雫から見た滉誠
放課後になり、俺たちは雫と会話をしていた。
「二人とも、めちゃくちゃ運動できるんですね」
「まぁね」
「そう......か?普通じゃない?」
「その普通がもう普通じゃないから」
ゆりが呆れたように笑い、雫も小さくうなずく。
「ゆりちゃんの言うように、滉誠君は本当にすごかったんだね」
雫が、まじまじと俺を見つめる。
「本当にそう。力以外だったら、全部1位だから相変わらず化け物だよ」
「まぁ、体格差はどうにもならないからな」
「普通はそこで悔しそうな顔しないと思うけどね」
ゆりはそんな事を言うが、負けるのはやはり悔しい。
「悠真君は、学年でも2番目に足が速いんですよ」
雫は気を遣ってくれたのか、十分凄いとフォローしてくれる。
「へぇ、じゃあ1位の人なら滉誠に勝てるかな」
「それは、難しいと思います。けれど、全国大会に出た人先輩なら勝つような気がします」
雫がさらりと返す。
「……へぇー」
俺は自然と笑っていた。まさか、ここで何かに挑戦できる機会があるとはな。
「ってことは、いい勝負になりそうだね」
その言葉に、雫が少し驚いたような顔をした。
「ゆりちゃんは滉誠君が勝てると思ってるんですか?」
「まぁ、滉誠なら何とかしそうな気がする」
「流石に、全国上位なら難しいが、出場レベルならやりあえるかもな」
「事実しか語らないからこそ、恐ろしいよね」
「本当に滉誠君は何者なんですか?」
「人よりも何十倍と経験を積んだ人ってところかな」
「確かに才能だけでないのは事実だね」
雫は驚いたようでいて、でも疑問に思ったのだろう。俺に尋ねてくる。
「経験ってどのくらいの時間ですか?」
「時間って捉え方よりも、格上の人に常に挑んできた。限界を越えさせられたって感じだな」
俺の続きを待つように、雫は俺を見つめていた。
「勉強なら世界で有数の大学かつ教育経験がある人に放課後4時間。運動ならその道の元プロに教わっていた。もちろんプラスで自習だな。その生活を10数年続けてる」
「大変じゃないんですか?」
「人は慣れるからな。といっても、限界を超えるようにと毎週課題のレベルが増加するんだけど」
その事実に苦笑しつつ、そのお陰で大抵のことで困らないのは有り難いのかもしれない。
「そんな訳で友達が碌にいないから、友達になってあげてね雫ちゃん」
「うっ...」
一番効く言葉を俺に投げかけてくる。
「自覚はあるんだ」
「マジトーンはやめてね」
「滉誠はまずは認識を改めるところから必要だよね。そう思わない雫ちゃん」
「え、そうですね」
少し驚いたようにこちらを見つめながら頷いていた。
「滉誠にとって普通にできるってなに?」
「急にどうしたの?」
俺が戸惑ってゆりを見つめていると、雫は珍しく意見を伝えてくれる。
「私も気になります。滉誠さんにとって普通の基準はあるんですか?」
「まぁ、さっきのスポーツで言うなら、全国大会に出るレベル……とかかな?」
俺が言うと、ゆりがすかさず突っ込む。
「それ、普通じゃなくて凄くできるレベルだから!」
「いやいや、できるってのは世界レベルじゃない?」
「いやいやいや」
ゆりはそう言って否定する。
「苦手はどうなるの?」
「部活未経験」
「そこそこだと」
「県大会に出場かな」
「こっちの価値基準を侵食しようとしないで」
ゆりの過剰な反応に、雫も笑っていた。先程まで真剣な表情だったけど、何を考えていたんだろうな。
「まぁ、ゆりの芸は置いておいて、雫は何の競技に出るんだ?」
「私ですか?」
彼女は少しだけ口元を緩めて、答える。
「玉入れと二人三脚に出ますよ」
「どっちもチームでやる競技だねっ」
「はい。二人三脚は友達の香奈恵ちゃんと。玉入れは、美穂ちゃんと出ます」
「そうか...ちなみに、雫は運動得意だったりするのか?」
「滉誠さんに聞かれると答えずらいでけど、クラスの平均くらいですよ」
それに俺は頷いて返す。
「意気込みは」
「え!?...優勝します?」
「なぜ疑問系なんだ?」
「そりゃ、急に振られたら訳わからないでしょ」
「確かに」
俺は一人笑ってしまう。それを二人は怪訝な表情で見つめていた。
「なんにせよ、優勝目指そう!」
「おー」
「お、おー」
そう言って檄を飛ばす。この体育祭で彼女は何を求めるているのか、それを見れるような気がした。