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ナイトメアシンドローム  作者: 夢見る冒険者
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一難去って

朝の光とともに目を覚ます。姫様と会うのは午前十時ということもあり、諸々の準備を済ませて、いつも通り7時30分頃に食堂へと向かう。


用意されている朝食を口に運びながら、一日の活力をもらいつつ、皆に挨拶を交わし、隣に座るサイフォスに声をかけた。


「サイフォスはよく眠れたか?」


少し雰囲気が暗いサイフォスを心配して声をかけると、案の定調子が良くないとの返答が返ってくる。


「眠れるわけないでしょ。王女に会うのってすごく緊張するし。何より、昨日の試合に負けたのが悔しくて眠れないよね」


「同情はしないけど、気持ちはわかる」


「逆に、滉誠は寝れたの?」


「いや、全然。俺も姫様に会うのは緊張するし、試合の熱もまだ冷めきってなかった」


「達成感とか、満足感で眠れそうだけどね。そういのはなかったの?」


「まぁ、それもあったけれど、何よりも本気で戦い合った試合なんて久しぶりだった」


「ふうん、そっか」


「特に、お前との試合が最高だったな。一撃でもまともに食らえば危険なレベルで、互いに警戒して、勝つために試行錯誤する。それが楽しかった」


「なら、次は滉誠に“負け”を提供してあげるよから、もっと熱くなれるね」


「やってみろ」


互いのことを意識ながら、俺たちは朝食を朝食を平らげる。8時ごろになると俺たちは用意された馬車に乗り込み、王城へと向かった。


「にしても、騎士団にこんな豪華な馬車があるとはな」


「どうやらこれは団長の持ち物らしいよ」


「ふーん。ってことは団長って貴族出身か」


「まあね。騎士団の団長を任されるなんて、貴族の指定じゃなきゃまずありえないから」


言われてみれば、それもそうか。国を守る騎士団のトップを、平民に任せるっていうのは、リスクが大きいしな。俺が考えていることを察してか、サイフォスが補足的に話してくれる。


「もちろん、実力で登り詰める人もいるよ。かなりの実力がいるけれどね」


「確かに国に支えてきた貴族の方が信頼感はあるよね」


「まぁね、密偵の可能性があるからこそ、失うものが大きい貴族が務めることが大半だね」


そんな風にサイフォスと会話をしながら、窓の外を眺める。改めて城下町の様子を観察すると、この国がいかに賑わっているかが見えてくる。食料の問題もなさそうで、人々の笑顔が自然に溢れていた。


その様子に心愛が望む世界を少し垣間見た気がする。「幸せな世界」を本気で願っているのだろうと。


人とともに生きるなら、やっぱり求めるのは幸せだしな。


窓の外を眺め続けると、道の景色が徐々に変わっていく。道路が整備された石畳へと移り変わり、高級そうな店も並び始める。


なるほど、やはり富裕層が住む地域は綺麗で整っているな。町並みが少しずつ変化し、一目で分かるほど大きな建物が見えてきて、王城へと近づいているのがわかる。


「滉誠、礼儀ってどんなのがあるんだっけ?」


サイフォスももう少しで王城に着くことを実感してきたのだろう、そんなことを言いながら焦ったように助けを求めてくる。


「今からいろいろ詰め込んでも無理だと思うぞ。でも、お前は普段から真面目だし、それだけで十分礼儀正しい。いつも通りで大丈夫だ」


「そ、そうかな……?」


彼が自信を持てるように、目をしっかりと捉えて、頷く。


「もちろん」


そんなやりとりをしているうちに、馬車は王城の前に到着し、重厚な門が静かに開かれていく。


その先に広がるのは、まるでヨーロッパの歴史書に出てくるような、壮麗な城。城で働く人々の動きは無駄がなく、統制の取れた様子に、自然と背筋が伸びる思いがした。


中に通されると、俺たちを案内する男性の姿が、停車した馬車の傍に見える。


背筋を伸ばしたその立ち姿には一切の乱れがなく、体幹も安定しているのがわかる。静かで端正な顔つきのまま、俺たちが声をかけるまで微動だにせずに待ち続けていた。


「すみません、あなたがアリシア王女への案内係の方ですか?」


そう俺が声をかけると、男性は一礼して答える。


「さようでございます。私の名はゼオルド。アリシア王女付きの執事を務めております」


「ゼオルド様、ありがとうございます。早速、ご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「もちろんでございます。ただ、その前に一か所だけ、立ち寄っていただきたい場所がございます。お二人とも、よろしいでしょうか?」


俺たちは顔を見合わせてから頷く。服装的なものでの礼儀とかあるのだろうか、そう思案する。


「問題ありません」


サイフォスがそう返し、俺たちはゼオルドの後に続いた。道すがら、ゼオルドが口を開く。


「お二人は、どのような経緯で騎士団に入団されたのでしょうか?」


「僕は父が騎士の家系で、自分も騎士を目指しました。幸い、多少の才能にも恵まれていて、目標としていた多くの人々を助ける象徴としての王立騎士団に入団できました」


「それは立派でございますな。お父上のことは尊敬されているのですか?」


「もちろんです。常に強く、正面から相手を見据える父を、僕は心から尊敬しています」


「滉誠様はいかがでしょう?」


「俺も……そうですね。平和な世界を実現させたい、そう願って剣を握っています。人が悪に踏み外すという現実を直視してこそ、理想はただの空想ではなくなると思っています」


「お二人とも、まことに立派な志をお持ちですね」


その言葉には感心の色が込められていた。だが、次に続いた言葉から、空気がぴたりと変わる。


「ですが――ひとつだけ、心得ておいていただきたいことがございます」


和やかだった口調が一変し、厳しさを帯びる。


「先ほどのお話を伺う限り、両名とも平民のご出身のようです。共に貴族ではございません」


言葉の重みが増す。俺とサイフォスは互いに視線を交わす。


「俺たちが姫様に害をなすとでも? それとも、恋愛的な意味で心配されているんですか?」


「左様でございます」


ゼオルドは表情一つ変えずに応じる。


「仮に姫と結婚を望まれる場合、最低でも伯爵の地位が必要となります。もっとも、そんな可能性は万に一つもないとは思っておりますが」


その言葉に、彼の過保護さが垣間見える。だが、立場を考えれば当然のことでもある。


なるほどな。まあ、貴族というのはそういう面もあるなら仕方ないのか。


「とはいえ、今すぐ結論を下す気はありません。ただ、お二人には示していただきたいのです」


ゼオルドの瞳が、鋭く俺たちを射抜く。


「姫様にお会いするだけの“実力”があるのかどうかをです」


そう言って案内された場所には、一人の屈強な男が立っていた。


「これより、お二人にはこの者に挑んでいただきます。あなた方の真価――しっかりと拝見させていただきます」


どうやらまた面倒ごとに巻き込まれたようだった。



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