覚醒
この巨体で、この速さ。まったく、理不尽にもほどがあるだろ。心中でぼやいているが、生憎そんな暇はない。
一撃でも当たれば重傷を免れない攻撃に対し、些細な動きから次の行動を予測してギリギリでかわす。というかほとんど紙一重だった。
想定より早い攻撃を反射的に躱し、剣風が肌をかすめる。あと少しでも反応が遅れれば、俺の身体は二つに裂かれていただろう。
(……化け物かよ)
だが、この速さと力。魔力で強化されているはずだ。そこには必ず限界が来るはずだ。
サイフォスと訓練したときも、魔力強化は長時間続けられるものじゃなかった。主に”MP”を消費するからだ。
(こいつも——いつかは、息切れする)
ただ、その”いつか”まで、俺が持つのか?
「サイフォス、起きろ!」
叫ぶ。だが、応えはない。壁にめり込んだまま、ピクリとも動かない。
(クソッ……!)
喉が焼けるように熱くなる。俺は相手の攻撃の隙間を縫って斬撃を繰り出した。
が——
ガキンッ!
衝撃で腕が痺れるのを感じる。攻撃したこっちが反動でダメージを喰らうとはな。そしてやっぱり
(……通らねぇ)
リカードが纏う鎧ごと切るつもりが、魔力を纏った鎧に攻撃が阻まれ、力の差を突きつけられる。
まるで、“絶望”を突きつけられるように——。
***
カンッ——!
金属が弾かれる音が響く。遠くで聞こえるのに、すぐそばで起きている気がする。
まるで、宙に浮いているみたいに身体の感覚がない。意識だけが、ここに置き去りにされているような——そんな感覚。
誰かの叫び声がする。
——でも、誰の声かはわからなかった。
「……動け」
いくつもの剣戟が鳴り響く。戦いは続いている。俺も、そこに参加しなきゃいけないのに。
でも——身体は、まったく動かなかった。
(……結局、俺はこの程度の騎士だったんだろうか)
ようやく、守りたいと思える人ができたのに。
ようやく、自分を受け入れてくれる仲間ができたのに。高め合える友人だって、できたんだ。
なのに。なのになんで動かないんだよっ
——負けられないんだ。負けるわけにわいかないんだよっ。
動けよ。
「サイフォスー」
ふと、鈴が泣いた様な声が俺の元に届いた。ああ、そうだ。俺がここに来たのは——初めて、本当に守りたいと思ったアリシア王女を救うんだ。
***
そのとき、視界の端に——白い炎が、揺らめくのが見えた。熾烈な輝きを放つ炎が。
サイフォス——?
これは、魔力によるものだと、直感で理解した。
(……なるほどね。こいつは——)
“俺でも勝てるかわからない”
そう思えるほどの力だった。だからこそ、今のサイフォスはただただ、頼もしかった。