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ナイトメアシンドローム  作者: 夢見る冒険者
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閑話

心愛の見舞いに行った翌日、俺たちは珍しく施設からの呼び出しがなかった。どうしようかと考えていたところ、ゆりから提案のメッセージが来ていることに気づく。


「ねえ、みんなで遊びに行かない?」


その一言で、俺たちはレジャー総合施設に来ていた。


「私ね、ちょっと見てみたいと思っちゃったんだよね。滉誠が出来ないところを」


ゆりが悪戯っぽく笑う。


「いいと思うですね!」


ひなも興味を持ったのか俺の方を向いて、ニヤリと笑う。


(普通に聞けばいいのに)と心の中で突っ込んでいると、表情から察したのかゆりが言う。


「もちろん、滉誠から弱点を話してもらうのもアリだけど暴き出す方が面白くない?」


「わかる!」


うんうんとちとせが頷く。


「不意打ちで焦った顔とか、見てみたいよね」


「まあ、私は一度見たことあるんだけど」


「それ、あっちの世界ででしょ!」


「私達は見たことないから想像しかできない…っていうか、想像もできないけど」


「じゃあ、片っ端から遊んでこう! 交流も兼ねてまずはカラオケからいこうか」


「いきなりカラオケ!?」


あまりにも予想外な提案に、思わず声を上げてしまう。


「やっぱり反応薄いよね」


「普通ならもっと驚くところです」


「まぁ、想定の範囲内ではあるからな」


「そういうスカし顔がムカつくです」


ひなはぶすっとした顔になりながらそう告げた。


やっぱりこの程度は、そつなくこなすよね。俺の歌を聞きながら、ゆりがうんうんと満足げに頷いた。


「そつなく、っていうか……普通にうまくない?」


ちとせがそう告げると、ゆりは冷静に返す。


「うん。なんか滉誠の場合は上手いのがデフォルトって感じするから」


ひなも隣でコクコク頷く。


「ひなも同意する、です!」


嬉しいやら気恥ずかしいやらで、俺はちょっと頭をかく。


(けど、そこまで言われると逆に歌いづらいんだが...)


「やっぱりボウリングも、ゲームも、そつなくこなすね、滉誠」


「ほんと、苦手なものがないというか、得意って感じだよね」


「ほんと、こいつどうなってやがるです」


ひながぶつぶつ文句を言うのを横目に見つめる。既に俺たちはあちこち遊び倒していった。


「パンチングマシーンでも、かなりの数値を叩き出してたよね」


「まあ、あれは仕組みを知ってる側からすれば、ちょっとズルだったりするんだけどな」


「どういうこと?」


ちとせが首を傾げて聞いてくる。


「機械によって、センサーが反応するタイミングや、衝撃の伝わり方で計測するんだよそれを理解して殴れば力以上の数値を出すことができる」


「ズルじゃねーですか!」


「違うよ、ひな」


俺は軽く笑いながら肩をすくめた。


「世の中ってのは仕組みを理解して、上手く使った方が勝つ。ズルいくらいがちょうどいいんだよ」


「納得はできねぇです」


「まあ、犯罪になったらアウトだけどな」


「やっぱり、滉誠はお父さんの仕事を手伝ってそう言う力がついたの?」


「確かにその影響はでかいな」


ゆりが納得した様に頷く。


「で、実際おいくら貰ってるの?」


「父親からは貰ってないぞ」


「ヘェ〜意外だな。結構稼いでそうだけど」


「まぁ、俺自身が経営している会社の方では儲けてるな」


「……え?」


みんながぴたっと動きを止めた。


「経営してるってことは、滉誠は社長なの?」


「正直今は経営してたって言ったほうが正しいかな、殆どの引き継いだし」


「もしかして滉誠、金持ちですか?」


「まあ、普通の高校生が持ってない金額ぐらいは、な」


「滉誠の普通がもう信用できないんですけど」


「何桁くらいです?」


ひながじっと俺を見上げる。俺はちょっとだけ考えてから、答える。


「まあ、君たちの想像の、ちょっと上くらい、かな?」


「今持ってるのだと……八桁だったっけな、確か」


「ってことは、数千万ってことじゃねえですか!」


ひなが思わず声を裏返らせる。


「まあ、そうなるな」


俺が頷くと、すかさずゆりが笑って告げる。


「滉誠、ここの代金は頼んだ」


「まあ、ユリにはいろいろ助けてもらってるしな」


「私は悪いから自分で払うよ」


「気にすんな」


俺は軽く手を振る。


「そんなに金を使うものもないしな」


「へえ。そんだけあったら、結構ぱーっと使っちゃいそうだけどね」


「まぁ、実際いろいろ買ってはいるね。でも結局、物じゃ満たされなかったってところに落ち着いたかな」


「そういうもんなのかな」


ちとせが小さな声で呟く。


「まあ、人それぞれだな」


「そっか」


ほんの少し、静かな時間が流れる。


「それより、次はあれやろうぜ!」


俺がそう提案して、次のゲームへと向かう。普通の、何気ないやりとり。それが、今の俺にはとても新鮮で、楽しかった。


友人たちが無邪気に笑い合う姿を見つめながら、胸の奥に温かいものが広がっていく。


俺も、きっとこういう日常を、こういうかけがえのない時間を。どこかでずっと、求めていたんだろうな。そう感じた。

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