいって初めて思えた」
そう告げる彼女は、最初に出会ったときよりもスッキリとした表情をしていた。