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ナイトメアシンドローム  作者: 夢見る冒険者
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決戦

カンッ、カンッと木製の音が何度も道場内に響く。俺が師匠の剣を交わす回数も、確実に増えていた。


師匠の指先、体重移動、呼吸、目線——そのすべてが見える。空間に存在する全てが、まるで初めから自分の延長であったかのように感じる。


——世に言うゾーンという状態に入った。時間の流れすらゆったりと感じた。師匠の動きがよく見え、剣を交わす回数も、打ち合う時間も伸びていく。このひりつく瞬間が、たまらなく心地いい。


剣撃が加速する。俺は狙いを定め、鋭い突きを放つ。速い。今度こそ——。しかし、師匠はそれをひらりとかわす。もしくは、紙一重で交わされた。


「...グフッ」



師匠の真似をして紙一重でかわそうとしたその瞬間、見事に腹へ剣撃をもらった。


「舐めすぎだ、ボケ」


言葉と同時に鋭い痛みが襲い、一瞬立てなくなる。だが、俺は気合で立ち上がり、再び剣を握る。


——まだだ。師匠の動きを読み、さらに読み、ひたすらに読み続ける。集中を極限まで高め、そして、ようやく10分間、互角に打ち合うことができた。


相変わらず、師匠の体力の限界は見えない。息ひとつ乱れず、涼しげな表情のままそこに立っている。


「まだまだ青臭いのう、お主は」


俺は肩で息をしながらも、師匠を観察し続ける。呼吸、腕の長さ、踏み込みの角度——すべてを見て、想像し、勝ち筋を組み立てる。想像の目処が立った頃、俺は師匠に告げた。


「……もう一本、お願い、します」


「息も絶え絶えだが、やるのか?」


「ハイッ!!」


声を張り上げ、再び構える。剣を振るう。技の精度が上がっているのがわかる。思考ではなく、反射で最適解を選び続ける。最善の手を繰り出し、繰り返し、師匠を追い詰める。


そして、最後の突きを放ち、交わされた所で俺たちの動きは止まった。師匠が、ふっと鼻を鳴らす。


「この程度までできれば、お主も勝つことができるだろうな」


そう言って、師匠は頷く。次の瞬間、悪戯な笑みを浮かべ、俺に告げた。


「最後は真剣勝負と行こうかの」


俺も心の底から望んでいるのだから、大概だなとふと思った。


俺たちは互いに距離を取る。若干の休憩を挟み、息を整えた状態で再び向かい合う。その瞬間、俺は悟った。そこに立っていたのは、さっきまでの師匠ではなかった。


そこには、鬼がいた。獰猛な笑みを浮かべた捕食者——師匠が、俺を見据えている。最高ですよ、師匠。


「はじめっ!」


俺は体重移動を駆使しながら、師匠との間合いを詰める。互いにまだ剣は振らない。じりじりと探り合い、呼吸を計る。


最初の一撃——袈裟斬りを打ち込むが、師匠は難なく受け止める。剣が交差したまま拮抗し、一瞬の睨み合いの後、互いに距離を取る。続けざまに突きを繰り出すも、紙一重でいなされる。鋭いステップで距離を詰めるが、気づけば攻守が入れ替わり、今度は俺が捌く側に回る。


激しさを増す攻防の中、つばぜり合いへと持ち込む。剣と剣が火花を散らすようにぶつかり合い、互いに相手の動きを崩そうと探るが、一筋縄ではいかない。


——面白い。


ちらりと師匠の表情を伺う。その余裕に気づく。まだ本気ではない。俺の力を測っているだけだ。


余計な思考を捨てる。


***


やはり、こいつもやりおる。


たった数時間——されど、こいつにとっては一生の中の貴重な何十分。その一刻を濃密に過ごし、私に迫ってくる。


(もっと高みを見せろ。はよ、上がってこい)


剣を弾く。


(さあ、どうする?)


すぐに体勢を立て直し、打ち込む。下段から力を込めた攻撃。滉誠は体を回転させ、いなす。そこに、体をぶつけて相手の体制を崩すも、ステップを踏み、距離を取ることで追撃を避けられる。


やはり、速さ、力の強さといった部分は、十代には敵わんか。


しかし——私は衰えた身体を恨むことはない。まだ、できることはたくさんある。


闘志が燃え上がる。


動きを無駄なく繋げる。何度も身体に叩き込んできた技を、確実に、正確に繰り出す。上段から振り下ろし、受けられたその瞬間に蹴りを放り込む。


——だが、こやつはやや後方へ体重を逃がし、ステップでかわそうとする。だが、その先に待つのは私の剣撃だ。


避けるのではなく、着地と同時に受け止められる。力を殺さず、あえて正面から受けることで動きを止められる。そこから、剣を滑らせるようにしてつばぜり合いに持ち込む。


次の瞬間、ふっと力を抜く。鋭い連撃。上段からの振り下ろし。二度、三度と打ち合い、体を滑り込ませるようにして、胴を撃ち抜いた。


「——ふっ」


倒れ込むこやつを見て考える。こいつがもし、剣術だけにすべての時間を費やしていたら。いったい、どれほどの剣士になったのだろうか。


蹲る姿を見ながら、ふと、そんな考えが脳裏をよぎった。

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