元凶
パラソムニアシンドロームを治療するための対策施設へ入るには、複数の厳重なセキュリティを突破しなければならない。正面玄関では、まず各自のIDパスと指紋認証が必要とされている。そこを通り抜けた後は、距離感が狂うような純白の長い廊下を進むことになる。白一色の空間は、訪れるたびに何か得体の知れない不安感を抱かせる。進む先に見えてくるのは、広間へと続く大きな扉だ。
ここで再びIDパスをタッチし、内側にいる認証者によってようやく部屋に入ることが許可される。この工程を経て扉が開かれ、内部へと足を踏み入れると、目の前には異様な光景が広がっていた。あたりを見渡して思わず心中で感嘆する。「よくもこれだけの施設を、こんな短期間で用意したものだ」と。
円柱をモチーフとしたこの部屋の4分の1は、30を超えるモニターで埋め尽くされている。中央には巨大なモニターが鎮座し、その前では数名の「サポーター」と呼ばれる構成員たちが、常に患者のバイタル状態を監視している。彼らは、患者の状態に些細な変化が起きた瞬間を見逃さないよう、集中力を研ぎ澄ませている。
部屋の奥には一段高い円柱状の台が設置されており、その上に博士が立っている。彼は部屋全体を見渡しながら指示を出しているが、その隣には研究所の雰囲気に似つかわしくない二人の屈強な黒ずくめの男たちが控えている。彼らの存在は、博士が犯した罪の結果であり、常に厳しい目で彼の事を監視している。
「博士、現状についての共有をお願いしたい」
俺は博士に向かって声をかける。博士は、20代後半ほどに見える西洋風の整った顔立ちで、モデルのような長身と細身の体型を持っている。白衣を纏っているものの、彼の姿には医者や研究者以上の威圧感が漂っている。厳格そうな彼の表情と雰囲気を見て誰が予想出来ただろうか、このパラソムニアシンドロームの原因を作り出した元凶であると。
今も状況を常に把握し、的確に指示を出している彼が、妹を夢の世界に引きずり込んだなど誰が想像出来ただろうか。俺は内心の激情を抑えつつ、やるべき事をなすために平静を保つように心掛ける。
「端末に情報を送っておいた。チームで確認するといい」
博士は短くそう言い、再びモニターに目を戻した。彼の言葉に従い、俺は情報を確認するために扉の向こうへと足を踏み出す。この施設には外部持ち出し不可の専用端末があり、端末は各チームの共有部屋に固定されている。一般的なスマートフォンと似た外観だが、セキュリティは厳重に施されており、外部との接続も遮断されている。
施設内を歩くと、白い床には進行方向を示す青いラインが点灯する。ラインは歩くたびに後方の光が消え、前方へと新しい道が示されるようになっている。この設計は、誰もが移動方向を見失わないようにするためのものだが、同時に、来た道を簡単に辿れないようにもなっているようだ。一体、何をそんなに警戒しているのか、施設の厳重さに若干の疑念を抱きつつも俺は歩みを進めた。
右折、左折をいくつか繰り返した後、ようやくチームの共有部屋に辿り着く。扉を開くとチームメンバーが既に集まっていた。