再ダイブ
ちとせとヒナをゆりが起こす。着替えるために俺は部屋の外に出され、彼女たちと入れ替わりで俺も着替え準備を整える。
ピコンとタイミングよく博士からのメッセージが送られ来たのを確認し、博士の元へと全員で向かう。俺たちにとって必要な情報でヒナの客観的なアドバイスがあったからこその得られた情報である。
「みんな準備はできてるよね」
ゆりが皆を見渡しながら問いかける。
「はいです」
ヒナが元気よく手を挙げて答える。
「もちろん」
俺もゆりの目を捉えて返答する。
「私も、できてるよ」
腰ぐらいの高さでガッツポーズを決め、晴れやかな笑顔から、十分に気合が入っている事が分かる。
皆昨日までとは表情が異なり、チームで一方を向いている一体感を感じる。博士がいる部屋に入ると早速追加の情報が表示される。
「君たちが望んだ情報だ。他に必要なことはあるか?」
博士が俺たちに問いかける。皆が顔を見合わせて頷く。
「「「ありません」」」
「ないです」
若干博士が微笑んだ様な気がした。
「検討を祈る。」
そう告げると、博士は踵を返して部屋から出ていった。俺たちは思い思いの感情を抱いている。けれども、楓を助けるという事に対して、皆が本気である事が見て取れる。
きっと予想外のことが起こるだろうけれど、このチームならどんな事でも乗り越えられる確信があった。
俺たちは与えられた情報を整理して再度計画を詰めていく。与えられた時間内で楓を助けると言う目的のために皆が意見を出していく。
きっと想定外のことをいろいろ考えたって仕方がないって事はわかるけれど、いざって時に対処できるように、そして考えがまとまらない場合にどうすべきか行動の部分だけはしっかりと決めておく。
想定通りに行くことなんて絶対にありはしない。だからこそ俺たちは現状できることをこなしていく。お昼を取りながらも話し合いを続けていよいよ時計が14時半を回る。
「みんな準備はできたね」
ゆりがみんなを見渡して問いかける。皆返事ではなく覚悟を持ってうなずく。
「リーダー何か言う事は?」
ゆりが俺に問いかける。
「俺たちは十分やったなんて言わない。だけど皆ができる限りのことをやってくれた。だから、俺たちは絶対に彼女を救える。」
みんなを見渡して表情を確認する。
「ヒナ、今回は基準値を10ポイント程上げてほしい」
「わかりました」
ヒナが深く頷く。
「ちとせ、俺達は必ず成し遂げる。けれど、もしも助けたほうが良いと判断したら迷わずに起こしてほしい」
「うん、表情の変化に至るまで確認する。数値じゃ分からない部分は私に任せて」
ちとせが自信と覚悟を持った表情で応える。
「ゆり、俺がどんな選択を取ったとしても慌てないでほしい。代わりに俺もゆりの判断に全幅の信頼を置いているから。」
「わたったわ」
ゆりが、こくりと頷く。
「みんな、いくぞ!」
「「「うん」」」
皆が頷いて、立ち上がる。俺とゆり・ちとせは出口に向かって歩みを進める。対照的にヒナは中央施設に足を運ぶ。もう覚悟は決まっている、あとはやるだけ。不安な中でも行動をし続けることが大切だと俺達は既に学んでいるのだから。
病院について前回と同様に手続きを済ませる。病室までの道のりを進んでいき、ちとせと別れる。
「頼んだよ、滉誠。ゆり。」
「任せろ」
「任せて」
俺達はゆりに笑顔で応える。
「ゆり、頼んだ」
「頼んだよ。滉誠」
互いが互いに協力することを誓い合って歩みを進める。前回と同様に急に眠気を感じながら俺達は歩みを進める。前回よりも耐性ができたのだろうか、布団についても俺達は少し抗う力が残っていた。
「ゆり、手を握るぞ」
「うん」
今回は互いに互いを離さないように、どっちかが目覚めた時が終わりのタイミングだと決めている。俺はもう一人で行動をしない。出来ることなど限られていると分かったから。
ゆりの手を握ったタイミングで気持ちが若干緩んだのだろう。俺は夢の世界へと落ちていった。