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宣言

「はい、一旦考えるのはやめにしてお昼ご飯にしよう。」


ゆりの一言で俺たちは思考を現実に戻す。


「楓はこの世界でどうやってご飯を摂ってたんだ?」


「一応学校の冷蔵庫に色々と食材も入ってるからね。思い浮かべればなんだって手に入るし」


「それってA5の牛肉でも?」


「食べたことのないものは、想像できないよ」


「ですよね、ちなみにゆりは料理はできるの?」


「その質問自体が失礼だと言うことに気づかないのかな滉誠くん?」


「いやいやいや、ただの確認だよ。」


ゆりの目だけは笑っていないにっこりとした表情に他意はないと全力で否定する。


「そういう滉誠はどうなのかな?」


「少ししかできません。野菜を切るのは担当させてください。」


「楓ちゃんは料理する方?」


なるほどね、経験があるか聞けばオブラートになるのね。


「私は普通かな。お母さんの手伝いや土日に作るくらいだよ。食べれる程度には料理は作れかな」


「じゃあ食堂に行こうか」


そう、ゆりが宣言する。食堂の方向は楓のみが知っているため、楓とゆりを先頭にして進む。楓が過ごした学校を歩くことで、彼女が何を思ってこの学校に通っていたのかが何となく分かってくる。


廊下に貼られたポスター、グラウンドに置かれているライン引き用品、用具の使用度を含めて学校が再現されていた。どんな学校生活を送ってきて何を見たのか、存在する物から何となくだけど雰囲気を察せる。


「滉誠の相手するの大変じゃない?」


「そうだね、普通に女子と布団で寝るし、環境を利用して心抉られたりしたな。」


「え?」


こっちを勢い良く振り向くのやめてください。違うんです。訳があるんです。ゆりが結構恨んでいる事を自覚する。


「環境を利用して人の心を抉ってくるのって最初のやり返しなのかなって思ってさぁ少しだけ反省したなぁ」


感情が篭っていない目で明後日の方向を向いている。ゆりの顔を見て確信する。絶対に地雷踏み抜いたよねと。


何かを察した楓が話題を変えるべく、俺に質問する。


「滉誠が話してた妹さんの件、話してくれるよね?」


ゆりをフォローする事を含めて質問する。お前も白状しろと。


「あんまり素敵な話じゃないよ。」


「前置きはいいから」


「俺の家って割とお金持ちなんだ。大抵の好きなものとか欲しいものは手に入る環境にあるんだよ」


「急に自慢?」


俺は、首を振って違うと意思表示する。


「金があるとさ、教育に力を入れるんだよ。学校の教育じゃなくて、父は使える知識・メンタル。そういったものに力を注いでた」


「それで?」


「どんな状況でも折れない心と実行するだけの能力を重視した。それを実行できるだけの才能を求め続けて。そうなったのはきっと俺の母親が死んだからで、空っぽになった父は才能ある人を求めた」


ゆりと楓は黙って俺の話を聞いていた。


「俺では多分充分じゃなかったんだろうね。父は養子を向かい入れた。それが今の妹だ。けどさぁ俺の父が求める基準ってめちゃくちゃ高いんだよ。その子は苦しそうだったけど俺も何かができるわけじゃなくて、少し声をかけるだけしか出来なかった」


拳を強く握っている事がわかる。情けない姿を見せたくないが、力が弱まることはない。


「後悔したよ、あの時もっと関わっておけば良かったと。そして妹も楓と同じ様に夢の世界に囚われてしまった。だから俺は、妹と同じ状況にいる人を見捨てをしない。ここで諦めたらきっと妹を助けられずに惰性で生きると思う」


宣言するんだここで。


「だから、俺は楓と全力で向き合う。この瞬間は君だけを考える」


俺は、真っ直ぐと楓の瞳を見つめて、そう告げた。


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