一回戦
開始の鈴の音と同時に、俺は地を蹴った。相手の魔法の前兆を探りながら、発動された魔法を避けるように左右のステップを踏み躱していく。
だが相手も慣れているのだろう、一切焦ることもなくこちらの動きを読みながら、動きながらも詠唱を並行して魔法を放ってきた。
今までの対戦で見ていて分かったことがあった。魔法使いたちは、いずれも近接戦をある程度こなす事ができていた。確かに、対人で考えるなら、距離を詰められたら敗北とか笑えもしないだろう。
この相手も例外ではないと見て、俺も正面にいる敵を視野に入れて立ち回る。距離が近づいて焦ったのだろう、相手が魔法で砂塵を巻き起こし、視界を遮って距離を取ってきた。
初級魔法とはいえ、連打されるのはまずいと思い、俺は軽率に飛び込むことを避ける。足音に神経を集中させ、相手の動きを先読みで動く。
(なるほどな...)
俺は内心で呟きつつ、目の前の光景をしっかりと見つめる。
砂塵を抜けた先で見えたのは、相手の頭上に現れたのは巨大な炎の塊だった。直径は10メートルを優に超えているだろう。離れていても、熱気を感じるくらいには脅威だった。
逃げ場のない絶望的な状況に、思わず笑いがこみ上げる。どう対処しようか。
まさか自分も巻き込む気か? ……いや、そんな無茶はできないだろう。
「なら、突っ込むしかないな」
そう呟いてさらに加速し、一直線に相手へと向かう。それに反応した相手は、上空から火球魔法を振り落としてきた。
俺はスライディングで滑り込みつつ、重心移動と剣を利用して、魔法を斜めに受け流す。炎の余熱は確かに肌を焼くようだったが、ユリが用意してくれた防具がそれをしっかりと防いでくれた。
「……助かったよ、ゆり」
思わず心の中で感謝を呟きつつ、さらに前進。
相手は目を見開き、驚愕の表情を浮かべている。あの一撃で勝負が決まるとでも思っていたのか? 甘いな。
焦った様子で放たれた魔法は、先ほどの威力には遠く及ばず、無造作な炎が宙をかすめるだけだった。相手の焦った状況を利用する様に、勢いを殺さず接近し、さらに距離を詰める。
逃げることを不可能だと察した相手も杖を振るい応戦するが──その動きは粗雑で、隙だらけだ。俺は剣の腹で杖を絡め取るようにしてはじき、素早く踏み込み、首元に剣を寸止めで突きつけた。
「……勝負ありだな」
審判の声が響き渡る。
「勝者、滉誠! 若き騎士、堂々の一回戦突破!」
割れんばかりの拍手と歓声が闘技場を包み込む。その熱気に心が浮き立ちそうになるが、俺は平常心を保ち、静かに元の立ち位置へと戻る。
深く礼をし、対戦相手に敬意を示す。相手も礼を返してきた。貴族の紋章を背負っている以上、悔しさ、喜びはあれど表には出さずに互いに礼儀を尽くす。
闘技場を去る様にして、それぞれの控室へと向かった。