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ナイトメアシンドローム  作者: 夢見る冒険者
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迷路

「みんなは、調べてみてどう感じた?」


「正直な感想を言うと調べられることがないって感じたよ」


どうやら、彼女も同じ感覚だったようで、少し眉間に皺を寄せて考え込んでいる。


「ちとせとひなはどうだ?」


ひなは言葉を探すように視線を泳がせながら呟いた。


「私もうまく想像できねぇです」


その隣で、ちとせも無言で頷く。表情を見れば、言葉は要らなかった。


「私も分からなかった。なんというか普通。そういう印象が強いかな」


ゆりもひなも、それを聞いて共感する様に小さくうなずいた。


「その上で、だ。彼女は、何に悩んでいたと思う?」


沈黙が一瞬流れた後、ちとせが口を開いた。


「クラスの誰かに告白して、振られたとか?」


「なるほどな」


俺では想定できない答えだった。それ程までに誰かを好きになったことがないし、依存する自分を想像できなかった。その点で言うと、まだ相手目線で立てていないのだろうな。


「私は憧れていた人に拒絶された、みたいな感じかな。彼女が告白するって事があまり想像できなかったから友人か先輩って関係かな」


「確かにそれはありそうだな」


「そうだね、両親にも相談しづらいだろうし」


「ひなはどう考えたんだ?」


「自分の悪口が書かれてるのを見てしまったとか、ですかね」


それぞれの意見に、うなずける部分はあった。

けれどどうにも、心のどこかが「それじゃない」と言っている。


全員が、口に出さずとも感じている。何かしっくりこない感じがした。


「それで滉誠の方はどう考えたの?」


俺は自分が想定する状況について上位3つほど話す。皆の意見を統合するが、いい考えは出てこない。


「…もしかするとさ」


俺は口を開いた。


「雫は、自分でも気づかないうちに、何かにずっと耐えてきたんじゃないか」


みんなが静かに耳を傾ける。


「一つの出来事はきっかけにすぎなくて、それが連鎖的に積み重なってしまった可能性もあると思うんだ」


「実は、私もそれは感じてるんだ。 だからこそ、予測が立てづらいって感じるんだけど」


「それって、大きな出来事なら関連する事が想定しやすいって事だよね?」


ちとせの中でもそんな不安があったのだろう。確かめる様に聞いてくる。


「あぁ、根本的な原因が想定しずらいって感じる」


告白をして振られた、両親と喧嘩をした、そんな分かりやすいキッカケが今回は見当たらない。何より彼女の人物像から考えると、誰かと争う様なことをしそうにないのだ。


クラスみんなからは、特に目だない存在という認識で、彼女を嫌っているような人物を想像できない。そして、家族関係も特に問題はなくて 一般的に見て 彼女の人生は幸せという他がないように見てとれる。


逆に考えれば だからこそ 彼女は より幸せな自分を想像したのか それとも慣れない姿を絶望したのか?何せよ予測を立てるしかないという事実だけが残っている。


「やっぱり実際に会った時の反応を見るしかないのかな?」


俺たちの考えが煮詰まっているのを感じたのだろう。ちとせが雰囲気を変えるためにそう呟いた。


「それは一理ある。彼女の何に一番の反応を示すのか試すしかないかもな」


「それは、雫ちゃんが大変だな」


「まぁ、滉誠が相手だと仕方ないよね」


「その通りです」


三人は分かりあった様に頷く。


「今って、俺たちが大変って話じゃなかった」


「そうなんだけどね」


「滉誠が関わったら、波風が立たないはずねぇです」


「そんな風に信頼されるのは、なんだか微妙だな」


「まぁ、仕方ないよね...」


ゆりも明後日の方を向きながら、そう呟いた。


「あまり、人を困らせたくないんだけどね」


「嘘です」


「嘘だね」


「ダウト」


三者三様で俺の言葉を否定する。1割は本音なんだけどなと思いつつ、実際には本気で向き合わない人間に誰が心を動かされるのかと思ってる。勿論、マイナス面に振り切ることもあるけれど。


けど、皆が即答するほど自分のことを分かってくれているってのもなんだか嬉しく感じてしまう。


「まぁ、現状は皆納得はいってないって感じだよね」


「そうだね」


「そうです」


「うん」


「なら、方向性だけは統一しよう」


「というと?」


「場所はどこになると思う?」


「現実世界で学校?...かな」


ちとせが不安そうにしながら皆の顔を見る。


「俺もそう思ってる」


皆も頷いて同意を示す。


「中でも人間関係って認識でいいか?」


皆が頷いたのを見て、俺も頷く。


「なら、その方向で考える。一回風呂で頭をリラックスさせようぜ」


「そうだね」


「そうね」


「いくです」


こうして、重くなりすぎた空気を一度切り替えることにした。未だに見えてこない彼女のことを考えながら、その輪郭を掴むために静かに歩みを進めるのだった。

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