仲間の元へ
俺は師匠に深く頭を下げ、礼を言う。
「ありがとうございました」
「おう。またいつでも困ったら来い。稽古をつけてやる」
「はい、お願いします」
「……まあ、お前さんは金払いが良いからな。いつでも待ってるぞ」
そう言って、師匠はくくっと笑う。ちょっとした冗談を交えながら、それでもどこか温かく俺を見ていた。
***
「……にしても、あいつ。また成長していましたね」
隣に立つ男、来電が呟く。
「あいつくらいの能力と向上心、成長がなければ、ここではやっていけん」
「それも、そうですね」
彼の横顔を見て思う。
こいつもまた、剣に魅せられた者なのだろう。
「——やるか、来電」
「はいっ」
***
車に乗り込んだ俺は、ゆり達との通話を開始する。
「それで、そちらはどんな状況なんだ?」
画面に映る三人とも怒っているのが分かる。ゆりはジト目、ちとせはため息、ひなに至っては頬をぷくっと膨らませていた。
「もう、滉誠、急にどっか行くんだから!」
「そうです! 事前に伝えておけです!」
「ほんとだよ、滉誠。置き手紙一枚だけで、心配したんだからっ」
画面の奥に映る彼女たちは、本当に心配しているようだった。同時に心愛のことも思って、勝手な行動をした俺を怒っているのだろう。
「何笑ってやがるです!」
「ごめんごめん。でも昨日のうちに、方向性も何もかも全て決めたから。俺の方でもやる事をやっておかないと思ってな」
「……何をやってたですか?」
怒りながらも気にはなるのだろう。ひなが頬を膨らませそうな勢いで聞いてくる。愛らしいって言ったら怒られそうだな、と思いながら、俺は端的に答えた。
「ちょっと剣の師匠に会いに行ってた。サイフォスに勝たないといけないからな」
「ふーん、勝手な行動をしたんだから、勝てるって断言できるんだよね?」
ゆりは怒っているのを装いつつも、冷静な目でこちらの思惑を探るように問いかける。
「ああ、勝てる」
「ずいぶん自信持ってるんだね」
「ああ。10回やって、10回成功させる自信しかない」
「へぇ」
若干の疑いはあるだろうが、感心はしているのだろう。頷いて少しは納得している様だった。
「ちなみに滉誠の剣の師匠ってどんな人なの?」
「ちとせも気になるか?」
「……まぁね」
きっと俺が責められている状況から話題を逸らそうとしてくれたのだろう。本当に優しいやつだ。
「名前は剣来勇——って言ってな。剣術をやってる人なら知らないくらいのすごい人だ」
「自信があるっていうことは、その人に勝ってきたんだね?」
ゆりが問いかける。
「いや、赤子を扱うかのように負けたな」
目を見開いて驚いているのが分かる。
「それでどうして勝てるって豪語できるのさ?」
それでも何か考えがあるんだろうと、ゆりは俺を見つめてくる。
「それは、サイフォスの剣術を真似した師匠なら、互角に渡り合えたからさ」
「……その人、そんなに強いんだ」
「すげーです! 滉誠の言ってた人、めちゃくちゃ実績残してる人じゃねーですよ!」
どうやら、隣で検索端末を使ったのだろう。ひなの驚いた声が聞こえる。
「ん? どれどれ……って、剣鬼とか剣神って……」
「ああ、言われてるな」
「てか、64歳?」
皆が驚いた顔で、画面の方を向いている。俺は同意する様に頷く。
「そうだぞ」
「……まぁ、俺と師匠の試合を動画に撮ってるから、不安なら見てくれ。それと、そちらでまとめた資料を共有してほしい」
俺はそう言って、一つの動画を送る。その間に、ゆりたちがまとめてくれた資料に目を通すことにした。
「わかった。こちらも資料を送る」
通話が切られた後、送られた資料に目を通し始めた。