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ナイトメアシンドローム  作者: 夢見る冒険者
116/206

再開

宿舎で外出手続きを済ませた俺は、すぐに街へと繰り出した。街路を歩くと、石畳が靴の底に心地よい振動を伝えてくる。


人々の話し声や、露店の商人たちの呼び声が入り混じり、王都独特の活気に満ちた雰囲気が広がっている。俺は足早に店を巡り、一時間で十軒ほどを回った。


目的は決まっている。無駄な寄り道はしない。すでに用意されていた金で、俺はいくつかのものを購入した。


さて、ゆりと落ち合うとしますか。俺は手に入れた信号弾と細い糸を使い、誰かが撃ったように見せかける細工を施した。慎重に引き金を引くと、


シュバァッ──!


青い閃光が夕空へと昇る。王都でこんなものを打ち上げれば、当然すぐに騎士団や警備兵に知れ渡るだろう。俺は少し離れた場所から、それをじっと見守る。


事前に決めていたのは、信号弾など目印となるなるものから南東にある、一番高い建物の下での待ち合わせ。(王城など一番重要な施設を北として)


俺は人気の少ない路地へと向かい、壁にもたれかかる。ものの二十分ほどで、ゆりが姿を現した。


「やあ、滉誠。待たせたね」


明るく微笑む彼女に、俺は肩をすくめる。


「そうでもない」


ゆりの姿を見て、俺は少しだけ目を見張る。


「似合ってるな。そのドレス」


「そう?」


ゆりは少し照れくさそうに、裾をつまんで軽く広げた。淡い紫のシルク生地が夜の光を柔らかく反射し、上品な光沢を放つ。そんな彼女の仕草を見たメイドが、すかさず口を挟んだ。


「はしたないですよ、お嬢様」


メイドらしき人物は、俺を警戒するように上から下までじろりと見てくる。無理もない。騎士とはいえ、彼女から見れば得体の知れない男なのだから。


「お嬢様、この方は?」


「昔知り合った騎士様よ」


「そうですか」


メイドは納得したような、しないような表情を浮かべるが、それ以上は詮索しないようだった。俺も軽く頭を下げる。


「申し遅れました。王国軍第一番隊所属、滉誠です」


「滉誠……なるほど、覚えておきます」


メイドは少しだけ険を解き、頷く。


「それで、滉誠は憧れの人に会えたの?」


ゆりが軽く身を乗り出してくる。俺は口元に不敵な笑みを浮かべ、少し芝居がかった口調で答えた。


「ああ、もちろん」


ゆりの目が、驚きにわずかに見開かれる。


「私はね、ダメだった」


そう言って、ゆりはわずかに視線を落とした。


「いくつか、会いたい人には会えたんだけどね。聖女様とか、同じ貴族の知り合いとか……」


「俺は黒髪の王女、アリシア様に出会えたよ」


ゆりは感心した様に、笑みを浮かべる。


「どうだった? 可愛くてデレデレしたんじゃないの?」


「いや、それない。それどころか俺じゃなくて、同僚の騎士様が惚れられたよ」


俺は苦笑いを浮かべる。


「やっぱり、人生ってのはうまくいかないもんだな」


「……そうだね」


ゆりは少し困ったように笑う。


「それで、行き詰まってるんだ」


「まぁな。つくずく、自分は主人公じゃないって思い知らされたよ。ただ、見ていることしかできなかった」


自嘲するように呟くと、ユリは少し考え込むように目を伏せた。


「……うーん、私も助けてあげたいんだけどね」


小さく息をつき、彼女は苦笑する。


「立場ってものがあるから。ここにだって、無理してメイドにお願いしてきたんだから。あと三十分もしたら帰らないといけないの」


どうやら、ユリも時間制限という枷をはめられているらしい。俺たちは互いの状況を確認しながら、ある程度の方向性を定めるべく話し合った。


「まあ、王女様に会うことなら、お茶会とかでまた会えると思うし。お話ぐらいなら聞かせてあげられるよ」


「それは助かる」


俺は静かに頷いた。


「俺も騎士として、この国を守る立場にある。もし何か助けが必要になれば、言ってくれ」


ゆりは少しだけ目を細め、微笑んだ。


「……うん、ありがとう」


互いに枷があり、役割を強要されていること。目的の人物の共有は済んだ。互いが出来ることを果たすべく、俺たちは足を踏み出した。

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