サイフォスへの信頼
サイフォスが肩で息をしているのがわかる。戦いが終わり緊張が解けたのだろう。王女の張っていたバリアが自然と消え、心愛は迷いなくサイフォスへと駆け寄った。
「サイフォス!」
満身創痍の体を支えるように、彼にしがみつく。サイフォスは、少し照れくさそうに笑いながら、静かに言った。
「……情けないですよね、僕」
その言葉に、心愛は首を振る。
「そんなことありません。あなたがいたから、私は助かったんです」
サイフォスは剣を杖代わりにして、改めて自分の姿を見下ろす。至る所に切り傷があり、衣服はボロボロ、出血している箇所もある。
「姫様。俺、汚れてますし、血がついたら……」
そう言って、そっと距離を取ろうとするが——
「それでも……」
心愛はじっとサイフォスを見つめた。
「私を助けてくれたあなたを、少しでも支えたいんです。ダメですか?」
その健気な言葉に、サイフォスは息を呑み、拒むことなどできなかったようだ。彼は小さく微笑み、静かに頷き受け入れた。
「ありがとうございます」
そういって、心愛の力を借りる様に少しだけ寄りかかる。
俺たち騎士団はその様子を温かく見守りながらも、周囲の警戒を怠らない。脅威がないことを確認すると、俺は先輩に提案した。
「そろそろ、団長に報告をした方がいいですよね」
「そうだな」
先輩は魔道具を取り出し、団長へと連絡を取る。
『わかった。その場で引き続き、姫を護衛してくれ』
団長の返答を受け、俺たちは警戒を続けながらも、姫の護衛にあたる。報告して数分経った頃にサイフォスが姫に告げる。
「姫様、そろそろあなたの騎士団が到着するはずです」
彼がそう告げると、心愛は名残惜しそうにサイフォスの事を見つめる。
「なので自分一人で立ちますよ。...姫様に支えてもらったおかげで、力も戻ってきましたし」
サイフォスが優しく告げるが、まだ心愛は抱きついていた。階段を駆けてくる騎士達の音が聞こえてくる。
「それに、自分には、頼れる仲間もたくさんいますので」
そう告げられた心愛は寂しそうに笑い
「……そうですよね」
そう言ってゆっくりとサイフォスから離れる。俺は入れ替わる様にして、サイフォスに肩を貸した。
「必要ないかもしれないが、気遣わせてくれ」
「ありがとう。助かるよ」
サイフォスが俺に集中しない様に、何より俺の名前を言わない様に、心愛と会話をする様に促す。
「そんなことよりも、今は姫さんとの会話に集中しな」
何気ない日常の会話だけれども、二人は楽しそうに話し合っていた。 やがて、近衛騎士団が到着し、 姫の安全を確認する。
「どこにも怪我が見当たらないようで、安心しました。 姫様、参りましょう」
そう騎士が告げるも、心愛はそこに留まっていた。
「少し待ってください」
そう言うと、彼女は服の中から一枚のチケットを取り出す。
「サイフォス、あなたに出てほしい大会があるんです」
そう言うと、一枚のチケットをサイフォスの元へと差し出した。
「私が信頼する一番の騎士。あなたにぜひ出て欲しいんです」
そう告げると、周りの近衛兵からは睨まれた視線が集中するがそれでもサイフォスは彼女が差し出したチケットを受け取る。
「頑張ってくださいね」
そう言って、 満面の笑みを浮かべて、彼女は去っていった。 サイフォスはそんな彼女を、 愛おしく見つめるように、 彼女の姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。