就寝
重苦しい雰囲気を変えたのはひなの一言だった。
「どっちも大切だと思います。相手のことを考えることも、自分が伝えたいと言う思いも本気じゃなければきっと相手に伝わらないです。もちろん熱意をまだ伝えたって相手が私たちを知らなければ怖いだけです。だけど、私たちがこうやって今落ち込んでいる事は楓ちゃんを本当に思っているからじゃないですか?ひなはそれを伝えたいです。」
普段喋らないヒナが、一生懸命に伝える姿に皆感じることがあった。情けなさであり、悔しさであり、嬉しさでもある。あー、もう、何も分からない程感情がぐちゃぐちゃになる。けれど、単純に救うという覚悟だけは真に湧いてくる。
「そうだっ、俺は楓を救いたい。あの場所から、連れ出したい」
俺は感情のままに想いを伝える。
「わだしだってそうだよ」
ちとせは泣きながら答えてくれる。
「私だって、助けたい。」
ゆりも目に涙を溜めながら、こちらを見て意志を示す。
「ヒナって素だとそんな感じで話すんだな」
「変に感じるですか?」
少し拗ねたように、彼女は伝える。
「いいや、すごく嬉しい。俺達はちとせの言うように素直に気持ちを伝える関係じゃないといけないんだな」
「そうです、チームメイトの心すら動かせないようでは、楓ちゃんの心なんか動かせはしないです」
若干拗ねた感じを残しつつも、会話をしてくれるヒナを見て思う。
「ヒナって可愛いよな」
「な、な、なんですか急に滉誠が気持ち悪くなったです。」
狼狽えたヒナが、照れがありつつも若干本気で引かれている事が分かる。
「素直な気持ちを伝えておこうと想って」
「滉誠は本当にズレていますね」
二人の空間を作っていると、
「滉誠だけずるい、私もヒナちゃんを愛してる。」
そういって、ヒナにちとせが抱きつく、
やめるですー、というヒナの声を聞きながらゆりを見つめる。どこか遠くを見つめる彼女を見て俺は声を掛ける。
「ゆりは、どう感じるこの雰囲気を」
「若干緩んでいると感じる私と、人に接するってなんだろうって迷っている私がいる」
じゃれている二人には聞こえないような声量でゆりは俺に打ち明ける。
「なら、それを素直に伝えれば良い、俺達はチームなんだからさ」
「素直さが重要ってことでしょっ。あー、もうっ」
ゆりは普段は絶対に魅せないような、髪をぐしゃぐちゃっとする行為をする。
「二人共、じゃれてないで話すよっ」
吹っ切れたように、彼女は話し始める。ここからが正念場だと。
「まずは、話を整理すると楓ちゃんの気持ちに立って考える。場所は屋上で話す。ここまでは決定でいい?」
話している時間はとうに、24時を回っていた。肌が何だと言っている余裕などは俺達には一切なかった。あの後も話し合いは停滞したり、進歩をしたり、また戻ったりと繰り返しながらも精一杯を尽くしてた。
それでも、確かに決まったことがあった。現状考えてこれしか無いと結論付けた答えが。不安なことなんて数える程出てくる。けれど、それは実際にやってみないと分からないことが多くで、屋上が空いてなかったらとか、前回見たく出くわした場合はとか考えても答えが出ないことばかりだった。
後は、もう覚悟の問題だ。俺達は時間を決めて結論を出した。皆が一方向を向いていることがこんなに心地よいものだとは思わなかった。
「じゃあ、皆寝るから布団を引くよ。」
ゆりがそう言って、合図すると各自が椅子やテーブルを片付けながら布団を引いていく。
「ちょっと待て、なんで4人分布団を引いているんだ?」
俺は、冷静におかしい部分を指摘する。
「滉誠は、寝ないんですか?」
ヒナが首をかしげて聞いてくる。
「いや、別途あるからそっちで寝るでしょ!」
俺は2段ベットを指さして答える。
「でも、皆で横並びで寝たほうがチーム感でない?」
ちとせがチームになるためには必要だと訴えてくるが、そこには俺にも譲れない思いがある。
「もし、寝相が悪かったら、誰かの布団に入ることがあるだろう。絶対気まずくなるって」
「しょーがないですね、滉誠は。私が隣に寝てあげるです。私は気にしないですよ。」
そういって、優しげな笑顔で両手をヒナが広げる。優しいお母さんを演じているのだろうが、身長が足りない成果雰囲気が出ていない。でも、冷静に考えるとヒナは子どものような感じだしと若干、流されそうになる自分を抑える。
「いまさら気にならないでしょ、滉誠だし」
ゆりが冷静に毛布までセットしながら答える。あっ、なるほどね。自分がヒナを子供扱いしている様に、誰も私を男性として意識していないことを理解する。
「まぁ、いっか。」
俺は若干の悲しさを覚えつつも、毛布までセットする。
「電気消していい?」
ちとせが皆に確認する。
「OK」
「いいです」
「お願いするわ」
ヒナとゆりも同意をして電気が消される。
「にしても、修学旅行みたいで楽しいねっ」
ゆりがワクワクを隠せずに、声が弾んでいるのが分かる。
「確かに、中学の修学旅行を思い出すな。高校はベットだったし」
俺自身もワクワクしているのを感じた。
「私も気持ちは分かるけれど、明日のために早く寝るよ」
「ゆりに、怒られてるです」
そんな風に皆が皆、それぞれの想いを語りつつ、俺達は眠りについた。