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私ってなんだろう?

「滉誠くんが気になってるひなちゃんて子はどんな子なの?」


「そうだなぁ、普段はクールだけど必要なことはきちんと伝えてくれる優しい人。あと語尾に変な敬語つけてくる」


その程度の返答は余裕だと、端的に答える。


「それと、身長は146cm以下で身振り手振りが可愛い女の子だよね。無邪気に滉誠となら一緒に寝ても大丈夫と言われて喜んでいたもんね?」


「えっ...、滉誠ってロリコンなんだね」


ゆりの冷静な表情とは対称に、楓はドン引きである。若干体を引き気味に構えている。


「いや、マジで違うからね!体形で言ったら...」


しくじった。ゆりの迫真に迫った演技に、そして本音で向き合うと宣言したことで口走っていた。


「体型で言うと?」


楓が嫌な笑みを浮かべて尋ねる。まずい、まずい、まずい。冷静になれ、落ち着け、そう。容姿に理想がある様に体型にだって理想があるの。当然のことじゃないか。


「ゆりかな」


「は?」


「すみません」


ゆりの人を人として見ない表情に俺は咄嗟に謝っていた。教卓の前にいてよかった。いなければ土下座をしていた自信がある。


「ゆりちゃんが理想の体型なんだ~。へぇ~。じゃあ似た体型の私も狙われちゃってるのかな?」


「いや、狙ってはないから。性格重視しているから。」


「へぇ~、でも顔とかも重視しているでしょ?」


「もちろんその側面があることも否定しない。けれど、一番はやさしくて、夢を持って頑張れる女性が好きだな」


「なんか、生々しくて嫌だな」


聞いてきたの楓だよね。俺は内心突っ込みつつも冷静に対処をする。


「そういう楓はどうなんだ?」


「うわっ、女性にそういう事聞く?ごめんなさい。滉誠はタイプじゃないです」


「私も滉誠はタイプじゃない」


楓もゆりもわざわざ俺を指定して否定する必要ないよね。ゆりは結構根に持つタイプ何だと理解しつつ。楓は素直に言っている分、質がわるい。


「それで、話を戻すと楓の素直な気持ちを聞かせて欲しい。それと弱い自分も私だと認めて上げて欲しい。ちなみに俺は一人じゃできない弱い人間だ。それを認めてる」


「はぁ、結局はそこと向き合わないといけないんだね」


楓はため息をつきつつも答えてくれる。


「私ってさ、人よりも上達するのが早いんだと思う。どの様に体を動かせば、あの動きを再現できるのか、どの様に考えれば問題を解けるのかという理解度が人よりも高かった」


「うん。勉強や運動する姿を見てそう感じた」


「だよね。だから、私が失敗することを皆が望まくなった。それで、小学校の時だった、大縄跳びをする時に私が引っ掛かってしまったんだよね。単純に油断していただけなんだけど」


つらそうに楓は話をしている。


「それで」


彼女の背中を少しでも押せるように俺は声を掛ける。


「私の前にいた子がね、戦犯にされた。その子も否定をしなくて、私が否定しても楓ちゃんは優しいからって流されて、その時に、私は失敗してはいけないんだって強く思ったよ」


環境が人を追い込むことは多々ある。天才と呼ばれる人たちを理解出来ずに排斥しているように、俺達は悪気がなくても、相手を〇〇という箱に閉じ込めているのかも知れない。


「疑問に思い始めるのは高校になってからだった。男女の区別を余計に意識しだして、化粧やモノで個性を出し始める。私はなんだろうと思ったよ。高嶺の花?聖人?そんなわけないでしょってね。そうして演じる事が辛くなったって訳」


楓が当たり前の様に受け入れているそれは、残酷なまでの社会の縮図だと感じた。皆が皆何かを演じる必要がある。それを楓は理解しているからこそ、演じきれなかった自分を責めているのだと感じる。


「それは辛いよね。」


ゆりが口を開く。感情が乗っていて、若干涙目になっているのが分かる。


「〇〇君となら釣り合うよ、ゆりちゃんならできるよね。悪意の無い押し付けで私が縛られていくのを感じていた。クラスが学校が私に理想の私を矯正する。先生ですらも、ゆりを見習えって。私は、あなたの理想の生徒じゃない!!って口を大にして言いたいけど、言えない。理想ってなんだろうね...」


それは諦めにも似た、ゆりの叫びだった。ゆりが共感をしてくれた。それは俺に出来ない部分で、ゆりだからこそ、楓に寄り添える心だった。だから、俺が現実を突きつける。


「理想なんてない。誰かの想像でしか人は生きられないと思う。人と関わるって事は、それを受け入れることなのかもしれない。けれど、はっきりと言うことも時には重要なんだよ。助けてって言えば、案外人は助けてくれる。その人達を大切にすればいい」


俺に言えるのは、俺の経験談だけだ、だから続けて言う。


「正解なんて分からない。探しても答えなんて永遠にでない。だから、行動してぶつかって、修正する力を身につけるしか無いんだと思う。」


「そうかもね」


楓はそう呟きながら、俺の事を見つめていた。少し整理する時間を取ることにした。素に時計の針は12時を回っていた。



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