滉誠が求めたもの
本来なら、豪華な祝賀会の主役の席に座っているはずの俺たちは、なぜか壁際で正座をしていた。
皆が賑やかに騒ぎながら、豪華な料理に群がっているその光景の外側で、俺たちは静かに膝を揃えて座っている。騒がしさが遠い世界のようにすら感じた。
あまりにも戻りが遅かった俺たちを、団長が探しにきたことでようやく我に返ったが、そこから急いで駆け戻っても、門限には間に合わなかった。罰として、今こうして、皆が食事を楽しむ様子を静かに見守る羽目になっている。
三十分経ったら、残ってるものを食べていいと言われたが、果たしてその残りがあるかどうかすら疑わしいな。特別に、嗜好品の酒まで振る舞われているから、そちらに気を取られることを願うしかないな。
けど、こうして皆が笑顔で食べたり飲んだりしてはしゃいでいる姿を見るのはどこか心が温かくなるのを感じた。
「滉誠、ごめん。先輩である僕が気をつけるべきだったよね」
試合に誘ったからだろう、サイフォスが申し訳なさそうな顔で謝ってくる。
「いや、新人の俺こそ気をつけるべきだった。まあ」
「どっちもどっちってとこかな」
俺たちは苦笑しながら笑い合う。
「それにさ、こうやって皆の騒ぐ光景を見てるのもなんだか楽しいから良いかなって感じる」
「なんとなく、分かるよ。仲間感があるよね」
「だろ? 笑い合える仲間と、こうして一緒にいられる。それだけで、十分幸せだよ」
「居場所や家族って感じなのかもね?」
そう言われて気付かされる。俺は、こういった“温もり”に憧れていたのかもしれない。ふと、そんな気持ちを抱いていたことに少し驚いた。
「だからといって、目の前でご馳走を見せびらかされながら食べられるのは、正直イラッとするけどね」
「まぁ、俺たちがやらかした結果だから、仕方がないよ」
「まあな……」
温かな目で見守っていたが、25分が過ぎた頃には、テーブルに並んでいた料理はほとんど消えていた。マジかコイツら。
サイフォスでさえ苦情に変わるほど、遠慮がない状態に俺も乾いた笑いを浮かべるしかなかった。そんな状態に対して、逆にツボってしまう。
そんな状態を心配したのどろう。優しい言葉をサイフォスは投げかけてくれる。
「滉誠、残ってるものは全部食べて良いからね」
本当に、こいつはどこまで優しいんだ。そう思いつつ、安心させるように告げる。
「怒ってとか、悲しんで笑ったんじゃないよサイフォス。多分、遠慮がないからこそ家族のように感じて、なんか楽しくなってきて笑ったんだよ」
「そっか」
表情や言葉から嘘ではないとわかったのだろう。サイフォスは安心したように笑う。
こうした喧騒の中、ふと気づいてしまった。俺は妹とこんな風に話せるまで向き合いたかったのだと。
ここ数日間は本当に楽しかった。自分の感情を曝け出して、意思を貫いた瞬間は久しぶりだったから。
だけど、冷静にならないといけない。そろそろ心愛の目を覚まさせないといけない。この世界に染まり過ぎるのも良くないからな。
「滉誠、なんでそんな神気くさい顔してんだ」
そう言って、騎士団の仲間が肩を叩いてきた。
「お前らの分の料理、ちゃんと分けておいたんだぞ」
そう言って、厨房から俺たち用の皿が運び出される。そこには沢山の料理が並んでいた。
「食い切れなくても安心しろ。今日の俺たちが全部、平らげてやるからよ」
やっぱり、この騎士団は温かいな。そう思いながら、湯気の立つ料理に手を伸ばす。隣には、変わらず笑っているサイフォスに寂しさを感じた。
この出会いが、夢じゃなくて、現実だったら良かったのにって少しだけ、そう思ってしまった。
これじゃあ、心愛に対して辛辣に言える立場じゃないなと思いつつ。慣れて薄く感じる味付けの料理を口に運んだ。