心愛攻略会議
午後の訓練を終える。
俺は外出許可を取り、街を散策する。
昨日目をつけていた店舗に足を運び、数枚に分けて書いた紙切れを渡した。
――さて、これで準備は整った。
昨日と同じ時間、同じ場所へ向かい、ゆりと合流する。
「さすがだね。その顔、何かやりきったって表情をしてる」
ゆりが微笑みながら言う。
「ゆりこそ、準備は済ませてきたんだろ?」
「ええ」
ゆりは俺を真っ直ぐに見つめて、頷く。ゆりは、メイドの方に振り向いて、告げる。
「フレア、これから私がする行動について、ちょっとだけ目をつぶっていてほしい」
そう言って、近くにいたメイドに声をかける。
「お嬢様がそう言うのであれば」
メイドは静かに頷き、フレアの目を覆った。
俺はゆりに一歩近づき、そっと彼女の両肩に手を置き、ゆっくりと顔を近づける。キスをする寸前まで近づくと、ゆりも静かに目を閉じた。
互いの心音が速くなっていくのを感じる。互いの息遣いがすぐそこにあるのがわかる。
どれほどの時間が経ったのか――わからない。
ただ、俺たちはそのまま動けず、意識がだんだん遠のいていくのを感じていた。
「滉誠、ゆり」
不意に、千歳の声が響いた。俺たちは身を起こし、周囲の状況を確認する。現代の光景に安堵すると同時に、元の世界へ戻れたことを認識し、ちとせに尋ねる。
「会議室とかの手配はもうできてる?」
「うん、手配済みだよ」
ちとせが頷いたのを確認し、足早にその場を離れる。この場に居続ける事で心愛に影響があるといけない。なにより、あと1時間もすれば、また彼女の夢の中へ誘われてしまう。
さすがに3人とも囚われるは、面倒なことになりかねない。
そう思いつつ、俺たちは会議室へ移動した。事前に決めたと通り、迎えの車が来るまで、心愛への対策を練るために。
移動中に先ほどの光景を思い出してドキドキしているのがわかる。
それにしてもひなの要求とはいえ、ゆりとキス寸前まで顔を近づけるなんて、やはり恥ずかしい。それに、あんなに得をしていいのか、という微かな罪悪感を覚える。
それに、ゆりは俺のことをよく思っていないはずだ。楓の件では結構追い詰めたし...。ゆりに目を向けるとやはり視線を逸らされてしまう。
――ただ、これは必要なことだった。
「夢の中で目覚める時の鍵となるものが必要」とひなが発言した時の事を思い出す。何も持たない状況で再現できる手段として、ひなが導き出した結論。
……だから、仕方ない。
俺はそう自分に言い聞かせ、内心の動揺を押し殺す。移動が完了し、ネットを繋げる。
さあ、これから――心愛攻略の第2回戦だ。